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God-僕だけの神様?-

作者: 猫之風船

「わしは“神様”なのじゃ」


  俺を見下す、“白い着物を着たサンタクロース”みたいな出で立ちのジジイが得意気に言った。


「“神様”……っていうとキリストとかですか?」


 ­ ­俺はズキズキと痛む後頭部を抑えながら長い白ひげを蓄えた老人に問いかけた。


「そうじゃない。わしが“神様”なのじゃ」


「はぁ……」


「なんじゃ、その気の無い返事は……!?」


「いや、“神様”とか突然言われても……。俺、宗教とか興味ないですし……」


  俺の名前は吉谷剛史(よしたにごうし)。31歳。正真正銘の日本人で日本生まれ・日本育ちである。

  従って、12月24日にクリスマスを祝った約1週間後には誰が祀られているのかも知らない神社に初詣に行くという宗教感の全く感じられない日本人らしい生き方をしてきた。故に“神様”と言われてもいまいちピンとこない。


「宗教など関係無い。この世にあるもの全てがわしの創り出したものだ。今、お前が身に付けているその服も、お前が座っているその椅子も……何もかもわしによって生み出されたものじゃ」


「それはそれは……神様って随分と器用なんすね」


  俺は今、8帖ほどの部屋に居る。壁には白いテカテカとした布が張り巡らされており、置いてあるのは俺が座っているこの椅子と、自称(?)神様の前に置かれている教卓のような背の高い机だけである。

  ちなみに俺の服装は黒の革パンにブーツ、そして同じく黒のライダースジャケットという黒ずくめなのでこの部屋からは完全に浮いている。


「器用?! 神に対して何と無礼な口の利き方……」


「えっ?! いや、でもスゲーと思いますよ! 洋服も作れて椅子も作れるとか…… 裁縫もDIYもお任せってことですよね?!」


「戯けたことをぬかすな!!」


  自称神様は本気で怒ったようで、部屋中に響くような大声で俺を怒鳴りつけた。ちなみにこの部屋にいるのは俺とこの神様を名乗るジジイだけ。何とも息の詰まる状態である。


「わしはこの世の全てを創造したのじゃ! そこら辺に生えている木も、川を流れる水も、夜の空に煌めく星も皆わしが生み出したものなんじゃ!!」


「はぁ……」


「もっと言えば、この宇宙そのものがわしの手によって創り出されたのだ!!!」


「……なるほど。じゃあ、俺を生み出したのもあなたってことですか?」


「…………。」


「……えっ?! 違うの?! 俺、宇宙の一部じゃないの?!」


「……誠に残念じゃが……」


「えっ?! 何?! 俺、地球外じゃない……宇宙外生命体なの?!?!」


「……お前もわしが生み出した生命だ。……本当に残念じゃ……はぁ……」


「?! おい、ちょっと待て!! なに溜息とかついちゃってるの?!」

 

  自称神様は本当に残念そうな顔で俺を見下す。これが“慈悲の目”とかいうやつなのか?! てか俺、神様が生み出したことを後悔するレベルなダメ人間なのか?! なんかムカつく。


「世の中のバランスを保つためにはお前のような愚か者も必要だったわけじゃ。しかし今、此処で“悔い改める”というのであれば、天国へ連れていっても良いぞ?」


「……はっ?! て……天国?!」


「お前は本当に愚か者じゃな。未だに自分が置かれた状況も理解出来ていないとは……」


「……えっ?! 俺、今、どんな状況なんだよ?!」


「全く……これだから馬鹿と話をするのは嫌なんだ……」


「ば、……馬鹿って……?!」


  俺が文句を言ってやろうとしたら、突然「ドンドン」という音がして、あたり一面に張り巡らされていた白い布が全て床に落ちた。しかしそこにあったのは白い壁と、2つのドアだけだった。

  俺を挟むような位置で向き合う2つのドア。左側のドアには“地獄へ行く”、右側のドアには“天国に行く”と書かれた紙が貼ってある。どう見てもパソコンで印字したゴシック体のそれは、セロハンテープで一箇所ずつ止められているだけなので、布が落ちた勢いでヒラヒラとはためいている。


「……見て分かる通り、此処は最期の審判の席じゃ」


「……いや、見ても分かんねーよ!!」


 思わず俺は自称神様にツッコミを入れてしまった。 いくらなんでも、色々とあまりにもチープ過ぎて笑えてしまうレベルである。


「かいつまんで説明すると、もうお前は死んだから、これから天国か地獄に行くわけだけだけど……そのどっちが適しているのか此処で決めるというわけだ」


  自称神様はそれまでに比べると比較的ザックリとした口調でまとめてくれた。


「なるほど……ね」


  俺はまた痛みが激しく鳴り出した後頭部をさすりながら答えた。どうやら俺は全く望んでいない“最期の岐路”に立たされてしまっているようである――。



 ***



 昨日の俺はどうかしていたのだろう。ズキズキと痛む後頭部をさすりながら、ここに至るまでの経緯をぼんやりとだが思い出す。


『仕事に行く』と言ったきり、一ヶ月以上も自宅に帰ってこない同棲中の恋人・安部美佳(あべみか)の居場所が判明したとの連絡を受けたのは深夜零時過ぎだった。

 連絡をくれた彼女の姉・茉莉(まり)には『夜が明けたら一緒に探しに行きましょう』と言われたが、俺はいてもたってもいられず、足替わりのバイクにまたがり危険な夜の山中をぶっ飛ばした。

 しかし急カーブを曲がり切れずに勢いよくバイクから転げ落ちた。


 そして気を失い……目覚めたらこの部屋のこの椅子に座っていた。更に目の前には白い着物を着たサンタクロース……いや、どちらかというと“仙人”に近いイメージかもしれない……自称神様が目の前に居たという訳である。


 俺は死んだのか……?!


 でも、死ぬ前に見るっていう走馬灯とやらも見てないし、天の川を渡った記憶も無い。


 それ以前に頭が痛い。てか、よくよく触ってみると俺の頭にはきちんと包帯が巻かれている。


 死んだから痛みなんて感じないんじゃ……?


 血なんか出ないんじゃないか……?



 いや、待て、それ以前に……俺は、俺は……美佳を……た、す、け、な、い、と、…………。



 ***



「何をボーっとしておるのじゃ!?」


 自称神様の声により、俺は我に返った。


「いや、別に」


 俺はとぼけた。俺の目の前にいる自称神様はよくよく見てみると、海外ドラマの裁判官が持っているような木槌を手にしている。なるほど、ここが審判の場所ということか……と俺は理解した。


「とぼけても無駄だ。愚かな子羊よ……」


「はっ?!羊?!」


「何度も言っているがわしは神様じゃ。お前如きが考えていることなどお見通しじゃ」


 自称神様は胸の位置ほどに伸びている白い髭を触りながら得意気に答えた。

 髭はたくさんあるが、その分頭皮にはほとんど毛が無い。自称神様は丁度ライトの下にいるのでツルツルの頭皮が照らされてキラキラしている。それはまるで…………


「おい、子羊!言っておくが……これは天使の輪ではないぞ!」


「……?!凄いですね、神様!!本当に俺の考えが分かるんですね……」


「当たり前じゃ。わしは神様だからな」


「……」


 いやいや、この状況でその頭皮見せられたら誰でも同じこと考えるんじゃないか?!……という疑問は取り敢えず頭の隅に追いやる。

 この自称神様が本物だとしたら逆らわない方がいいし、偽物ならば絶対にヤバイ奴なので、より一層刺激しない方がいい。


 俺はまだズキズキと痛む頭を擦りながら、少しずつ冷静さを取り戻していく。その様子を見て自称神様が訪ねてきた。


「頭が痛むのか?」


「えぇ……まぁ……」


「本来、死者は痛みを感じないはずだが、ここは現世と死後の世界の中間地点にある。よって最期に感じた痛みやらの記憶を引きずる者も少なくない」


「……なるほど。でもこの包帯は何で……」


「今のお前の姿は生身の肉体ではない。いわばイメージに過ぎない。つまり、その包帯もお前のイメージに過ぎないのじゃ。死ぬ前に強い痛みを感じた頭に包帯を巻いてほしいと願った、お前の最期の願いがイメージとなってあらわれたということじゃ」


 自称神様は得意気に語った。


「俺の最期の願いって包帯かよ……」


 微妙だ。実に微妙だ。


「そんなことはどうでも良い。ここからが本題じゃ」


「本題?」


「さっきも言ったはずじゃ。お前が天国に行くか地獄に行くか、今ここで決める」


「……はい」


「では、まず、わしの質問に嘘偽りなく答えるのじゃ」


「……はい」


 俺はひとまず、自称神様の命令に従うことにした。



 ***



「……ではこれが最後の質問じゃ」


 自称神様はあの後、俺に対して様々な質問をぶつけてきた。仕事や年収、家族構成、貯金、親の職業や資産

 に至るまで……。

 俺はそれに正直に答えた。別に天国に行きたいわけではないが、この自称神様には嘘は通用しないと思わせる不思議なオーラがあった。


「お前はお前の死後、現世に残すことになる資産の全てを天の国に託すか?」


「えっ?!」


「お前はもう死んだのじゃ。何の躊躇いがある?現世に資産を残すということは、現世に未練を残すということになり、決して天国には行けないぞ?」


「……まぁ、いいですけど……」


「では、この誓約書にサインをせよ」


 俺は自称神様に手渡された、パソコンで制作されたと思われる何だかやたらと細かい字で書かれた書類に自分の名前を書いた。


 自称神様はそれをチェックし、木槌を鳴らす。


「では今からお前に最期の審判を…………」


「待って!」


 俺は思わず右手を挙げた。まだ死ぬには早すぎる。


「なんじゃ……?」


「神様も俺に散々質問したんだからさ、俺も神様に質問させて下さい」


「全く、無礼な奴じゃな。しかし迷える子羊の問いに答えるのも神様の役目……何でも聞くが良い」


 自称神様は怪訝そうな顔をしながらもそう答えた。


「……ま、まず……神様って全ての死者の審判をするんですか?」


「当たり前じゃ」


「ならば今、この瞬間にも死んでる人とかたくさん居ると思うんですけど、その人たちの審判はしなくていいんですか?」


「……それは全て同時に行っておる。わしは全知全能の神様じゃ。世界各地の死者の審判を同時に行うことなど容易いことじゃ」


「じゃあ何で神様は着物着てるんですか?それ日本の民族衣装だから海外で着てても浮くと思うんですけど……」


「また、下らぬことを……。今、お前の目に映るわしの姿もまた、お前のイメージに過ぎないのじゃ。お前が生前イメージしていた神様がこのような姿だったというだけのこと」


「えっ?!……それは無いだろ……俺の神は……しいて言えば絵瑠(える)ちゃんだ!!」


「え、える……?!えっ……な、誰……」


「何?神様の癖にそんなことも知らないのかよ!絵瑠ちゃんは“僕だけの女神様2”っていうソシャゲのレアキャラだ!俺はコレを出すために10万も使って美佳と喧嘩したんだよ!」


 そうだよ!

 俺が死ぬときに現れる“神様”がこんなクソジジイであるはずがない。そんなの絶対に嫌だ。


「……?!えっ?!、そ、そしゃく??……えっ?!」


 全ての創造者であると主張する自称神様はソシャゲと咀嚼の違いも分からないらしく、目をキョロキョロさせているが、敢えて説明する気にもならず、俺は溜息をついた。

 そういえば絵瑠ちゃん出すために10万注ぎ込んだのバレて、美佳にデータ消されたのはショックだったな……。

 なんて考えていたら、自称神様が自ら俺に歩み寄ってきた。


「あっ、あの、お前……面倒臭いから早く天国行ってくれる?」


 髭を擦ってはいたが、それまでの堂々とした態度とは打って変わって投げやりな物言いである。


「えっ?!もう最期の審判決まったんですか?」


「そうじゃ。コレは天国への通行手形となる天使の羽じゃ。これはわしが渾身の力込めて生み出したものだから、現世には存在しないものじゃ」


「あ、ありがとうございます」


 俺は一応お礼を言って、その辺の雑貨屋にでも売ってそうなチープな肌触りの真っ白な羽を手にした。


 ――時間稼ぎも限界のようだ。


 本当は突っ込んでやりたいことが山ほどあるが、やはりこれ以上は刺激しない方がいいと俺は判断した。



「では、天国への扉を……」


 神様が大きな声で俺を“天国に行く”と書かれた方のドアへ誘導しようとした瞬間に「バンッ、バンッ!!」という破裂音が耳をつんざいた。


 どうやら俺は天国には行かずに救われそうである。



 それとほぼ同時に開かれたのは……“地獄へ行く”方の扉だった――。



 ***



「全く吉谷くんときたら……あれほど単独行動は控えるようにって言ったでしょ?!」


 もう何度目かも分からないお説教を繰り返すのは、地獄からの使者……ではなく、俺の恋人の姉であり、同僚でもある捜査1課の安部茉莉警部補だ。俺と同い年であるにも関わらず有名大学を卒業したキャリア組である彼女は俺の上司でもある。


 つまり、俺も一応、刑事ってわけ。出世の見込めないノンキャリアだけどね。


「いや、だから“すみませんでした”って何度も謝ってるじゃないですか」


 俺は現在、自分には不釣り合いな個室病棟に入院させられている。


 まぁ、事情聴取など一般人に聞かれては困るようなこともあるからという配慮は有難いが、そのせいで延々とお説教されるのはなかなかに辛い。


「だから、そのチャラチャラした態度がダメなんだってば!吉谷くんさ、私たちが助けにいかなかったら入信してたんじゃないの?」


「それはないですって!俺はあくまで奴の正体を暴こうとしてただけです」



 あの自称神様はやはり“自称”神様でしかなく、れっきとした人間だった。


 平林一郎(ひらばやしいちろう)というのが奴の本名で“私神の慈悲(ししんのじひ)”という如何にも陳腐な名前の新興宗教の教祖である。年齢は72歳。どうでもいいがあの長過ぎる白い髭はつけ髭だったそうだ。


「そうだよ、剛史はさ警察官のくせにチャラチャラしてるからあんな胡散臭い教祖に騙されるんだよ!」


 今度は茉莉とは反対の方から叱られる。俺の着替えを整理している恋人の美佳だ。


「チャラチャラなんかしてないって言ってるだろ!?だいたい美佳が潜入取材だとかいって行き先も告げずに姿を消すから悪いんだろ?」


「だって、あんなとこ行くって聞いたら剛史、絶対に行かせてくれないじゃん!」


「当たり前だ!実際、1週間で終わるはずの潜入取材がこんなに長引いたのは逃げ出せなくなってたからだろ?」


「まぁ……そりゃあそうだけどさ……」


 美佳は拗ねたような顔をしてみせる。

 柔らかい頬を膨らます俺の恋人は俺より3つ年下の28歳。2年前、とある事件をきっかけに姉の茉莉を介して知り合い、交際に発展した。


 そんな彼女は週刊誌の記者をしていて、“私神の慈悲”の怪しい噂の真相と真実を探るべく信者になりすまし潜入取材をしていたが、意外にも強固な教団の警備体制の中、逃げ出すことが出来なくなっていたというわけだ。


「とにかく、あの山中にあった“私神の慈悲”の活動拠点に居た信者は全て保護したわ」


 茉莉が呆れたように言った。


「そうですか、ありがとうございます」


 俺は包帯でぐるぐる巻にされた頭を下げる。


 俺が“最期の審判”(……という名の入信試験)を受けた日から3日が経過している。


 あの審判は信者の資産を割り出し、それを寄付すると契約させることが目的である。ちなみに俺の場合、俺自身は安月給だが実家がそれなりに金持ちだったため天国へ行く(=入信)が認められてしまったのだろう。職業も“公務員”としておいたしね。


 入信したも者は、あの山中にある教団の施設で生活することになる。ちなみに地獄へ行く(=入信拒否)されると目隠しをされて車に乗せられ適当な所で降ろされるらしい。“現世こそ地獄である”という教団の信念に基づいている。

 天国へ行く(=入信)する際は全ての資産を教団に寄付するため、教団の教祖つまり神様を自称する平林と幹部達は豪遊三昧だったそうだ。この他にも教団の活動は不透明な部分が多くあり、これから何もかもが明らかになっていくのだろう。


「信者の話によると大抵の場合は街中で勧誘され、審判の部屋に行き、入信チェックを受けるらしいわ」


「……なるほど。でも、何で俺も……」


 俺はバイクを飛ばして事故っただけで、あの時点では教団に興味があるかどうかなんて分からなかったはずだ。


「あのS字カーブは事故が多いの。教団はそれを監視してて怪我した人をあの審判の部屋に通す。そうすれば錯乱状態の人間は結構な割合で入信しちゃうみたいよ」


 茉莉の報告に美佳も「うん、うん」と頷く。


「実際に自分が“死んでる”って思ってる人も何人かいたよ」


「そんな馬鹿な……」


 と、俺は一応言っているけれど、確かに最初は混乱してたもんな。あれは信じる人間が居てもおかしくはない。


「まぁ、これ以上の捜査報告は退院してからにするわね。記事にされたら困るから!」


 茉莉が妹を睨むと、妹も姉を睨み返す。決して仲の悪い姉妹ではないが、双方の商売柄、こういった対立は常に起きる。


「記事になんかしないし!せっかくやった潜入取材も警察のせいでお蔵入りだし」


「当たり前でしょ!だいたい私たちが助けに入らなかったら2人して一生“天国”暮らしだったかもしれないんだから感謝しなさいよね」


「ま、まぁ……落ち着いて……」


 俺はいつものように2人をなだめる。常にパンツスーツを着こなし男勝りの姉と、ふわふわのスカートを愛し自由奔放な妹の仲裁には骨が折れる。


「そういえば……吉谷くんが持ってた羽だけど……」


 茉莉が思い出したように言う。


「はい、あの“天国への通行手形”とかいうチープなやつですよね?」


「アレ、鑑識さんと科捜研が成分の割り出しをしてるんだけど…………」


「えぇ」


「私、そんなん貰ったかな??」


 ……と言うのは美佳。



「“成分が特定出来ない”のよ。“この世には存在しない物質なんじゃないか”って皆頭を抱えているわ」


「…………」


 いや、まさかね……。


「まぁ、まだまだ捜査は始まったばかりだしね。管轄も違うし、これ以上の深入りはやめましょう」


 茉莉は自分で自分を納得させているようだった。


「そうだね。剛史もあと3日で退院出来るし」


 美佳は優しく微笑む。彼女に怪我が無かったことは不幸中の幸いである。


「ありがとう」


 俺は愛しの彼女に笑顔を見せる。退院したら説教と報告書と懲罰会議が待っているから、まさしく地獄生行きなわけだけど、彼女が傍に居てくれれば何とか乗り切れるだろう。


「てゆうか、お姉ちゃんはどうやって私の居場所分かったの?」


 美佳の質問に茉莉の顔が一瞬曇る。


「“仁夢(ひとむ)”のマスターに聞いたの」


「お金積んだのね、私のために」


「極秘事項よ」


「分かってる、ありがとう……お姉ちゃん」


 美佳は内心では姉に感謝しているようだ。


 ちなみに“仁夢”というのは茉莉がたまに使う情報屋らしいが、俺にはよく分からないし、分かりたくもないから追求はしない。



 その後、姉妹は病室を後にした。


 俺はまだ少しだけ痛む頭で、あの羽と自称神様のことを思い出す。


 彼が本当に神様だったということは有り得ないが……それはいつか寿命が来たときに確かめればいい……ということにして、俺は目を閉じた。




[完]





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