ゴブリン
街が見つけた俺は思わず駆け出していた。
街はまだ随分遠くに小さく見えるだけだが、目に見えるところに街があることが俺は嬉しかった。
丘の上から目の前の街まで一直線に俺は緩やかな斜面を駆け下りて──
ドンっと言う衝撃を肩に受けたと同時に俺は転んでしまた。
調子に乗って転んだ──のではない肩に尋常ではない激痛が走る。なんだ?
何が起こった?
首を曲げて肩を見ると、後ろから肩に棒のようなものが刺さっており、刺さった場所から赤い血が俺の白いシャツを赤く染めていた。
「○×◇◎▷!!」
聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえると同時に後ろから草を一気にかき分けて進んでくる音、それと同時に殺気としか表現できない視線が向かってきている。殺気の塊は俺に飛びかかってきた。
人?いや人ではないが明らかに俺を殺しに聞いてるのは間違いない。
俺は咄嗟に体を捻り背中に刺さったものを無理やり右手で引き抜き、飛びかかってくる人ではない殺気の塊の顔にそれを突き刺し、引き抜いた。
一瞬で殺気の塊はただの肉の塊に化した。俺の手はそいつのものか俺のものか分からないが血で真っ赤になっている。
「◇▽×!」「×○!」
殺気の塊は1つではないいつの間にか俺の周囲を取り囲んでいた。
俺を襲ってきたものは、人間ではなかったが人の形をしていた。
体は小さく子供ほどの大きさだ。耳と鼻が尖っている。目は鋭く瞳は赤く輝いていた。そして何より違うのは肌の色だ。本当に赤い血が流れているのかと思うほどで、少し緑がかった肌は、俺の残っている記憶とも、ダインたちとも明らかに別の何かだった。
手には両掌ほどの長さの刃物を持ってこちらを睨んでいる。少し離れたところに弓を構えて俺を狙っているものがいた。こいつが俺を射ったのか。
俺が咄嗟に倒したものを含めると全部で四匹。
俺を取り囲むようにジリジリと近づいてくる。全員で飛びかかられると流石にどうしようもない。なんで俺はこう毎日殺されかけないといけないんだ!
街まで行けば人も沢山いるだろう。助けを求めることもできるかもしれない。
しかし眼下に見る街にたどり着くまでこいつらが見逃してくれるとは思えない。
ダインとナオの顔が思い浮かんだ。そして彼らの言葉を思いだいした。
ふー
俺は覚悟を決めた。あとは俺の運だな。
一瞬視界に入ったあれと、ダインの言葉を結びつけるのは安直かもしれない。
しかしもう俺はこれに賭けるしかない。
俺は右手に持った矢に力を込めて1匹に狙いを定めて思い切り投げつけた、と同時に左手で腰にぶら下げた水袋をもう一匹めがけて投げつけた!
矢は弾かれたが、水袋はそれを防ごうとした緑のやつのナイフで盛大に水をぶちまけていた。
俺は体を反転して一気に坂を駆け下りた。後ろから弓が飛んできたが今度は当たっていない。後ろから3つの殺気が追ってくる。
そう俺の覚悟は逃げる覚悟だ。勝算はわからない。でもこれが一番生きのこる道があるはずなんだ。
弓を避けるために角度をつけて急に曲がりを加えて俺はひたすら坂を走り降りながら叫んだ
「助けてくれー!!!殺されるー!」
「誰かー!!」
丘の下からキラッと何かが光った。その瞬間を俺の顔の横を鋭い風が通りすぎたと思うと同時に後ろから緑色の奴の叫び声、そしてドンと倒れる音がする。
俺は坂を下り続けた。
後ろからはあらてた様子の声と、殺気が離れていくのがわかった。
助かった。
坂の下の方からから声がする。
「おーい、大丈夫かー!」
俺はここで肩の激痛を思い出した、そしてかなりの血が出ていることわかった。
血の気が引いていく、また意識が遠くなる。
坂の下から一気に駆けつけた一団が俺を取り囲む
「すごい出血だ!」
「止血しろ!押さえて止血しろ!」
「しっかりしろ!」
血が足りないせいか朦朧とする意識の中で、安心していた。
よかった。そしてダインの言葉をもう一度思い出していた
「最近、取り締まりが厳しい」
そう、街の近くに行けば盗賊の取り締まるために巡回していると思ったのだ。
緑色のやつらに襲われた時に街とは別の向きに、街道から少し外れて歩く10人ほどの集団が視界の隅に映ったのだ。
彼らが取り締まりの連中とは限らない、単に行商かもしれないし、農夫や街の一行の可能性の方が高かった。
だから俺は掛けたのだ。そして俺はその掛けに勝った。
盗賊を取り締まるほどの力のある集団で、かつ彼らに声が届き、さらに彼らが俺がやられる前に助けてくれる、もしくは緑のやつらがそれに気付いて逃げること
考えれば考えるほど低い可能性だが。勝ったからよいのだ。
俺は次また目を覚ますことができるのか、ここで今度こそ死ぬのかもなとの思いが巡った。
俺が行きたかった街は目に見えるところにある、目に見えるその街は近く思えた。しかし奴らに襲われたときにあの街は絶望的に遠くの街にも思えた。
俺はこの近いけど遠い街に生きていけるのか。
いや俺は賭けに勝ったのだ。そんな幸運な俺はあの街で新しいものを得ることができる。不思議とそう信じられた。
いつの間にか俺は誰かに背負われている。大きな背中だ。
冷たい鎧が顔に当たって心地よい。
周りから必死に俺に声をかけてくれているようだ。
俺をおぶる大きな背中の鎧に俺の血がついて赤くなっている。