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New World New LIfe  作者: 金沢優一
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スライム

どうやら俺は眠っていたらしい。

目を開けると泉が光を反射しキラキラとしている。周りは完全に夜になっているが、月が綺麗に出ていた。

月の光が泉を照らし、明るい時とは違った雰囲気だ。


月の光しか明かりがないものの、他の光源もないため月の光が妙に明るく感じた。

どうやら俺は記憶を失う前も、このような景色を見たことがないのだろう。

幻想的な光景に、しばらく見とれていた。


池の水で喉を潤そうと腰をあげると、ふと何かの気配を感じた。

周囲を見渡すと月の明かりに照らされた、何かが目に入った。


それは──なんだ?


目の前にあるものの説明がうまくできない。

ここまでいろいろなものの名前は知っていた。木、泉、森、山、バッタ、トカゲ・・・・

しかし「それ」の説明ができないところからみると、記憶を失う前から知らないものなのだろうか。

それか記憶を失ったから知らないと俺が感じているのだろうか。


「それ」は夜のせいでよくわからないが、透明であることは確かだ。「それ」が踏み潰している草が、水の下の水草の様に透けて見えるからだ。


「それ」は水が氷とは違った固まり方をしている様に見える。

果物を地面に思い切りぶつけて、透明にするとこれに近い形になるかもしれない。

それか、溶けた雪だるまの様だと言えばいいのだろうか。しかし大きさは果物より遥かに大きい。

俺が片手を伸ばした手の先から胸くらいまでだろうか。それよりもう少し大きいだろうか。

透明な「それ」の妙に盛り上がった部分の中心に球体の何かが浮かんでいる。


俺が寝る前この泉の周りを見て回ったときに「それ」はいなかった。

どこからか落ちて来たのか?だが、泉の周りの上は何もないから落ちて来たのは考えにくい。

上から落ちて来たとしたら鳥の糞くらいしか考えにくい。だとしたも透明だし、そもそもどれだけ大きい鳥なんだという話になる。


いや、だが俺は記憶をなくしているのだからこれは普通にあるものの可能性だって十分にある。ここまで覚えていたものがたまたま名前を覚えていただけで、俺が忘れているものの方が多いことを考えた方が現実的かもしれない。


だとしたら俺はこの後、今みたいな未知に対する恐怖をずっと感じ続けるのか?

これが未知に対する恐怖か。俺はこれから記憶のない世界で生きることに、ここに来て初めて恐怖し、不安を感じたのだ。


妙な不安感の中で、観察していると、「それ」はズルリと動いた。


妙に盛り上がった部分が前に出てくると同時に周りに広がった部分も

ゆっくりと前に進んでいる。タカツムリやナメクジのような動きだがそれとも違った違和感がある。

記憶がないことが怖い・わからないことが怖い・これからどんな知らないことが起こるのか怖い。



「こいつは・・・生き物なのか?」

思わず独り言を言ってしまった。ズルリと動いてからまた「それ」は動きを止めた。


俺はいつの間にか不安や恐怖も残っていたが、こいつが何なのかという興味を持ち始めていた。

一日歩き回って初めて見た知らないもの。

カタツムリやナメクジのような生き物みたいに触覚もないし、目もない。

というか透明な大きな妙な固まり方をしたものの中に丸い何かがあるだけだ。


「それ」はまた動き始めた。

ヌメヌメと近づいてくるそれは、動き方からして柔らかそうではある。


俺は近くにある小石を拾って恐る恐る、ほうり投げつけてみた。

小石は「それ」にぽよんと当たると跳ね返り近くにぽとりと落ちた。



俺は落ちていた木の枝をおもむろに拾っていた。


ゆっくり俺が近づくと「それ」も俺が近くづいたことに気がついたようだ。

少し後ろに下がったようにも見えるが、形を止めていそうで止めてないないそれは、

中の球体を中心に身をぎゅっと縮めて小さくなった。


怯えているのか?

俺は木の枝で「それ」をつついてみた。木の枝越しではあるがプニプニと弾力を感じる。


もう少し強く突こうと思った瞬間 ──




目の前が真っ暗になった。と思ったら視界が大きく歪んだ。


いきなり頭だけ水の中にいるようだ。息ができない!

そして液体の様な部分がどんどん体を覆っていく。液体というより柔らかい何かだ。


さっきの「それ」が俺の顔、頭全体にまとわりついていることに気がつくのに時間がかかった。


そしてこいつは、まとわりついているだけではない。

「それ」は少しづつ俺の体を覆い尽くす様に広がっている。

頭の周りにまとわりついていた「それ」は、徐々に俺の顔から胸へ、胸から背中に広がっている。


こいつは俺を飲み込もうとしているのか!?取り込もうとしているのか!?


このままでは窒息、いや、食われてしまう!?


俺の脳が全力で生命の危険を叫んでいる。

とにかく引き剥がさないと──


「それ」を手で掴んで無理やり引き剥がそうとする。何ともとも言えない感触だが掴むことはできた。

とにかく顔から引き剥がす!全ての力を腕に込めて必死に掴んで引き離──せない


ズボンと俺の手がそのまま「それ」の中に沈み込んだ。

沈み込むと言うよりも引き込まれてしまったと言う方が正しい。

俺は転がりながら手を引き抜こうとするが力がうまく伝わない。


体をそらして自分ごと地面に叩きつけてみるが柔らかいそれはその衝撃は伝わっていないのか

どんどん体に広がっている。「それ」は俺の上半身全てを覆い尽くして腰から下へとさらに広がろうとしている。


「それ」いや「これ」は生き物だ。しかも俺を殺そうとしている。


俺はなぜここまで自分の危険になる存在のことを考えなかった?考えようと思えばいくらでも考えられたはずなのに、記憶がない自分とその世界に何か勘違いをしていたのではないか。


浮かれてたってのか俺の馬鹿野郎!


まずい──意識が───死──




カイトが遭遇したのは「この世界」でスライムと呼ばれる生き物であった。

「この世界」では一般的な生き物であるスライムは、体を収縮しその反動で獲物の顔めがけてジャンプし、

獲物の顔にまとわりついて窒息させるのだ。一度まとわりつかれるとそれを自力で振りほどくのは非常に困難である。窒息させた後はその体を獲物の全体に広げて覆い尽くし、ゆっくりと溶かして栄養にするのである。


カイトはこのスライムの恐怖や危険性を知らなかった。はじめは知らないものへの恐怖から警戒をしていたが、好奇心から無防備に近づいてしまったのだ。


「スライムには近づかない」


これは「この世界」の人間なら子どもでも知っている常識であった。

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