桜咲と長原
平日の放課後。
今日の授業には体育があり気だるさの残る夕方。教室に桜咲と長原が残っていた。
森谷が数学の補習を受けているのを待つ長原と、暇だからと長原に呼び止められた桜咲である。
「暇だからって俺まで居る必要ある?」
「グチグチうるせぇやつだなぁ、そんなんだからモテねぇんだぞ。影も毛も薄いし」と長原は言い返す。
「薄くないね!影も毛も!百歩譲って影薄くても毛は薄くないね!」
長原に高らかに言い放つと桜咲はふん、と鼻息を荒くした。
「おいやめろやめろ、影と毛って、文字打ち間違えたら陰毛になるだろ」
「いや、お前が言い出したんだろうが。ってか文字にすんなリアルタイムで肉声で話せよ。なんで会話を文字に直すんだよ」
桜咲のテンションはさらに上がる。
あまり良くないベクトルに。
桜咲が長原に言い返したところで、長原は平然と次の会話に入る。
「こないださ、真央と話したんだけど、魔界のご飯ってどうだった?」
「下手か。会話切り替えるの下手か」
そう言いながらも桜咲は魔界の食事について思考を巡らせていた。
「えー、ご飯?米がなかったのが辛かったかなー。主食が、ね」
「あー、ダンドゥバルンだったもんね」
「いや、パンだったでしょ。なんだよその禍々しい名前のやつ」
「目玉みたいで」とふざける長原。
「目玉!?」
桜咲は驚愕する。
「噛んだらきぃぃぃぃぃあああああああって」
「どんな擬音だよ」
「鳴くやつ」
「生きてるの!?」
「飛びます」
「まさかの鳥類!?いや、いつ食ったんだよ。そんなthe魔界の食いもん。そんなの魔王でも食わねぇだろ」
鼻息が扇風機の強よりも強な桜咲がつっこむ。
そんな様子を見て長原は笑いながら
「真央に聞いてみなよ、ダンドゥバルン」
と、桜咲を促す。
「えー、絶対嘘やろ」
呆れたように桜咲は言った。
「ちなみにさ」
また長原美雪が切り出す。
「悪魔と結構戦ってきたよな?」
何度も説明するが悪魔とは魔界の魔道力人造人間兵器のことであり、その姿は人間そのもの。魔王が統べており、悪魔は兵士として生きていく。
「え、うん、まぁ、ね。戦ったけど、なに?」
長原に聞き返す桜咲。
急に長原は小声になり桜咲に言う。
「あれさ、ありがちなんだけど、なんで女の悪魔ってエロい格好してんだろうね」
唐突な質問に桜咲は慌てる。
「な、なにいってんだよ!」
「いや、まじまじ。普通に疑問じゃね?なんで戦うのにあんな防御力低い格好してんの?」
たしかに肌の露出によって防御力は下がっていると言える。
さらに長原は続けた。
「なに?戦闘にオシャレシステムとかあんのかな?今斬られたけどショートパンツがオシャレだからなかったことに、ってんなことあるかぁ!」
「いや、しらねーよ!」
理不尽に怒鳴られた桜咲が言い返す。
だがそんなことお構い無しに長原は続ける。
「あ、逆に作戦なんじゃね?胸元チラリでアホみたいな桜咲の視線をそらしてザックリみたいな」
「やめてくんない?人を例えにするの。つかその中で死んでるよね俺」
「いやいや、見たっしょ?実は」
「は、はぁ?み、みてねーし」
「どの悪魔が良かったん?ほれほれゆーてみぃ」
長原がにやけながら桜咲に詰め寄る。
「誰だよお前。なにポジション?」
慌てふためく桜咲。
「いいから、ほら、2人しかいないんだから。あ、じゃあさ最初の村で会ったあのグラマラスな悪魔と城で会ったスレンダーな悪魔どっちがよかった?」
長原の追求は止まらない。
戸惑う桜咲。
「え、えーーーー。どっちがって言われても」
「え?なに?ホモなの?零の腹筋に夜な夜な敷布団を濡らしてるの?」
「いや、どんな濡らし方だよそれ!ホモじゃないわ!どっちかってーと城の、、、」
勢いで言ってしまい、ふと我に返る桜咲。
だが長原は聞き漏らしていなかった。
「へぇーーーー、城のねぇ」
いやらしい笑みを浮かべながら桜咲を見る長原。そうかそうか、と首を縦に振る。
「スレンダーがいいのな。へぇ。じゃあ好みで言えば真央か」
さらに笑みを強めながら桜咲にそう言うと、桜咲は恥ずかしさから顔をふせる。
「や、やめろよ」
と顔をふせる桜咲に長原は更に攻め込む。
「あれ?今真央を想像しましたか?」
「してねーよ!」
「ほら、後ろに真央いるぞ」
そう長原に言われ、慌てて振り向く桜咲。
だが、そこには誰もいなかった。
「びっくりしたー!誰もいねぇじゃん!別に森谷さんがいいとかじゃないから」
と強く否定する桜咲。
「え?そうなの」
と、とぼけたように長原は続ける。
「まぁ確か真央はないペッタンだからねぇ。流石にないペッタンは嫌か」
「そ、そう、そうそう。ないペッタンはね」
と、長原に誘導されそう答えた桜咲。
気恥しさからそう答えただけだったのたが、その瞬間桜咲の背後から「へぇ、ないペッタン?」と聞こえた。
聞き覚えのあるその声に恐怖しながら振り返るといままでに見たことない程の笑顔を見せる森谷真央が立っていた。
時計は午後5時を超えており、数学の補習が終わる時刻。
嵌められた、と思うと同時に露わにされる森谷の怒りに脅える桜咲。
「わたしが、ない、ペッタン?ふぅーん?」
スタッカートのように度々力を入れながら桜咲を問い詰める森谷だが、笑顔は崩れない。
「余計な、お世話、なん、ですけど?」
「い、いやないペッタンじゃなくて、あの、、、だいへたん、、、だ、、、ダンドゥバルン!」
「目玉の?」と笑顔のまま森谷は聞き返す。
「そ、そう!目玉の!」
慌てながら何とか答える桜咲。
「そっかぁ」
と笑顔のまま桜咲に近づく森谷。
だが騙されるわけもなく
「うそつけぇい!」
と見事な右ストレートを桜咲の顔面に入れた。
「お前のダンドゥバルンを取り出してあげましょうね?」
森谷の笑顔はまだ崩れない。
「ご、ごめんなさいいぃぃぃぃぃ!!!」
夕暮れに桜咲の悲鳴が悲しく響いた。