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New World New LIfe  作者: 金沢優一
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記憶と言葉

どれほど歩いただろう。俺はひたすら森の中をまっすぐ歩いていた。

人の気配や人の痕跡はまるでない。


丘までたどり着いたのは随分と前で、丘から先は山までつながる森しかなかった。

どうやら俺は山と山の隙間のような場所の草原地帯のような場所で目が覚めたらしい。

記憶を失う前の俺はなぜそんなところにきたのだろうか。周りが山と森に囲まれているので、とにかく山を超えるしかないだろう。


流石にこの森の中をやみくもに歩いても迷うだけだ。

石と石をぶつけてすこし尖らせた石を作ってみた。綺麗に割れて小さいナイフにできそうだ。

俺は木に傷をつけながらきた道がわかるようにまっすぐ歩いていく。



そして俺は歩きながら自分の覚えていることを確認していた。

俺はどこから来たのか?どこに住んでいるのか?俺は何歳なのか?

自分がカイトという名前の男であることと、言葉以外は何も覚えていない。


これを記憶喪失というやつなのだろうけど、記憶喪失という言葉と使い方を俺は知っている。

物の名前を覚えているというのは幸いだ。もし物の名前も忘れていたら目の前のもの全てがわからないことになる。

そうなると俺は生まれたての赤ん坊と同じで、あの場所でただ座りこけていただろう。


他にも覚えていることはある。

今やっている迷わない工夫やナイフを作ると発想があることからそれが分かる。

しかし、今身につけているような靴や服を作る知識はない。この服が何で出来ているかも何か分からない。


石や木で火を起こせるかもしれないと思ったが、どうやったら火がつけられるのか詳しくはわからない。


だが、こんな風に知識というものが俺にも多少残っているようだ。

言葉と記憶は結びついているのかもしれないな。

しかし何を覚えているかはこうやって色々見えるものや出来ることを考えていないと思い浮かばないものだな。

他に俺は何を知って何を知らないのか。やはり人と会わなければならない。




流石に喉が乾いてきたが、川のせせらぎのようなものは聞こえない。

ここにきて不安になってきた。

このまま何も飲まず食わずで歩いて俺は人のいる場所や人と出会えるのだろうか。

鳥の鳴き声は聞こえるがその姿は見えない。生き物はまだ虫やトカゲとしか出会っていない。

見かけた虫は蝶々やバッタ、背中のテカテカしたよくわからない虫、こいつらは食べられるのだろうか。


できることなら食べたくない。記憶を失う前の俺も食べていなかったのだろう。生理的に受け付けない何かを感じる。


また森の中をしばらく進んでいると、木々の隙間から光が射している。

ひらけた場所に出るかもしれない。体はすこし疲れているが、足取りが軽くなった。


木々を抜けた先にあったのは、綺麗な泉だった。大きな泉だが湖というには小さい。しかし、どこか神秘的な印象と綺麗な水は池というより泉だ。周りには、低い草や藻が生えている。


近づいてみると、透き通ったような綺麗な水が太陽の光をキラキラ反射させている。

泉の縁にひざまづき、両手で水をすくい口をつけてみる。

火照った体に染み入る渡っていくのが感じる。うまい。目を覚まして初めて口にした水はこのようと思えないようなうまさだ。手ですくうのが億劫になり俺は顔を泉に鎮める勢いで泉の水を飲んでいく。顔にかかる水の冷たさが心地よい。


水を飲んで体が冷え、少し披露を感じた。気がつくと少し日が傾いていることに気がついた。


今日のところはここで休むとしよう。森の中で夜にならないでよかった。

だが完全に夜になると何もできなくなるかもしれない。

それまでに俺はこの泉の周りを少し見て回ることにした。


泉に沿って歩いていると、少しひらけた場所があった。

この辺りは草木はあまり生えていない。しかも他の場所より地面がしっかり敷いてる気がした。


そして、一箇所に黒い場所がある。これは───


焚き火の跡だ。

ありがとう俺にわずかに残る知識よ。

これが人の手によって作られたことを俺の脳が間違いなく覚えている。

残った炭を掴んで、少し力を加えるがボロりと崩れた。


前に使われたのが、いつかは分からないが、ここに人が来たことがあるのは確かだ。

人の痕跡に安心した俺は、予定通り今日はここで休むことにした。

空腹で何かを口にしたいが、ここまで見かけたキノコや虫やトカゲは食べる気になれない。火を起こして焼けば何とかなるかもしれないが、火の起こし方は分からない。


だが本当に飢え死にする状況になったら食べないといけないな。

明日も人のいる場所に辿り着けなかったら覚悟を決めるしかない。


しかし今日は疲れた。気がつけば周りは暗くなっていた。泉を囲う木の一本に背中を預けて、俺は泉を眺めていた。明日は誰か人に会えますようにと願いながら。


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