No.零は放ち切り裂く。
「さってと」と桜咲は伸びをした。
入学式という退屈度満点の式典を体育館で終え、再び教室に戻ってクラス内で自己紹介という通過儀礼も終え今日の時間割をこなし、桜咲は帰路についた。
学校の校門を出て右。その方向は吉野と同じである。
ちなみに福永、森谷、長原は左に曲がる。
「じゃーねー」と校門で森谷達は左に曲がって歩いていった。桜咲は吉野と他愛もない話をしながら歩いていく。
「だからさ、結局委員長は考えすぎなんよ。能力あってもバレずに普通に過ごせば問題ないし」
「そうは言っても朝みたいに長原や森谷は能力に頼ろうとするだろう?」と吉野。
能力が周りにバレてしまったらどうなるか、という議題の話である。
「まぁ、あのふたりは面白がってるからねぇ。でもさ、せっかくの能力なんだし、何かに使いたいと委員長は思わない?」
「そんなアニメみたいに能力が必要な状況なんてポンポン出てこないと思うけど?」
吉野は軽く笑って見せた。
「例えばさ!マスク被って、、、」
「却下」
桜咲の発現は一瞬で吉野に切り捨てられる。
能力でなく身体能力上昇だけでも常人とはかけ離れてしまっている。簡単に言えば50メートル走をするだけで世間を騒がせてしまう状況でそんな好奇の目で見られるリスクを背負う必要はない。
「あーあー、だめかー。せめて零とかが相手してくれればストレス発散になるのになぁ」
「呼んだか?」と背後から低い声が聞こえる。
桜咲は驚愕し身を仰け反らせながら振り返る。
「え?ぜ、零!?」
そこに居たのは白髪で右目を眼帯で覆った長身の男。魔界で何度も剣を交えたあの男。No.零である。
No.零は魔王直属の魔道力人造人間兵器、通称〈悪魔〉である。
悪魔は魔物に仕える人造人間だがNo.零だけは魔王に直接仕える魔界最強の悪魔とされていた。
強さはその鋭い剣技とNo.零に与えられている〈プロミネンス〉と呼ばれる炎によるもので、No.零は炎を自由自在に操る。
「この俺が、、、桜咲のストレス発散の相手、、、だと?」
「な、なんでいんの!?ここ魔界じゃないのよ!?どぅーゆーあんだーすたん!?」
とっさに桜咲は大勢を整えて身構える。
No.零は魔王決戦の際に福永に敗れ、心を持ち、魔王継承者であった亜貴の妹であるレイチェルに仕えることを決めた。レイチェル自身は戦いを好まず平和を願う性格のため魔界を平和に導く魔王に就いた。
そんな経緯もあってNo.零は敵ではないが、その強さは充分知っていた。
「ホントになんでいるのよ?」と吉野は平然と聞く。その態度は毅然としている。
「王女が、、、いや女王が貴様らの様子を見てくるようにと。その能力から戸惑っているのではないか、とな」
「ふーん。なるほどね」と吉野は頷いた。
で、だ。とNo.零は続ける。
「桜咲。貴様のストレス発散に俺が相応しいと?」
「い、いやそれは例えであって、、、ね」
「ならば発散させてやろう。俺のプロミネンスで」
「それ俺自身が発散されちゃいません!?」
「いくぞ!」
「いや、ちょ!」
と桜咲が逃亡をはかっていると、そこに福永が割り込んできた。
「あら?ほんとにいるのねぇ」
福永は校門で分かれたが、妙な気配を感じに〈神の右目〉でこの様子を見ていた。
「そっか、こっちから魔界に行けるってことはそっちからも来れるのか。ふむ」吉野は何故か納得していた。