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おはよう、幼馴染キャラ

 こうして、僕は転生したわけなんだ。だが、これはエロゲの世界への転生、物語は当然自分の都合のよいところからは始まらない。自分の部屋からとかいったようには。

 僕は、気づくと路地に立っていて、周りを自分と同じ制服を着た若者たちが歩いていた。いきなり、知らない場所に放り出される、とてもじゃないが恐ろしい状況だ。幸い、彼らのおかげで学園の方向はわかったので、それについていくことにした。だが、行ったこともない学校、知らない同級生、さらにはこの場面から始まることを見るに転校生という設定でもないことは明らか、不安しかなかった。だが、僕は熟練のエロゲーマーである。この状況でただ不安にさいなまれるのではなく、次に起こることを予測しようとしていた。


(この状況から起こるイベントは、そう多くはないはず。一番よくあるのが悪友に声を掛けられる、次が困っている女学生に遭遇、だが、このパターンは自分が転校生でないことを加味するに、相手が転校生であるパターンもありえる。その場合案内とかできないし、いきなり好感度上げに失敗する。じゃあ、いっそ記憶喪失キャラで行くべきなのか。他にも自分が不幸に会う可能性だって。犬の糞?それとも自動……)


「おはよう、隆村、おーい、おはよう」


考えながら歩いていると、声を掛けられていた。相手は、男性、身長普通、体格普通、顔普通、髪色赤色、髪型オールバック、服装はなぜかワイシャツのボタンを留めず、その下に「うなぎ」と書かれたシャツを着ていた。モテようとしているがモテない、そんな悪友キャラっぽいやつだった。とりあえず、話を合わせることにする。


「ごめん、考えごとしてたわ。おはよう。」


「お前が、考え事だなんて珍しいな、実は俺も考え事をしてたんだ。」


「そうか、お前も珍しいな。どうせ、どうやったら女に好かれるかとか考えてたんだろ?」


適当にカマをかけてみる。エロゲの同性の悪友キャラなんて古今東西こんなもんだ。主人公以上に女に興味津々の異常者のくせにモテない。主人公としては一生仲良くやってける相手というわけだ。


「いや、なんでわかったんだ。これは、もう運命だな。」


そういって、この馬鹿はあろうことか身体を少し寄せてきた。前言撤回、一生仲良くするのは無理そうな相手だった。親友でいたら勘違いされて、襲ってくるタイプの悪友だった。


「お前、朝からきもいぞ」


「いや、こんなの冗談じゃん。」


「お前は冗談で髪を赤く染めるのか!!!」


「地毛だよ、冗談じゃねえよ。」


「そうだったな。」


ふざけた会話から情報を集めていく。頭のいかれたような、普通だったらぶちぎれられるようなきわどい冗談を許されるのもエロゲ主人公の特殊能力の一つである。いや、でも赤色が地毛ってこいつほんとに馬鹿かよ、という言葉はさすがに心にとどめといた。


「いや、じゃあそのウナギはなんなんだよ?」


「よくぞ、聞いてくれた。これが昨日いちばん考えて練り上げた超理論だ。」


いや、こいつが馬鹿なことはもうよくわかった。話を聞くまでもない。


「まず、ひとばんだろ、それにおまえ、超理論の意味知ってて使ってるのか?」


「いやいや、おれを馬鹿にするなよ。これは天才なりの遊び心さ。超理論ってのは俺みたいな、天才が一晩も考えて身につくような、凡人には思いつかない理論だ。」


「いやな、お前が天才って部分を除けば間違っちゃいないだろうが、お前がその意味を勘違いしてるのだけはよくわかるよ。」


「じゃあ、どういう意味だってんだよ。」


「超理論ってのは、理屈がそれ言ってる本人以外にはわからないような無茶苦茶な理論のことだよ。」


「つまり、お前らのような凡人にはそう見えるんだろうさ。」


「もうそういうことで良いよ。」


僕は、がっくり肩を落としあきらめた。おいおい、こいつが親友かよ。これはさすがに外れもいいとこだろ。これじゃあ、ただのお守りだ。心の中ではそう思っていたのだった。


「朝から、達明のお世話、ご苦労さん。おはよう、隆村、達明!」


後ろから、元気のよい女の声が聞こえる。仲の良い男二人を下の名前で気さくに呼ぶ、これは幼馴染キャラまたは、男女どちらとも仲の良いタイプの社交的な子のどちらかにちがいない。だが、こういうタイプにギャグじゃない失礼を働くと本当に傷ついてしまうのである。エロゲ主人公たちは何度もこういう過ちを犯してきた。そして僕は、その多くを画面越しに眺めてきたのである。つまり、名前がわからないなんてことはあってはならないのである。僕は、ふざけた調子で隣のバカに聞いた。


「おい、あいつの名前なんだっけ、どわすれしちゃって。」


「大喜利でも、始めるのか?ウメコだよ、ウメコ。」


「おはよう、ウメコ。」


「おはよう、プフッ……」


僕と達明は、挨拶をした。だが、隣からは達明の何やら笑いをこらえたような声が聞こえてきた。そして、走っているような足音が聞こえてくる。僕はとっさにうしろを向いた。何やら黒い物が眼前に迫っていた。そして何も見えなくなるのと、同時に顔は熱くなり、頭の上に星が散っていた。


「おまえ、ほんとバカだろ……」


達明の声が聞こえた。そして、僕は理解した。僕は騙されたのだと、そして幼馴染キャラ幼馴染キャラにカバンで殴られたのだと。だが、僕に何か文句を言ったり、仕返しに殴ってやるような気力は残っていなかった。

 遠のく意識の中で、女の子の謝る声が聞こえた気がした。冷たいアスファルトを感じていた右の手のひらが、突然柔らかい物に包まれた。心なしか、花のような柔らかいいい匂いがするような気がした。だが、それらの感覚もだんだんと薄れていく。真っ暗の頭の片隅に、四角い闇の右下あたりに、白い文字がゆっくりと浮かんでいく。B、そしてA、もう何も考えられなかった。D、一字分空白を開けてE。並ぶ文字は、BAD E、突然、画面のような闇が明滅する。それと同時に頬に痛みが走る。まだ、僕は痛みを感じるのか、僕はそんなことを考えた。


(え、ちょっと待てよ、考えられるじゃん。あれ、おかしくない?)


そして右下に浮かぶ文字に目を向けた。


BAD EN


(いや、これBAD ENDじゃん。おいおい、まだ死んでないって。)


 僕は、そして目を開けた。眩しくはなかった。


「綺麗だ。」


 僕は、そんなことを口走っていた。目の前には、金髪が降り注いでた。それが、薄いヴェールのように目の前にいる女の子の顔を隠そうとしているようだった。だが、揺れる金髪の間から垣間見える血色の良い唇も、黒い瞳も、とても綺麗だった。そして、僕はもう一度、一度目よりもはっきりとした口調で繰り返していた。


「綺麗だ。」


突然、金色のヴェールは激しく揺れ、美しい顔と一緒に僕の顔から離れていった。


「何言ってんのよ、もう……」


消え入りそうな小さい声だったが、それは間違いなく幼馴染キャラの声だった。


「大丈夫?」


赤くなっている顔を僕のほうにむけないようにしながら、ぶっきらぼうな、でも消え入りそうな小さな声で心配しながら、幼馴染キャラ柔らかい手を差し出してきた。

 それが、僕の初めて見た名前も知らない幼馴染の顔だった。僕は、手をつかみ立ち上がる。そして、エロゲ主人公らしく、朴念仁を装いこう言った。


「ありがとう、顔赤いけど大丈夫?どうした?」


そして、バカのほうに近づき、一発ボディーを軽く食らわせて抱きとめながら、耳音で囁く。


「それで、名前は?」


「染谷愛莉だよ、悪かったって、でも本当にどうしたんだよ?」


「実は、記憶喪失みたいなんだ。学園にかかわることがどうも抜け落ちているみたいで。みんなには内緒にしてくれ。」


「わかったよ、意味わからないけど。」


「ありがとう。」


そういって、僕は達明から離れようとするが、引き留められる。


「少し待てよ、俺は、達明、坂本達明だ。一応、お前の親友だ。」


そして、突然声が大きくなり、体を突き放される。


「痛いなー、お前。冗談だろ、ただの……。」


僕もそれに合わせる。


「僕もお前に合わせてふざけただけだったんだよ、でも一発顔にもらったからな。共犯者としての義務だ、これは。」


「もう、あんた達は……。ごめんね、隆村。」


「気にすんな、バカが悪い。」


「バカって誰のことだ、自分のことか?」


達明という男は、いい奴のようだが、少し調子に乗りやすいようだった。


「隆村、ありがと。もう学校行こう。」


「そうだな。」


僕らはこうして、学校に向かったのだった。


 そして道すがら、僕は達明に色々な僕のことを教えてもらったのだった。あいつは、本当にいいやつだ。だが、それよりも、愛莉は本当に可愛かった。さすが、エロゲの世界だと思わされたよ。これまでの人生が馬鹿らしくなるくらいだった。実際、近所にも、学校にもこんなかわいい子はいなかった。自分が学生になっていることよりも何よりも、彼女の可愛さに僕はエロゲの世界に来たという実感を得たんだ。じゃあ、なぜ朴念仁のふりをしたかって?それは、ここがエロゲの世界だからだ。他にもヒロインたちはいるんだ。つまり、愛莉みたいに可愛いくて、僕が知り合う運命にある女の子たちが何人もいるわけだ。なら、まだ攻略ヒロインを決めるには早かったわけさ。それに死神の言っていたハーレムルートっていうのも、少し気になっていたんだよ。

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