シロ恋
ガールズラブが入っているので注意してください
「まのっち、まのっちーっ!」
朝の教室に、私を呼ぶ声が響く。
「どうした? ゆり」
「はぅあー・・・まのっちは、今日も美人さんだねぇー」
「はぁあ?」
走り寄ってきた友人である岸上ゆりに問いかけるとゆりはにへへ、と笑いながらそんな事をつぶやいた。
「用事があったんじゃないの?」
「違うの! あのね、遠くからまのっち見えて、嬉しくなって走ってきちゃった」
何が嬉しいのか分からないが、嬉しそうに笑うゆりのほっぺたを、私はグリグリと撫で回した。
私とゆりは、高校からの付き合いだ。
元々、中学受験でこの「女子学院」に入学していた私はそのまま高校に進学した。そこで、高校受験組であるゆりに出会った。
初めての会話は、今でも覚えている。
「あの、まのっちって呼んでいいですか!?」
私の名前は白田美来なのだが、どこから「まの」が出てきたのだろうか。
「私、美来なんだけど?」
「私、まのかって名前が好きなんです!」
「は?」
初めての会話がこんな感じで、よく仲良くなろうと思ったなとは自分でも思う。
でも何故か、その日から私の日常がいつもよりもきらきらして見えた。
「まのっち、じゃあね! また明日!」
「んー。今日もメイトに行くの?」
「そう! 昨日よりもいいグッズが入ってるから」
「毎日行って、よく飽きないねー」
「アニメ、好きだから」
「はいはい、気をつけてー」
HR終了後、ゆりは鞄を持って誰よりも早く教室をあとにした。
ゆりは毎日バニーメイトと呼ばれるアニメ専門店へと向かう。
毎日行ってよく飽きないものだと思うが、それ程アニメに対する愛が凄いのだろう。
寂しい
そんなことを感じる事がたまにある。
自転車を漕いでいると、他の学校のカップルが目に入ったりして羨ましいと感じたり、ゆりの笑顔を独り占めしたくなったりする。
私はまだ、この気持ちの名前を知らない。
知っているのかもしれないが、名前を付けてはいけないような気がした。
「美来さー、よくゆりと一緒にいれるよね」
放課後、友達がそんな事を言ってきた。
「・・・なんで」
「だってさー、うざくない? あの子」
「あー、わかるわ」
「うざくなんかないけど」
1人の友人が言うと、もう1人の友人も笑いながら同意する。
こいつらに、何がわかるんだよ
いつの間にか私は低い声で、「帰れよ」と呟いていた。
「え、どうしたの、美来・・・」
「こわ・・・・・・ごめん、なんか」
そそくさと逃げる様に教室をあとにする彼女達を私は睨みつけるように見送って、盛大にため息をつく。
(なんで、あんな事言っちゃったんだろ)
段々と私が分からなくなる。
無意識のうちにゆりを探して、ゆりの悪口を聞いただけでガチ切れして。
友達の悪口を聞いて、いい気分にならないのはわかるが私のはそれとは少し違うような気がして・・・
どうしたらいいのか分からない。
「まのっち?」
机に顔を伏せながら考えている私に、いつも聞いているゆりの声が聞こえた。
ゆっくりと顔を上げる私。
目の前には、教室に差し込む夕日を浴びてきらきらと輝くゆりがいた。
長い髪の毛は茶色に輝いて、大きなくりくりとした瞳は少し潤んでいるような。
泣くのを、我慢しているような。
「ゆり・・・?」
「美来・・・私、皆に嫌われているのかな」
きっと彼女はさっきの会話を聞いてしまったのだろう。
私は、今にも泣きそうな顔をしているゆりを抱きしめた。
「私は、ゆりが大好き」
それ以上は、声が出なかった。
何故か、ゆりと一緒に私も泣いていたから。
溢れ出る涙をそのままにしながら、夕日が差し込む教室の中で私達は抱きしめ合う。
「落ち着いた?」
私の問いかけに、目を腫らしたゆりはマフラーに顔を埋めて小さく頷く。
「そっか」
私はそれだけ言うと、無言でゆりの手を取る。
その手は小さくて弱々しくて今にも消えてしまいそうなのに、暖かかった。
その手はゆりを表すようで、思わず笑ってしまう。
「むう・・・・・・みーくー! 何?」
「いや、可愛いなってさ」
「!? う、、美来のばーか」
笑う私の顔をゆりは上目遣い気味に見上げる。
その顔を瞳もすべてが愛おしくて、優しくゆりの頭を撫でた。
こんな、たわいもない話が好きだ。
彼女と過ごす時間が好きだ。
ずっと、一緒に入れたらいいと思った、夕日が綺麗な真冬の日だった。
「私、転校する」
ゆりからそんなことを聞いたのは、高校2年生の夏だった。
親の都合で外国へ行くらしい。
もう、こっちには帰って来ないらしい。
どんな言葉も、どこか遠い話のように思えてしまう。
冗談だって言って欲しかった。
だけど、悲しく笑う彼女の瞳は去年の冬に見た瞳のように揺らいでいた。
「夏祭り。行こうよ」
口から出た言葉は突拍子も無くてゆりもぽかんとしていたけれど、笑ってくれた。
橋の上から、花火を見つめる。
大きな音がする。
花が散ってゆく。
「綺麗だね」
ゆりの声は震えていた。
声には出さない。
それでも、「行きたくない」と言ってるように見えた。
最後の花火。
空高く上がった花火と共に、私は彼女にキスをした。
時が止まればいい
私達以外はいなくなってしまえばいい
私達が逢えた事は運命
私達が離れ離れになるのも運命
そんな運命なんか消えてなくなってしまえばいいと思った。
唇の感触は暖かくて、そしてしょっぱかった。
花火に照らされた彼女の瞳は閉じられていた。
それだけで泣きそうだった。
夜空に散った花と同じように私の想いも散ってゆく。
アルバムを開くと、彼女の顔が鮮明に思い出せた。
笑うとくしゃりとする顔も、綺麗なアーモンド型の瞳も。
長く綺麗な髪の毛も
低かった背丈も
私を呼ぶ声も
全て、全て
あの真冬の日から、私達は毎日一緒に帰った。
その度に使った駅には私とゆりはもういない。
もっと、早く認めていたら変わっていただろうか。
彼女が大好きだったココアを買った。
ひとりで飲んだココアは甘くて、温くて、しょっぱくて
初めてのキスと同じ味がした。
私の隣に彼女はいなくて
別れてから何年も経つのに忘れられない想い。
残っているココアを一気に流し込んだ
あの日と同じ、真冬の日だった。
この話、実はちょーっっとだけ、実話入ってます
ほんとにちょっとだけね!
いつもとは違う書き方をしたので、みなさんにどんな反応をされるかドキドキしてるんですけど、この話は友達がボクのために描いてくれた絵を元に書いています。
すっごい綺麗な絵で、キスの所と、美来とゆりが手を繋いでいるイラストを描いてくれました。
自分で言うのもあれですが、文章とめっちゃ合ってる!すっごい感動しました!
と、ここまで言っておいて、そのイラストは載せないという、このドS笑笑
美来とゆりを想像もとい、妄想しながら読んでみてください