生きている
何か周りから音が聞こえる。
頭がぼんやりしていて何の音なのかはわからない。
明かりを感じる。ゆっくりと瞳を開けると月と星空が目に入った。
月明かりがさっきよりおとなしく感じる。
俺はどうやらまた地面に寝そべっているらしい。
えっと、何があったんだっけ。
そうだ。なんかよくわらかないものに殺されかけたんだった。
身体中に広がるあの感触を、まだ肌が覚えている。
死ぬかと思った・・・・と言うか俺は何で生きてるんだ?
あのへんな水の固まり損ないはどこに行ったんだ?
とりあえず起き上がって───
「いてっ・・・!!」
胸に痛みを感じた。胸の奥から刺されたかのような痛みだ。さっき必死にあがいたとき胸でも打ったのだろうか。
さすりながら起き上がると少し離れたところに、焚き火が見えてそこに人だかりが見える。
「お?目が覚めたか。」
人だかりから明るい声が聞こえた。
人だ────
人だ。人間だ。話してる!
得体のしれないものに殺される恐怖とから解放された安心感が一気に湧き出してきた。
そして人と出会えたことの安心感。どうやら俺は孤独も感じていたのかもしれない、記憶のない中、丸一日歩いていて、死にかけたことや、未知に出会ったことで不安や孤独が大きくなっていたんだろう。
嬉しい。死ななかったことが嬉しい。生きていることが嬉しい。人が目の前にいることが嬉しい。
俺はすぐ言葉を口にしようと思ったが、なかなか口から言葉が出てこないでいた。
「よぉ、兄ちゃん!幸運だったなぁ!」
ガーハッハとと大声で笑う。焚き火から近づいてきた男が話しかけてきた。
「あとちょっと遅かったらスライムに丸々飲み込まれてお星様に仲間入りしてたな!」
またガーハッハと大きな声で笑っていた。
とても大きな男だった。手足は丸太のように太く、顔はゴツゴツしていてジャガイモのようだ。眉毛はもう少しで繋がりそうで、紙は太く短い。顎には手入れなどされていないであろう無精髭が生えていて、大きな声も合わさって豪快な気風を感じた。
「スライムを突っつくなんてな。スライムには近づくなって親父から教わってないのか?とんだお坊ちゃんだな!」
また大声で笑う。周りの男たちゲラゲラ笑っている。
ようやく自体を飲み込めた、どうやらあの丸い物体はスライムと呼ばれており、彼らはそれに遅されていた自分を助けてくれたらしい。
この男の豪快な笑い声のおかげでさっきまでの泣き出しそうな不安と安心の複雑な気持ちも
落ち着いて思わず笑顔になれた。
「助けくれたんですね。ありがとうございます。」
俺は男にお礼を言った。
お礼を言われた男いやぁと頭をボリボリかいて笑いながら言った。照れている様には思えないが豪快な笑顔が見ていて気持ちいい。
「ガーハッハ!最初は別に助けるつもりなんてなかったんやけどな!」
男は俺を助けるまでの経緯を話してくれた。
「あの泉は俺らの休憩場所の1つでな。
こんばんはそこで野宿しようと思って戻ってきたら、だれかが火もつけずに寝てるもんで警戒して様子を伺ってたんだよ最初はな」
なるほど。慣れた場所に知らない人間がいたから警戒したのか。
「そしたら、その兄ちゃん起きてスライムに石投げたり突いたりするんだからびっくりしてよ。
あ!このままじゃこいつ殺される!!!って思って思わず助けてやったわけだ!!!」
感謝しろよガッハッハと笑う。
ゴツンと鈍い音と男が「ぬごっ!」っと 間抜けな声をあげた。
「ちょーっと!!助けたのはダインじゃないでしょ!!!」
いってぇと唸りながら後頭部を抑えてうずくまるダインと呼ばれる男
その後ろにフライパンを持った女が立っていた。
「助けたのは、あたし」
にぃっと笑った。
女は短い髪に、少し焼けた健康的な肌の色をしている。
肩まで素肌を出した服を着ていて、首元は少し大きめに開いて胸の谷間が少し見えている。
ぶかぶかのズボンには大きなポケットがたくさんついており、腰には四角く小さいカバンのようなものと刃物と思われる物をつけていた。どうやらその手に持つフライパンでダインと呼ばれたこの大男の頭を叩いた様だ。
おいおいそんなんで頭叩いたら死ぬぞ
と思ったが、周りの連中はいつもの事だとばかりに愉快に笑っている。
「スライムに襲われている人は見たことあるけど、スライムを一人でつっつく大バカは初めて見たよ!」
ケラケラ笑いながら話を続けた。
「どうすんのかなと思って見てたら普通に殺されかけてるんだもん!思わず助けちゃったよ」
参ったなぁと言わん顔で頬をぽりぽり掻いていた。
「俺も助けてやっただろがよー!」
ダインがいつの間にか復活して女に大声で怒鳴っている
「にいちゃんをスライムから引き離したら息してなかったからよ!俺の復活の一撃でこの世に引き戻してやったんだぜ!」
と丸太の様な腕に力を入れて筋肉を見せつけている。
復活の一撃って何だ?また俺の知らない言葉が現れた。とか考えているよ
「なーにが復活の一撃よっ!胸ぶん殴って無理やり呼吸させたんでしょ!?ダインの馬鹿力じゃ下手したらまた死んでるわよ・・・」
ため息をつきながら女がダインのかたをぽんぽん叩いている。
胸の痛みはそのせいか。
まだ痛みは残るが命には変えられない、この二人に助けられたことは間違いないのだ。
それを責めることは筋違いだろう。
「いえ、おかげさまで生きているみたいです。ありがとうございます」
ダインと女に改めて礼を言い頭を下げた。
「いーっていーって、近くで見ると男前だしー!どうせお礼してもらうし」
女が鼻先くらいまで近づいてニヤついている。そして最後の言葉と同時に目の奥がギラついた気がした。
「さてさて、スライムも知らないにいちゃんは、どこのだれなのかな?」
ダインが俺の目の前に腕を組んで目をギラつかせている。
次話 7月20日20時