神の戦士
読んで下さる方がいて感謝しています。
四大精霊の力が弱っています。緩やかな変化なので人々は気付いていませんが、大地も水も空気も緩やかに汚れつつあります。
私は神気を感じ精霊の力を見ることが出来るので幼いころより神聖アポルニア王国にあるマーダリヒ協会の本部で教育されて聖女となりました。両親のことは覚えていません。
ですが寂しいと思ったことは一度もありません。厳格な秩序と規則正しい生活、優しい神官達、教会を訪れる善良なな人々。
神に祈りを捧げ、傷ついた人や病に苦しむ人を魔法で助け、子供達に読み書きや神の御心を教える充実した日々、私はそれがこれからもずっと続いていくと思っていました。
王都から離れた村で疫病が流行りました、国境近くでは隣国との小競り合いで畑が荒れ、辺境の町や村でも水害や強風による被害者も多く出ているようです。
教会上層部の見解では神の加護が少ない辺境の地だから不幸に見舞わられているのであって教会本部のある王都や教会は何の心配もないというものでした。
しかし王都でも軽犯罪の増加や裏組織による悪質な人身売買、貴族や聖職者の腐敗などか頻発しています、国全体でも少数民族や善良な亜人たちへ差別や迫害が徐々に増え、それに伴ない人々の心から余裕や優しさが失われているようです。
そして本当に少しずつですが農作物や家畜の育ちが悪くなったり季節の移り変わりがズレていたりと、世界が良くない方向に向かっているように感じます。
春の訪れを祝うコノハナ祭の日になりましたがまだ肌寒く、お日さまの光が恋しく思います。そして私や王国の人々を不安にさせる出来事が起きました。
毎年コノハナ祭の時に訪れるホーリードラゴンのファルナ様が来なかったのです。私は神殿の奥にあるソルテ様の紋章の部屋で祈りを捧げ神託を得ようとしました。
神気が薄い!?四大精霊の力が弱っていることは分かっていましたが、火の精霊の力が危機的に落ちています。神託を得ることが出来ずファルナ様が来られない事に関係があるに違いありません。
私は原因を調べるため火の精霊の憑代、焔の聖杯のある祠へと向かう事にしました。護衛として神官騎士で1番の実力者のレイモン=ローラン様、王国から若手ながら武勲を挙げ騎士団長に抜擢されたギャバン卿率いる精鋭の騎士団がつけられました。教会上層部も国王様も事態を重く捉えているようでした。
馬車に揺られて3日、東の森に辿り着きました森を抜けると火の精霊の祠です、ここからは馬車と騎馬は無理なので徒歩での移動になります。
森を進むとゴブリンが襲ってきました、護衛が精鋭なので軽く撃退しましたが、コボルト、オークを含めて亜人たちが間髪入れずに襲いかかってきます。後方からゴブリンメイジ8体を含めた大軍が迫ってきました。
「私が奴らの相手をする!みんな先に進んでくれ!」
魔法に耐性のあるレイモン様が敵を引きつけている間に先を急ぎます。森を抜けて火の精霊の祠が見えてきました、すると突然目の前に三体のアイアンゴーレムが現れ、物陰から多数の亜人兵が襲いかかってきたのです。
護衛の騎士団が私の周りを囲みます。すると突然、頭の上に赤いマントを身につけた仮面の人物が現れ黒い布を被せられました。
被せられた布はすぐに取られ、目を開けると私は牢の中にいました。え!?今の布は瞬間移動の魔道具?ここは一体?
赤いマントの人物が仮面を外すとその顔には見覚えがあります。兄を殺害しローイワ子爵家の家督を得ようとした罪人のズクロヤ、その隣に立つのは悪事に加担し教会を追われたザクマナ司祭。2人はいやらしい笑みを浮かべて私を見ています。
「聖女アーシア様ご気分はいかがですかな?その牢獄には呪いがかけてあり魔法を使えば激痛が走るようになっております故、抵抗は無駄ですよ」
「火の精霊から力を搾り取りホーリードラゴンも封じております。後は聖職者の血と命を捧げれば古の魔神より大いなる力を授かることができるのです」
「ヒヒヒヒやはり生贄には清らかな美女が最適ですな、護衛の皆様もそろそろアイアンゴーレムと亜人兵共に始末されていることでしょう」
いやらしく笑いながら2人は出て行きました。私は暗い牢獄に1人邪悪な儀式の生贄になるのをただ待つだけ。魔法も使えず、精霊の力や神の気配を感じる事も出来ない無力な小娘です。涙が溢れそうになりましたが泣いてしまうと心が折れそうなので堪えました。
やがて階段の上のドアが開き男が2人降りて来ました2人とも黒いフード付きマントと仮面をつけていて顔が分かりませんが私を生贄にするため連れて行くのでしょう、体の震えが止まりません。
突然、男の1人がもう1人を何かの技で気絶させました。そして牢の扉を開けて仮面をはずし私を牢獄さから優しく出してくれたのです。すると彼から強い神気を感じました、ホーリードラゴンのファルナ様と同じくらいかそれ以上の神気です。神の使者に違いありません。
使者様はケン カガミと名乗られました、神の暮らす聖地カガミを性に持つケン様はやはり神の使者でしょう。ただ聖地から来られたばかりのようで、あまりこの世界の事を把握していないようです。
外に出るとレイモン様や騎士団の皆さんは怪我ををしていますが無事のようです、ギャバン卿は負傷のため戦線を離脱したようです。騎士団は危機に落ち入りましたがケン様に助けれてここまで来れたそうです。
とりあえず治癒魔法で騎士団の怪我を治療しました。ケン様は私の身の安全を考え一旦引き返す事を提案しましたが、そろそろズクロヤは私が逃げた事に気付いたころです。だとしたら切迫詰まり、ザクマナ司祭を生贄にする可能性が高い。事態は一刻を争います。
レイモン様の魔法で罠を解除しながら崖下に隠された遺跡を進むと魔法陣が描かれ、それに焔の聖杯から力が注がれていました。まずい!儀式が完成してしまう、止める間もなく魔法陣の中心に拘束されたザクマナ司祭にアイスランスの魔法が放たれ彼の胸を貫き大量の血が流れました。
魔法陣から大量の瘴気が溢れ出し、焔の聖杯から、より多くの魔力が奪われていきます。もうダメだ!と思ったその時、ケン様が瘴気を物ともせず魔法陣の中心に走ると焔の聖杯に左手の神器をかざし、光を当てました。すると聖杯が割れ、火の精霊が解放されたのです。
魔法陣の作動が止まり間に合ったと思った時、ザクマナ司祭の遺体が起き上がり、ズクロヤとその配下を異形の者に変え自身も黒山羊の頭と3つの目、凶々しい翼を持つ化け物に変身したのです。
あれは!50年程前に商業都市オーミで悪しき魔導士に召喚され、一週間で周辺の町や村を焼き払ったと言われる魔神ダウナー!追い詰められたズクロヤとザクマナ司祭は心の弱さをダウナーに利用され、復活するための手駒にされたのです。
ダウナーの眷族が襲いかかって来ました!ケン様はなんとか互角に戦っていますが、レイモン様と騎士団は私の補助魔法を全て使っても劣勢です。このままでは保たないと思ったその時、ケン様の神気が膨れ上がりました。
ケン様は短い呪文を唱えながら両手で印を描いていきます。
「コロナフュージョン!」
あれは!太陽神ソルテ様の紋章!
「コネクト!」
ケン様が両拳を合わせて叫ぶと紋章が光を放ち眩い光に包まれました、そして光り輝く
全身鎧に身を包んだ戦士が現れたのです。
「太陽戦士ソルテラス!」
ケン様いえ、ソルテラス様は声高らかに名乗りを上げました。太陽神ソルテ様の名を授かり神聖な光輝く鎧に身を包むその姿と強力な神気は正に神の戦士。
対峙する眷族とレイモン様を追い詰める眷族を体術で倒すと、残りの3体が一斉に襲いかかります。
「プロミネンスソード!」
光の剣を抜き放ち一閃すると3体の眷族を簡単に斬り捨てました。そしてダウナーの破壊光線を鮮やかな体術で躱し間合いを詰めて斬り合います。
光の剣で切りつけても結界と超回復でダウナーは倒れません。ソルテラス様は猛攻で相手の体勢を崩し光の剣をかまえます。
「バーニング・フレア・スラァァシュ!!」
光の剣が眩い光を放ちダウナーを切り裂き魔神は光の粒子に飲み込まれ消滅しました。
そしてその跡には太陽神の紋章が刻まれていたのです。
崩れる遺跡から脱出するとファルナ様が飛んできました。ダウナーが滅び、火の精霊が解放された事により封印より解き放たれたようです。ソルテラス様を太陽の神殿に招くため、ソルテ様の命で迎えに来られたそうです。
ファルナ様が飛び立ち見えなくなるまで私たちは跪き祈りを捧げ見送りました。もうすぐ日が暮れますが風が暖かくかんじます。
どんなに世が乱れて辛く悲しい事があっても神はいるのです、救いはあるのです。
王都へ帰り報告をして、これからより一層神に感謝して御勤めに励むことを神の戦士と聖なる龍が飛び去った夕陽に誓うのでした。
次回から加賀美 剣の異世界生活スタートです。




