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 ◇




 夜が明けた。


 サブマシンガンを構えた黒服たちが再び乱入してきた。彼らを率いる黒い眼帯の男は桃色のタオルケットに包まれたモエの姿を認めると、庭に運ぶようわたしたちに命じた。黒服たちに銃口を向けられたわたしたちはモエを大切に抱え上げて庭へ降りた。


 黒い眼帯の男は広い庭の真ん中で立ち止まると、黙って池を指差した。けれどわたしたちはその意味がわからなかった。黒い眼帯の男はフッと笑い、黒服たちに向かって短い言葉を発した。すると黒服たちはモエをわたしたちから奪い取り、あっというまに池に放り込んだ。  


 黒い眼帯の男はサブマシンガンの銃身を池に向け、引き金を引いた。桃色のタオルケットが散り散りになって水面に舞った。銃声が止むと、錦鯉たちが大きく飛び跳ねた。




 黒服たちは酒を飲んだりたばこを吸ったりしながらテレビで世界中のニュースやネットの映像を見ている。わざとわたしたちにも見えるようにしているんだと思う。


 巨大な画面の中で、わたしたちの国の紋章が描かれた戦車が黒服たちに占領された建物を攻撃していた。わたしたちの国を守る戦闘機と戦闘艦は黒い船をたくさん沈めていた。セルフディフェンスは懸命に戦っていた。


 けれどセルフディフェンスが敵に損害を与えると、そのたびに黒い眼帯の男のスマートフォンが鳴った。それが拷問と陵辱の合図だった。着信があるたびに黒い眼帯の男はわたしたちの中から一人を選び、黒服たちに命じて庭に引きずり出した。


 庭に連れて行かれた男子は拷問され、女子は陵辱された。庭に連れて行かれる途中で黒服のナイフやサブマシンガンを奪おうとして殴打されたり、走って逃げようとして撃たれて、幾人もの命が奪われた。次に狙われるのはわたしかもしれない。


 黒服たちはわたしたちをサブマシンガンで脅し、広大な庭に深い穴を掘らせた。


 わたしたちはサブマシンガンで頭を小突かれながら、声を押し殺して泣きながら埋葬した。わたしたちは広大な庭の隅にある茶室の竹垣を抜いて名前を刻み、小さな墓標を立てた。けれどそれらは黒服たちに蹴倒され、塀の外に投げ棄てられた。





 卑劣な行為が行われているのはカドタ邸だけではなかった。セルフディフェンスが敵を攻撃すると、そのたびにわたしたちの国の多くの都市でたくさんの人たちが殺され、辱めを受けていた。それらの動画は全世界にリアルタイムで公開された。


 画面には身の毛のよだつ映像が次々と映し出されている。けれど敵の卑劣な行為に屈することなくセルフディフェンスは一生懸命戦っていた。

 でも、敵は巧妙だった。いろいろな言語で黒服が喋るニュースによると、黒服たちの基地や陣地や船にはわたしたちの国の人たちが監禁されていた。セルフディフェンスが黒服たちの拠点や船を砲撃したらわたしたちの国の人たちも一緒に吹き飛ばされる。


 画面には黒服の集団がわたしたちの国の人々を背後からサブマシンガンで脅してセルフディフェンスの飛行場へ乗り込む様子が映っていた。その中には小さな子供の姿もあった。敵の手に渡る前に戦闘機は次々と自爆していった。



 夕方になるとセルフディフェンスの戦闘機は飛ばなくなった。戦車の姿も映像から消えた。戦闘艦は海に浮いているだけだった。


 一切の攻撃ができなくなったセルフディフェンスは、僅かな武器を持って森の中に撤退したらしい。『森に逃げ込んだ臆病者ども』と、黒服のアナウンサーが嬉しそうに叫んでいた。

 




『難民や漁民に偽装したA国とB国の軍隊によって我が国は攻撃されている』

 わたしたちの国の政府の代表は国際機関の議場で世界の国々へそう訴えた。


 けれど、わたしたちが一番頼りにしてきた世界で最も強大な軍事力を持つ同盟国の大統領は、『中立を守る』と宣言した。


 他のほとんどすべての国も中立を宣言した。それどころか、わたしたちの国のことを『罪も無い難民や漁民を虐殺するテロリスト国家』と言い始める国すら現れ始めた。


 わたしたちの国の主張に賛同してくれたのは遙か遠く離れたいくつかの小さな国だけだった。わたしたちが頼ることができるものはもう何もなかった。ここでじっと待っていても誰も助けに来てくれない。逃げる場所もない。


 黒服たちの邪悪な欲望を少しでも抑えるために、女子は顔や手足に泥を擦り込んだ。わたしも肌の白さを泥で消した。唇の艶も消して、髪にも泥を塗った。



 夜になった。黒服たちは昨夜と同じように再び消えた。わたしたちは疲れ果て、重なりあうように眠った。大広間は泥と血にまみれていた。









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