一話目 忘れ物
レンタルショップで借りたCDの返却日が今日だったのを思い出したのは夕食後のお茶を飲んでいたときだった。
やばっ、早く返しに行かなければ。
そう思ったわたしは急いで部屋に入ると机の上やら中やらを調べた。が、見つからない。どこに置いただろうかと記憶の小箱をあさっていると、ようやっと、思い出す。
そうだ。友達に聞かせるために学校に持っていったんだ。
鞄の中をのぞきこむ。見つからない。逆さまにする。ばさばさばさ。ノートと教科書がこぼれても、CDは出てこない。
あっちゃ~。どうやら学校に置き忘れてきてしまったようだ。
時計を見る。九時ジャスト。
いまから学校に行くべきか?
怖い。さすがに夜の学校は怖い。だが、返却日を過ぎると延長料金を払わなければならない。それはもったいない。
背に腹は代えられない。わたしは部屋を出ると母さんにCDを返しに行くと告げて外に飛び出した。
夜道を急ぎながらわたしは思い出したくないことを思い出していた。
それは三日前に先輩から聞かされた、うちの学校の七不思議だった。
一話目 校舎裏に立っている桜の樹の下には死体が埋まっている。
二話目 焼却炉の中から焼け死んだ生徒の悲鳴が聞こえる。
三話目 読むと呪われる図書室の貸し出し禁止の本。
四話目 夜の校内を徘徊する保健室の人体模型。
五話目 ひとりでに鳴る音楽室のピアノ。
六話目 笑う美術室のモナリザ。
七話目 知ると呪われる。
うっわー。聞かなきゃよかったよ。といってもむりやり聞かされたんだけど!
わたしの意思に反して七不思議がぐるぐると脳内で反芻する。
涙目になってしまったわたしの前に、夜の闇に溶けこむようにそびえ立つ、コの字型した四階建ての校舎が出現した。
着いた。着いてしまった。お化けたちの居城に。
怖い。入りたくない。引き返したい。だが、そんなわけにはいかない。だって、延長料金払いたくないもん。
わたしは意を決すると、正門を押した。
それでどうしたかって? なんのことはなし。警備員さんについてきてもらって、無事、CDを見つけられました。
「ありがとうございました」
親切な警備員さんにお礼を言ったあと、わたしは学校をあとにした。
途中レンタルショップに寄ってCDを返却し、家に帰り部屋に戻ったとたん、わたしはあることに気がついた。
そういえばうちの学校、警備員なんて雇ってないじゃん。