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寒空の下


――――お兄ちゃんの手、冷たいね? 


 純銀の結晶が揺れ落ちる冷たい石畳の上、ふと少女がそう言い俺の手に触れた。

その言葉に俺は何も返すことが出来ない。


 これが俺と少女の出会いの日だった。



 ♢  ♢  ♢



 重く佇む灰の空の下。

 武器屋、防具屋、宿屋、果物屋、様々な店が立ち並ぶグラス通りは薄い冷たい白で覆われている。

そんな場所で、ふと繋がれた手は、とても暖かみを帯びていた。


「ラミアの手はいつも暖かいな」

「だってラミアは竜だもん」

「ま、そうだけど」


 ラミアは竜の子だ。白の外套をとれば首筋には銀の鱗がある。

 人と竜の争いが終わって一年が経っていた。


「ねぇアルフ。これとってい?」


 尋ねてくるが、ラミアは空いた方の手で外套を外そうとする。


「おい待っ……」


 即座に制止するもラミアの手は止まらず、竜特有の白銀の髪がはらりと小さな背中を這った。


「おいあれ見ろよ」

「竜だ!」

「人間といるのか?」


 言わんこっちゃない。

 一人が騒ぎ、それを聞いた一人がまた騒ぎ、道行く人の視線が次々と俺たちへ浴びせられる。水に絵の具を入れたようにじわりと。


「何故こんなところに竜がいる!」

「そうだ!」

「消えろ!」

「殺せ!」


 いつの間にか群がる人間は徐々にその声色を黒や紅に変えていく。俺の手を握る小さな手に力がこもり、微かに熱を帯びていく。


「ラミア、持っといてくれるか」


 片手に抱える果物の入った紙袋をラミアに渡すと、後方から気配。


武器召喚(アスライステドア)


 魔力を紡ぎ、虚空に刻まれた紋章から剣を抜刀。即座に後方へと振るう。

小高い音が鳴ると、礫が地面へ飛散した。


不滅の剣(デュランダル)

「なっ……」


 気配は男の投げた石ころらしかった。

 まさか防がれると思ってなかったのだろう。男の瞳孔がわずかに開き驚きの様子を見せている。


「遅いな。お前の腕力はどれくらいなんだ? 男にしては貧弱というか。もしかしてオネェ様なのか?」


 剣の切っ先を向けると、男は顔を赤くする。


「この!」


 ふと別方向から声が上がる。

 狙いは俺らしかったのでゆっくり顔を向けると、丁度額に石ころが当たった。地味に痛い。


「こう言うのもなんだけど、お前らは竜が嫌いなんじゃないのか? 俺を狙うのはお門違いってもんだろ」

「うるせぇ! 竜と一緒にいる野郎なんざ人間でもなんでもねぇ! 竜だ!」

「ははっ、なるほど。そりゃ面白い発想だ」


 笑いかけてやるが、帰ってくるのはより一層強くなった紅い眼光だけだった。


「それで、お前らは竜の死を望むって事か?」

「そうだ!」

「死んでしまえ!」


 うわ、正直者だな……。まぁだからと言って死ぬつもりは毛頭無い。


「答えは勿論ノー。どうしても死んでほしいならとりあえず俺を殺してからにするんだな」


 デュランダルの刀身を見せつけると、取り囲む人たちは目に見て分かるくらいに一歩後ずさった。

流石に力の差を感じ取ったか。


「ラミア、行くぞ」

「うん……」


 頷くラミアの表情は晴れない。

 まぁ、これだけ悪意の前に晒されれば仕方ないか。

 剣を虚空に収め歩みを再開すると、群衆は俺達に道を開けた。



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