突然の災厄
ソーラーアーマーの装甲は耐久力の限界値を超えエネルギーも尽きようとしている。
「傷ついたソーラーアーマー、枯渇した太陽エネルギー。もはやここまでだなソルテラス!」
暗黒神アザトーデウスの勝ち誇った声が響き渡り、トドメの一撃がソルテラスの肉体をソーラーアーマーごと貫く。
「ぐあぁぁぁぁーー!!」
「終わりだぁぁーー!!」
その時、ソーラーアーマーが輝きを放ちアザトーデウスを包み込んでゆく。
「バカな!エネルギーは残っていないはず!ソーラーアーマーにそのような機能は無いはずだ!!」
ソルテラスは破損した頭部装甲を剥ぎ取り血に濡れた素顔で叫ぶ。
「アーマーの性能やエネルギーなど関係ない!
この輝きは地球の人々の願い!愛する人の思い!そして俺の魂だぁぁぁぁーー!!」
「ファイナルゥゥゥ!サンシャイィィィーーーン!!!!」
ソルテラスとアザトーデウスが輝きに包まれ、暗黒空間を浄化してゆく。そして太陽系を覆い尽くす闇が無くなり地球に再び太陽の光が降り注ぐ。
「ソルテラス《加賀美 剣》の魂の輝きで、地球が暗黒の世界に飲み込まれることは阻止することが出来た、だが彼は死んでしまったのだろうか?
いや!彼の魂は太陽の輝きとなり僕等を照らし続けるだろう。ありがとう加賀美 剣!太陽戦士ソルテラスよ永遠なれ!!」
オープニングテーマのフルコーラスと共に名シーンのダイジェストをバックにスタッフロールが流れる。特撮専門チャンネルのオリジナルドラマ「太陽戦士ソルテラス」の最終回だ。
俺は主人公、加賀美 剣役の俳優でソルテラスのスーツアクターも兼任する玉置 大地。総監督の八島 次郎さん、ナレーションを務めるベテラン声優の中野 流星さんと共に中野さんの自宅リビングで最終回の原盤コピー見ていた。一般放送は二週間後だ。
太陽戦士ソルテラスはジャンルとしてはメタルヒーローもので、主人公が強化装甲服ソーラーアーマーを身に纏い人類の敵と戦う特撮ドラマだ。
低予算ながら王道でベタな設定とストーリー、工夫を凝らした特撮とカメラワーク、少々やり過ぎ感のあるアクションとスタントで人気となり全24話だったが続編を望む声が高く4期まで放送してソルテラスの死をもって完結となった。
「玉置君、国内の仕事のオファーも増えてるみたいだね。芸能リポーターのインタビューも落ち着いたみたいだし内川さんとの仲も公認になったから色々安心だね」
「この世界先が見えないから安心は出来ないですよ、今は順調でもいつまでも仕事があるとは限らないですから。日奈子との結婚も中野さんの後押しが無かったら二の足踏んでましたし」
体をはったアクションと過激なスタントが評価された俺は、去年アメリカのテレビドラマ「ワールドブレイブス」に出演した。世界の危機に世界各国の英雄が立ち向かうヒーローものでアメリカのガンマン、フランスの騎士、イギリスの魔法使い、マサイの戦士、中国の格闘家、そして俺が演じるジャパニーズニンジャが巨悪に立ち向かう。人気は上々で二期を望む声が高まってる。
そしてソルテラス第2期でヒロイン役として共演したアイドルグループ「shining7」の
内川 日奈子との結婚も決まり、婚約発表も日奈子の引退会見も先月すましている。
「それにしても、大ちゃんも出世したもんやわー。俺の目はやっぱり確かなんやなー」
「次郎さんに目を掛けてもらえなかったら俺はまだ一介のスタントマンですよ。本当に感謝しています」
「玉置君はヒーローに憧れて殺陣や本格的な武術を学び、スタントマンとしても訓練を重ねたんだろ?八島監督が君を主役に抜擢したのは切っ掛けだけど、夢を叶えたのは君の努力だよ」
「それにしてもソルテラスの三期終わってすぐアメリカでワールドブレイブス撮影やろ。帰ってすぐ4期撮って、すぐにドラマや映画、バラエティのゲストで大忙しやなー、日奈子ちゃん放ったらかしてないやろうな」
「ちゃんとスケジュールの合間にデートしてますし、ご両親への挨拶も結納もすましてます。結婚準備も2人で相談して滞りなく進めてますよ。」
「ハハハ、式の司会進行は任せてくれたまえ。内川さんも交えて式のの打ち合わせもしないとね」
「ありがとうございます」
中野さんと奧さんに見送られて次郎さんの車で日奈子のマンションまで送っもらう。
「大ちゃん、またお伊勢さんにお参り行ったんやろ、ほんまに信心深いなー」
「お婆ちゃんが信心深くて毎日参ってたんですよ、学生の時からランニングコースに組み込んで俺も毎日参ってましたけどね」
実家は三重県伊勢市のおはらい町にある土産物屋、ヒーローになる為のトレーニングの一つである早朝ランニングの時に、毎回参拝していた。思えば俳優として仕事が出来るのも日奈子と結婚出来るのも御利益かもしれないな。
俳優業で東京に出てからも実家に帰ったら必ず内宮に参拝している。実家もお伊勢さんあってのものだしソルテラスが太陽戦士で太陽エネルギーで戦う設定なのも天照大神と縁があると思うからだ。
「儂、ホンマはソルテラス殺して終わらすつもりは無かってん。せやけど大ちゃんも有名なってオファー増えたし、儂も監督、脚本の仕事ようけ抱えてしもたしなー、せやから続編の未練断ち切るためにあのラストにしてん」
「俺もソルテラスには思い入れありますよ、憧れのヒーローになれたし、出世作ですからね。」
「日奈子ちゃんとの馴れ初めもあるしな」
次郎さんと他愛もない会話をしていると俺のスマホにSNSの着信がきた日奈子からだ。
「次郎さんスーパー寄ってもらっていいですか?ニンニク切らしたみたいで買ってきて欲しいみたいです、晩飯いっしょにどうぞって」
「ほんなら、よばれようかな。イオノモール近いからそこでええやろ」
午後4時前のイオノモールは日曜日という事もあって賑わっていた。何人かは芸能人の俺に気付いたみたいだが、ありがたいことにスルーしてくれている。
屋上の駐車場から一階に降りてモールとイオノを繋ぐ中央エントランスを歩いていると
突然、派手にガラスの割れる音が響き渡り建物内にSUVが突っ込んできた。
事故かと思ったが、助手席から両手に刃物を持った男が降りて来て奇声を上げる。
「休日にショッピングにお食事に映画かよ!てめえらリア充や幸せ家族にクズの気持ちが分かるかー!楽しい休日なんざ一瞬で地獄絵図に変えてヤラァァァー!!」
そしてSUVは正面の親子に向かってアクセルを踏み込んだ。
「危ない!!」
俺は親子を体当たりで突き飛ばし、なんとか暴走車から助けることができた。子供が泣いているが大丈夫だろう。そして別の子供を追いかける刃物男にダッシュしてタックルで倒した。
刃物男が振り回す包丁を躱すとSUVが進路を俺の方に向ける。
二人共邪魔をした俺をターゲットに決めたようだ、刃物男とSUVに挟み討ちになる。
まず刃物男が両手の包丁を振り回して走ってくる。アクション俳優ナメんなよ!デタラメに振り回す包丁を躱し、相手の顎に掌底を突き上げ動きが止まったところで水月に正拳突きを叩き込む。男が悶絶てし落とした包丁は人のいない所に蹴り飛ばす。
SUVが急発進で突っ込んできたがジャンプしてボンネットに転がりルーフレールに掴まる。ラッキーなことに助手席のドアにはロックがかかっていなかった。
ドアを開け助手席に転がり乗って運転手の顔面に蹴りを入れ、運転席のドアを開けて叩き落しSUVを停止させる。
刃物男と運転手がガードマンと買い物客に瞬時に取り押さられ、安堵の溜息をついたとき側頭部に冷たい感触が・・・・
「てめえ!ヒーロー気取りかよ!せっかくの殺戮ショーが台無しじゃねーか!死にやがれ!」
後部座席に潜んでた男が俺の側頭部に拳銃を発砲し、俺の意識は凄まじい衝撃と共に途絶えた。
俺は死んだのか?薄っすらとした意識があるが肉体の感覚が無い。
死後の世界に向かうのだろうか?まだまだこれからだったし、やり残したことはあるけど精一杯生きたよな。
そんな事を考えていると、途切れ途切れだが女性の声が聞こえてくる。
「なんとか・・・・けど・・そんなに・・ない・・・もう・・・せかいの・・・たすけて・・・そうすれば・・・かのじょ・・・ふたりなら・・・ことができる・・・・・・あなたなら・・・・・・」
俺の意識は眩しい光に包まれ徐々にハッキリとしていき肉体の感覚も戻ってきた。