聖女救出作戦
荒れ地を抜けると足下が崖になっている。
下には草原が広がっていて崖の真下に神殿の遺跡がある。崖をグルッと周ると下に降りて遺跡に行けそうだ。
だが崖の高さはおよそ20メートル程度、遺跡の1番高い所が10メートルあるかないかか。
崖は手足を掛けられそうな突起もあるし俺だった崖から遺跡に侵入出来そうだ。
「ところで、あんた何者だ。腕は確かなようだがなぜ我々に協力する?」
騎士の1人が質問してきたが自分が何者なのかは俺にも分からないので。どうしようもない。とりあえず名前だけでも名乗っておいたほうがいいかな。
「彼が何者かなどは些細な事だ。彼の属性は今まで見たことも無いような善、信用に足る人物であることは間違いない。失礼だとは思ったが、人物鑑定の魔法を使わせて貰った」
レイモンさんが言ったけど、なにそれ?もしかして俺が何者かわかるの?だったら教えてほしい。
「ああ、心配しなくても細かいところやプライベートな事まではわからない。ただ君が善良で力があり、何らかの使命を受けてこの地に来たということは分かった、それだけだ」
「レイモン殿は神官騎士なので治癒魔法、補助魔法、鑑定魔法が使えるのだ」
若い騎士が説明してくれた。団長以下7名は王国の騎士でレイモンさんは聖女の専属で教会から派遣されているらしい。
団長が戦闘不能の為、指揮は1番身分の高いレイモンさんがとるらしい。団長の骨折は
レイモンさんの治癒魔法では治せないみたいだ。
作戦は単純で騎士団が陽動として正面から突入し、俺が崖の上から遺跡に侵入し聖女アーシアを救出する。
作戦開始だ、騎士団が迂回路を通り草原から遺跡に向かって進軍していく。俺はボルダリングの要領で崖を降りて行き、中間くらいまで降りた所で遺跡の屋根部分に飛び移る。
騎士団はまだ遠いが見張りの犬男が気付いたみたいで遺跡内の1番大きな建物に入って行く。こちらには気付いていないようだ。
俺はインテリスターを見てみる。よっしゃ!矢印出ている。正直、出てなかったらどうしようかと思ってた。
遺跡の屋根から柱に飛び移り、犬男が入って行った1番大きな建物の上に飛び乗って姿勢を低くする。この位置なら下からは見えないから体勢を整えるにはちょうどいい。それにインテリスターの矢印が示すのはこの建物の中だ。
数人の犬男が建物から出て行きそれぞれ遠吠えをしながら走り回る。どうやら伝令のようだ。小鬼や豚男も出てきて迎撃体勢を整えていく。
全部で30人位か、これだけならレイモンさん達なら大丈夫だろう。様子を見ていると犬男が伝令に入った小屋から黒マント達が出てきて俺が屋根に潜んでいる建物に入っていく。どうやらここが本部のようだ。黒マント達はみんな目のところだけ穴の空いた白い仮面をつけている。
全員が本部に入ったと思ったら1人大慌てでマントと仮面を着けながら小屋から出て来た。何処にでも鈍臭い奴はいるんだな。
あれ?他の黒マントはもう中にいるし、怪人たちは迎撃に行ったよな。もしかしてチャンス?
俺は、タイミング見計らい黒マントが壁沿いを通り抜ける瞬間に屋根からそいつの背後に飛び降りチョークスリーパーを決め絞め落とす。本当にこの技、便利だよな。
黒マントと仮面を拝借して本部にスミマセンポーズで入って行く。さすがに声出すわけにはいかないよな。広間になっていて正面にキリスト教の神父が着るみたいな服を着た白髪が目立つ中年男性、その横には赤マントに身を包む金髪で目つきの悪い男が立っている。その前に黒マントが5人膝まづいている。
俺は急いで黒マントの列に並んで同じように膝まづく。
「おそいぞ!ノロマ!」
先輩らしき黒マントに怒られて、やっぱりスミマセンポーズで謝る。さすがに怪しまれるかと思ったら、タイミングよく赤マントが話しはじめた。
「騎士団がこちらに向かっている。マシマーが討ち取られたようだ。亜人兵を迎撃に向かわせたが時間の問題だろう」
「あのアイアンゴーレムを使役出来るゴーレムマスターが王国騎士ごときに敗れたというのですか!」
「彼方には神官騎士のレイモンがいる、補助魔法での援護があったのでは!」
「レイモンは亜人兵を分散させて本隊とは引き離したはずだ!」
「マシマーは我等の最大戦力!もう駄目だぁぁ!」
黒マント達が騒ぎ始める。雑魚まるだしだな、それにしても格好といい、人員構成といい分かりやすい悪役たちだ。前の2人が幹部で黒マントが構成員、怪人軍団が戦闘員といったところか。
怪しまれないように無言で狼狽えてますよアピールをして黒マントの一団に溶け込んでいると、神父ような男が一喝する。
「鎮まれ!!」
「亜人兵どもが足止めしている間、早急に儀式を行う。力さえ手に入れば騎士団など恐るに足りん」
赤マントが指示を出して広間が慌ただしくなり、それぞれが持ち場に付いていく。
「おい!ボーっとしてないで急げ!俺たちは聖女の係りだろ!地下牢からつれだすぞ!」
ラッキーっていうか、さっきから都合良く話が進み過ぎじゃないか?ご都合主義に近いものがあるぞ。台本あるんじゃないだろうな、色々ベタだし。
さっきノロマって俺を罵った先輩に連れられて、広間の奥の扉を開けると石畳と石壁の暗い通路だ。先輩が持つ蝋燭の薄明かりが雰囲気あるねー。
先輩が壁に掛けてある鍵を取って、通路の奥にある階段を下って行くと正面に牢がある。
そろそろいいかな。いつものようにチョークスリーパーで絞め落とし、牢の中を見ると1人の美少女がいた。
綺麗な水色の髪と瞳、整った顔立ち、歳は高校生くらいかな。体つきは少し華奢だが、タレントオーデションを受けたら容姿だけで最終選考まで楽勝なクオリティだ。
鍵を開けて牢からだすと、聖女は俺に膝まずき両手を握り合わせ祈る姿勢になる。
「ありがとうございます、神の使者様」
へっ・・・・?なんだって!いやいや助けられて嬉しいのはわかるけど、いきなり神の使者だなんてリアクションに困るようなことを言わないでもらたい。
「神気を身に纏っていらっしゃるもの。神の使者様以外の何者でもないはずです」
色々言いたいが今はそんなことを気にしている暇はない。ここを脱出しなければ、しかし出口はさっきの広間通るしかないな。いつまでも上がらないと怪しまれるし。
「使者様、彼らは祠より持ち出された火の精霊様の憑代と私の命を使った邪法を用いて強大な力を手に入れようとしています。どうか火の精霊様を解放していただけないでしょうか」
そういえばその指示も出てたよ。忘れてたわけじゃないよ・・・・・・
インテリスターはインテリ・スターではなくてインテ・リスターです。




