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4 遠出

約一か月ぶりの更新です。今回は久しぶりにPCで執筆しました。死神優先ですがゆっくりと更新していきます。


私はいきなり戦線離脱ですが。by ウァルナ&エルエン

「父さーん!!」


ギルファーは金切り声に近い声で約八百メートル後方の自分の洞穴にいる父親を呼びながら崖にびっしりと生えた蔓を張り、深緑の花を咲かせる植物に見入った。花びらの一つ一つに紫の斑点があり、中には三日月を描くものも見つけた。まだ子供の彼はそんなものでも興味の対象だった。


しかもこれが今日二度目の巣穴の外を眺められるチャンスだ。翼は未熟で空を飛べるものだはなく、感情を表すときだけに使う。移動はよちよちと小ぶりな脚でその辺を歩き回るのに留まった。ある程度成長するまで親が運んできてくれる獲物を食べては眠るといった生活を既に半年以上続けてようやく外に出られるのだから、そうなるのも当然だった。ただ、出られるといっても巣穴の外の崖の上に限られたが。理由は単純。下は断崖絶壁だということ。そのおかげでギルファーは先には行けず、常に親の目が行き届くのだ。


しばらくして父親が巣穴から外に出てきた。そうして彼を見るなり巨大な翼を軽く広げて二、三回羽ばたき、楽々と傍に降り立った。自分より巨大なブルーの瞳が彼に注がれた。


「どうした?何か見つけたのかい?」


父親の名前はエンダーという。


「これ」


幼竜は小さな鉤爪で花を指した。


「綺麗だなぁ……」


「これか……」


エンダーは目を細めてその花を一緒に眺めた。そして首を傾げて答える。


「これはメルグラートだったか。そんな花だったぞ」


「メルグラート?それはなに?」


無邪気に彼からの言葉を繰り返し、好奇心いっぱいに父親にさらに質問をぶつけた。


「薬草の一種だよ。肺炎を治すと言われているけど父さんは信じられないな」


何気なく愚痴をこぼしてしまい、エンダーは慌てて口を閉ざした。


「ふうん……」


“肺炎”や“薬草”を知らない彼は理解できなかったのでそんな返事だった。そして更に彼は別のものを見つけた。


「じゃあ、花達の中にある僕みたいに光るこの花は?」


「どれ、見せてみて」


ギルファーは言われるままに草をかき分けてエンダーに見えるようにして、父親が身を乗り出した。幼竜が見たそれは花びらが青く、まるで生命の火を放っているように発光し他とは違って目立つ存在だった。しかもその花自体が別の植物に紛れているので更に異彩を放っていた。


「これ他と違うよね」


エンダーはその花をまじまじと眺めて一瞬表情を強張らせた。ギルファーはそれを見逃さずに見てしまった。自分の父親が今まで見せなかった反応に彼はすぐに身を引いて後ろに下がった。


ギルファーは罪悪感に駆られた。どうしてあそこまで顔をしかめるのか理解できなかった。もしかして見つけてはいけないものだったのかな?頭を下げて鼻づらを前脚につけ、色々と考えた。でも明るい想像とは程遠い。


そこで視線を外の世界に移した。見る限り全てが森林に覆われ、山の麓の岩場を貫くように南の方へ下る川、その上流に位置するアルトネイン湖が唯一開けた場所だった。更に北方には空間エバンヌの竜大陸首都のウェーンドへと続く。草原は先々にあるだろうが遠いと話してくれたが、どうだろうか?


「ギルファー」


不意に父親に呼ばれ、意識が景色に半ばいっていたせいで冷水を背中にかけられたように尖った耳を立てた。


「何?父さん。驚かさないでよ」


「凄いものを見つけたな」


父親を再び見つめると顔は笑顔を浮かべていた。まずはそれでギルファーはホッと胸を撫で下ろした。そして彼は何が凄いのかについて考えた。あの花の見方はどこにでもある雑草と同じと思っていた。でも違うらしい。頭を突き出して見つけた花を見つめる。


「これのどこが凄いの?」


すぐさま教えて欲しいと彼はねだった。まだ何も知らない彼には興味の的だった。そのリクエストに父親は答え、爪先でその花を指して説明した。


「この花は万病に効く珍しい花だよ。どんな状態になっていても時間とその者自身の心が折れない限り、治せるんだ。名前は父さんにも分からないけどこれは絶対に覚えておいた方がいい。いつか本当に必要になったときまで取らないでおこうな」


「うん」


幼竜は頷いた。そして頭の片隅にこの花のことを記憶した。


「さあ大人しく洞穴に戻って。今日は忙しいよ。今のうちに狩ってきた朝御飯を食べなさい。大陸の外に出る長旅だから」


父親はそう言って戻るように促してきた。ギルファーはエンダーがとても楽しみにしていることに気付いた。一方で明かした本人は翼を広げてちゃんと羽ばたけるか、どこか悪いところはないかを確かめようと体のあちこちに首を伸ばした。


「それって僕も連れてってくれるの?」


途端にギルファーの深い蒼の瞳が一際輝き、興奮して尾を振った。遠出など生まれて初めての体験だった。ずっと洞穴の中でいてそろそろ周りの景色に飽きてきたところで、どこか別の場所に行きたいという願望を抱きつつあった。


「今回は特別だからな」


そうエンダーに言われると彼の気分は更に良くなった。ギルファーは花への興味をすっかり忘れて洞穴に帰り、貯めてあった獲物の肉に次々と食らいつき、腹の中がぱんぱんになるまで食べた。するとやはり成長期真っ只中なのですぐに眠気がきた。洞穴に湧き出る水を少しだけ口に含んで奥の藁の寝床に身を横たえると一分も経たないうちに自分はスヤスヤと寝息を立ててしまった。


その間彼はエンダーが何をしていたのかを知らない。これが父親の思惑だった。眠っている最中に事を済ませる。彼はその度にいつそこに着き、いつ帰って来たのかを問う。答えはいつも眠っていたときと言う。それに対抗してギルファーは目覚めたままウトウトしながら粘るのだが眠気には勝てずに毎回失敗した。一応父親とはよく近場には外出はする。ただし、その間眠らされるというパターンで。多分自分はずっと洞穴の中にいたと思うが。そして今回も寝るのを我慢するのに失敗してまたああなると悔しそうに眠りに落ちてしまった。


「ギルファー、起きろ。行くよ」


しかし、今日は例外だった。いつもならそっとしておいて行くはずの父親がわざわざ自分を起こしに来たからだ。彼に熱い熱風を吹きかけられて起こされた。


そうして目を覚まし、半分目を閉じた状態で父親を見てみると本格的な旅装だった。エンダーの太いがっしりとした肩には巨大な皮のバッグらしきものを掛け、背には自分のために乗る場所が気持ちよさそうな毛布で作ってあった。


「分かった。でも……僕が大人しく寝ている方が都合いいんじゃないの?」


いつものことに対して不満を言いながら、後ろ脚で立ち上がった。眠気のあまり欠伸をして空いた前脚で目の周りをごしごしと擦り、父親の話に耳を傾けた。


「今回はお前にも用事があるんだよ、ギルファー。これから行く所はお前の産まれた場所だから、起きていて欲しい。自由には行動できるけど大人しくね。人間が沢山いるから」


エンダーは幼竜の頭を優しく撫でながら端的に息子に説明した。


「人間って何?それはどんな生き物?食べられるの?」

ギルファーは目をぱちくりさせて父親に質問を浴びせた。


「私達竜よりも小さい二本足の生き物だよ。南の方に沢山住んでいるんだ。賢くてみんなと協力して大きなものをこしらえたり、獲物を捕らえたり、とにかくやることが凄いんだよ。父さんの予想を遥かに超えることを起こせるからな。だけど、危なくはない。そんな者達だよ」


そして誤解しないように一言付け加えた。


「食べちゃだめ」


「何だか僕らみたいな生き物だね。大きな物を作ったり、仲間と協力するのは別だけど……」


ギルファーはそう言って南の山脈に目を凝らした。アルトネイン湖から出た川が蛇行を繰り返して向こうの山を追うように伸びていく。この川の終端は山々に上手く隠されていて見えないが、必ず海というこの山よりも巨大な水たまりに通じていると父さんは話してくれた。そしてその海の彼方に人間の住む世界があると教えられるとギルファーはそこへ行ってみたいという思いが湧き上がった。


ただ、人間をイメージした姿があまりに恐ろしくて行くのを躊躇う自分もいた。エンダーの説明から想像した姿は二本足で立ち、全身が黒い毛皮に覆われ大きな手と爪と鋭い牙を持つ怪物だった。簡単に言えば黒い熊と竜が合体したようなところか。自分達より小さいとは言っても大きいものもいるのでは?とネガティブな想像で勝手に不安に陥った。トドメに協力という言葉。そいつらが周りにびっしり……。もう嫌だった。


「そうだな。似てるかもしれない」


父親は息子のそんな状況も知らずに深く息をついた。


「本当に大丈夫だよね?人間って」


エンダーは彼の怖気づいた質問に困惑し、顔をしかめた。


「どうしてそんなことを?お前は……」


そう口を滑らせ、ハッと何かに気付いたらしく頭を後ろに引いて小さく振った。かなり動揺してしばらくまともに目を合わせてくれなかった。振る舞いがおかしい。ちょうど自分が空腹のあまり父親の分の肉まで食べてしまい、それをうっかり喋りそうになった時のように取り乱していた。


ギルファーは言わなかった部分が気になった。父さんは何かを隠している。すぐに疑った。


「僕が何なの?」


幼竜はじっとエンダーを見据えた。一方でエンダーはうろたえてブルーの目がキョロキョロと動いた。


「何でもないよ。悪いことを思い出しただけだ」


「悪いことって?」


「余計なことを考えていただけだ。今回の旅のこととか」


大きなため息をついて地面に身体を伏せてギルファーに背中に乗るよう促した。


「ギルファー、乗って」


明らかな嘘であった。この誤魔化しは成竜には通用しないだろう。しかしギルファーはまだ幼く、純粋な性格だったために父親の答えを疑おうとはせずに鵜呑みにしてしまい話題がそこで終わってしまった。


「うん、分かった」


幼竜は話すことを止めて、大空への期待を胸に父親の背中を両脚を使ってよじ登り始めた。鱗が滑らかなだけに何度か足を滑らせて転げ落ちたが、めげずに頑張った。そして最後にはちゃんと背に乗り、もう落ちないように背中から生えた棘に掴まった。というのも彼は飛べないからだった。小さな翼を閉じて広いエンダーの背に身を預けながら不安そうに首を伸ばして自分の姿勢に目を配り、確かめた。


「ちゃんと乗った?」


エンダーはギルファーに尋ねてから後ろを向いて直接息子の安全を確認した。


「乗ってるよ。大丈夫」


深呼吸をして息を整えると父親の身体に前後両脚でしがみつき、尾まで巻きつけた。こうしておけば突風に煽られてもつかまっていられる。


エンダーは翼を広げた。広げた際にギルファーに軽く当たったが、それほど支障はない。ギルファーは父親の翼を眺め、自分も早く飛びたいと心の奥底から願った。その間にもその本竜は巣穴の崖の端まで歩いて行き、立ち止まると身体を揺すって念入りに安全を調べた。そしてそれが終わると


「行くよ」


の合図で地面を蹴った。


蹴った際に自分の拳大の石が真下に落ちたが、彼らは大空に力強く舞い上がっていた。さっきまでのそよ風が突風に変わり、襲い掛かってきた。唸るような低い音を立てて早速背中に乗るギルファーを叩き落とそうとする。


彼は最初の姿勢を維持し、自らの翼が気流を捉えて(船で言えば逆帆になって)後ろに引かれるのを防ぐために翼を限界まで畳んだ。それさえ乗り越えれば楽しいひと時に変わった。


現在本小説のペース

執筆ページ/投稿ページ分

228/44

原本より、一部を省略しています。

意味が分からない人は第3話活動報告参照。

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