THE SLAIN
男はいつしかスレインと呼ばれるようになった。
その男の本当の名前を知るものはいない。
彼は殺した。生まれた時から殺した。何もわからずに、けれどとても上手く。
物心がつくと、彼はもっと上手く殺した。まさに生まれながらのスレイヤー。彼は迷うことなく殺し続けた。
彼はマントを翻し、町から町へとさすらった。
彼の後には、必ず死があった。
人々は彼を怖れはしなかった。むしろ、待ちわびていた。
彼が殺すのは悲しみだった。ただひとつ、悲しみの感情だけを殺す、取り去るのだ。
彼と視線を合わせるだけで、悲しみは消えた。もう生涯悲しみにくれることはないのだ。
彼は悲しみをすべて取り込んでいるようだった。その表情は悲しみに満ちているようにも見え、冷たく無表情にも見えた。
悲しみのない人生など知らない。悲しみを殺された者の人生など知らない。望む者に、スレインは悲しみの死を与える。
それが彼の人生だから。悲しみだけで生きて行くのが彼の人生だから。
今日も彼は街を歩いて行く。黒いマントを翻して。