吸血鬼狩り
女は意識を失ったままだが血色は良くなっている、男は砂のように崩れて残骸と着ていた服だけが残っている。ハッシャは騎士の顔付きになり巡回している兵士に指輪を見せて叫ぶ。
「第3騎士団のハッシャ モーリだ!下町に吸血鬼が現れた、討伐は完了している!至急警備隊に連絡し警戒態勢を!尚被害者の吸血鬼化は無い!それと教会にも連絡だ!」
酒場や宿屋から出てくる野次馬を駆けつけた兵士が抑えているまだ少女の神官と若い神官騎士が走って来た。2人は吸血鬼の残骸と女を調べハッシャに聞く。
「極めて高度な聖魔法での討伐と治療が行われています、旅の司祭か高位の冒険者がいたのですか?」
聖魔法だって?俺、吸血鬼には触っただけだし女にも傷口に気合い注入しただけなんだけど。やっぱり神気ってヤツかな?ドラキュラが十字架に弱いみたいに吸血鬼は神様に弱いのかな。
「いや!そこにいるケンがやったんだが、彼の素性は大司教様の客人と言う以外はよく分からないんだ」
ハッシャ君、ややこしい事は大司教様に丸投げしたね。でもよく考えてみたら俺の事って教会のトップシークレットなんじゃないだろうか。深く追求される前に上層部にアポ取った方が良いかもしれない。
「至急、大司教様か聖女アーシア様に連絡を入れて下さい、ケンが吸血鬼の事について報告があると」
「分かりました、恐れ入りますがその女性と共に教会本部まで御同行願います」
女を背負い教会本部までの道を急ぐ、本部に着いたら、昨日大司教の横にいた白髪の女性が出迎えてくれた。
「ケン、お話を聞かせていただきます、マリエとカークスはその女性が意識を取り戻したら事情聴取をお願いします」
とりあえず教会本部の客室に通され白髪の女性と対面する、背筋が伸びていて綺麗な顔立ちなので老婆という感じではない。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はアーシアの先々代の聖女をしておりましたクリスティーナと申します、今は神官学校の校長を務めております」
うん、たしかに校長先生ってイメージにぴったりだ。アーシアの先々代ってことは間にもう一人いたって事だよな。そんで聖女って敬称じゃなくて役職なんだ。
「とりあえず女性から事情を聞いてから対策なり立てないといけませんね、ところで吸血鬼のいる方に走って行ったそうですがどうやって存在を察知したのですか?」
「夜道をハッシャと歩いていると妙な気配を感じてインテリスターを見るとメッセージが出てその方向に行くと現場に出くわしてしまったんだ」
インテリスターを見せるとクリスティーナは目を細めて、何か視覚以外で見ているように見ていた。
「これは神器ですね、貴方の神気に反応して様々な啓示を示すもののようです」
そういえば一度も使っていないけどマップ機能とかあるんだよな、出してみようか。
「王都の地図と吸血鬼の居場所」
ダメ元で言ってみたら王都全体の地図が表示されてアチコチに赤い○印が出ている。○印が吸血鬼なんだろうけど凄い数だ、下手すれば3桁かもしれない。
「・・・・これは早急に対処しなければなりません、夜の吸血鬼はここにいる神官や神官騎士では手に負えないので明日の早朝から捜索及び討伐を開始します、御協力お願い出来ますか?」
「ああ、噛まれたら吸血鬼になって広がるんだろう一刻を争う事態じゃないのか?」
「準備が必要なんです今、国王にも事態を報告して、国家非常事態として神官騎士、騎士団、兵士に召集をかけ早朝に行動を開始します、ケン様は感知魔法の使い手として作戦に参加してもらえるとありがたいです」
インテリスターのタブレットや表示は、神気を感じる人間にしか見えないので感知魔法とすれば違和感がないそうだ。
「ケン様は神気が強すぎて一瞬で吸血鬼を滅ぼすので余程でなけるば感知作業に専念した方が良いでしょう、万一の時にだけ神気をお使い下さいませ」
部屋がノックされマリエとカークスが報告に来た。女は娼婦で男は馴染みの客だったらしい、先週までは普通の陶器職人だったが昨日突然、娼館からから連れ出され血を吸われたらしい。
「特に怪しい事はありませんでした、ところで明日の討伐作戦には参加させていただけるのですか?」
「カークスは討伐部隊に参加して下さいマリエは後方支援で治癒担当です」
マリエは討伐部隊に参加出来ないことが不服そうで明らかにガッカリしていた。どう見ても戦闘向きで無い、大人しそうな女の子なのに何か事情があるのだろうか。そういえば俺が吸血鬼と遭遇した時に真っ先に駆けつけたな。
教会内で仮眠を取り早朝から作戦が決行された。まず騎士と兵士が街道と城門を閉鎖し一般人の外出を禁止する。そして俺が感知魔法で(インテリスターなんだけど)吸血鬼の居所を特定する。
発見した吸血鬼は神官の聖魔法と神官騎士の魔法補助を使った武器での攻撃で討伐する段取りだ。俺は教会本部に雇われた感知魔法使いという役割になっている。
いよいよ討伐開始だ、インテリスターで捜索して廃屋にたどり着く。俺はまず廃屋の屋根に登り窓を覗くと全ての窓が分厚いカーテンで閉ざされていた。インテリスターで詳細な位置を調べ近くの窓、扉の位置を確認してから後は不意打ちと速攻だ。
全ての窓、扉を開け放ち神官達が聖魔法をそこから放つ、眠っていた吸血鬼は聖魔法のダメージで動け無いか、動けても鈍い。
「ホーリーブレイド!」
すかさず呪文を唱えて剣に光を纏わせた神官騎士達が斬りかかると吸血鬼は砂の様に崩れていった。一体倒すのに魔法剣で3、4回斬りつけてるな、触れただけで滅ぼす神気って規格外すぎるな。
廃屋の吸血鬼11体を討伐すると次だ!同じ要領で砦の地下牢、商店の倉庫と順調に片付けていく。神官と神官騎士は疲れたら交代するローテーションを組んで効率的に討伐していく。騎士団と兵士も住民の誘導や門、街道の警戒で大忙しだ。
インテリスターを再度見てみると吸血鬼に動きがあった、廃屋や倉庫に隠れていたグループがまとまって移動を開始している。貴族街の屋敷だ、マップを商工地区、下町中心に開いていたがこの屋敷に多くの吸血鬼が集結している。
「この屋敷はキュリー伯爵家!まさか貴族が吸血鬼なのか?いや・・・確か現キュリー伯爵はアンデッドや特殊魔石の研究者だったはず!故意か事故かは分からないが研究により吸血鬼化した可能性はあるな」
交代要員を連れて討伐隊に合流したレイモンさんはそう呟く。そういえば大工の棟梁が伯爵や男爵が窓一つ無い地下室付きの屋敷をリフォームしてるって言ってたな。
俺が伯爵家に向かう集団の移動ルートを報告すると討伐隊の皆さんはチーム毎に分かれて個々に撃退している。見事なチームワークだ決定力を持たない騎士と兵士も足止めや陽動で大活躍だ。
やがて伯爵家にたどり着くインテリスターを見ると、え!反応が消えている逃げられたか?扉を開けると真っ暗だった、神官騎士が明かりの魔法を唱えると蛍光灯で照らしたみたいに明るくなった。
窓一つ無い他は普通に豪華な屋敷だ。こんなのは撮影セットのハリボテか本やテレビでしか見た事がない、これがお貴族様のお屋敷か凄いな。とりあえず地下室があるはずだからそれを捜すか。
地下室はアッサリ見つかった隠す気は無いのかもしれない、降りると研究室そのものだった。様々な研究機材、本棚や机にたくさん資料、床に転がってる大量のミイラ。
ん!?ミイラ?しかも牙がある!なんで吸血鬼のミイラがこんなに・・・・レイモンさんが一番豪華な服を着たミイラを調べる。
「これは、キュリー伯爵!やはりこの事件は彼の仕業か!」
事故なのか故意なのかは分からないがこれでこの事件も解決に向かうだろと思ったら、インテリスターからメッセージが。
「隠し部屋に生存者あり」
大きな机をズラすと階段があり、さらに地下に牢獄があって中年の男性が鎖で繋がれている酷い拷問を受けていたらしく衰弱している。どうやら人間のようだが虫の息だ。
調査を進めるレイモンさんに一声かけ、救護班の元へ男性を背負い走る。
「すまない!すぐに治療を頼む!死にそうなんだ!」
俺が救護室に駆け込むとマリエが男性を見て驚いて駆け寄ってきた。
「お父様!」
え?まだ何か秘密があるの?
レイモンさんは神官騎士のNo.2です。




