表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dragon World Tripper ~初まりの朝~  作者: エントラル
第6章 異世界の狭間へ(仮名)
52/56

46 予期せぬ襲撃

45話の修正バージョン後半です。また、原文より若干ストーリーを進めてあります。

「どの世界の夕日もあんまり変わらないね」


ギルファーは太陽が傾き始めた空を眺めがら、ふと呟く。もうクロモスクという街は遥か南の地平線の彼方へと沈み、彼らはあまり人間の住んでいない北の大地に向けて飛んでいた。


その間に彼らはこの世界のことを父親から教えられた。人間の持つ竜の見方やこの世界の竜達の社会について、珍しい現象など様々なことを。中でも空間スタールテランの竜は、自分達のように異世界を渡ることの出来ない種類しかいないことを聴いたときには驚かされた。てっきり僅かばかりでもいると思っていたからだ。


そうして会話するうちに途中で海を渡り、新たに現れた大陸を進んでいくと緑豊かな森は消えて、代わりに暗い緑色で鋭く尖った木々と雪を被った山脈のみが永遠と続くようになる。その風景は自分達が住んでいた住み処に近い。また、身体に感じる冷たさも似ている為に親近感が湧いた。


「たまたまだよ。他の異世界に行けば太陽すらないところだってある。これはまだ序の口だと思った方がいいぞ」


エンダーは楽しげに言う。だが長時間飛び続けたせいで翼の筋肉には熱が籠り、羽ばたく速さも大分落ちていた。息こそ切れてはいないが父親と言えども、体力の限界が近いことは間違いないだろう。


「まだ序の口なんだ……」


エントラルは頭を引いて難しげな顔をする。以前彼から故郷について教えて貰ったが、太陽もコレと同じなのだ。3つの世界を渡ってきたのに、どれも変わらないというのが不満なのか、溜め息をつくのが見える。


「エントラル、太陽が同じでも他の所を見れば……」


なのでギルファーは落ち込む彼を元気づけようとした……そのときだった。平和な時間が終わりを告げたのは。





「――――!!」


ギルファーが口を開いたとき、今まで静かだった空に突然甲高い奇声がこだました。奇声は一回だけではなく、お互いを呼び合うように絶え間なく響く。つまり相手は複数いるようだ。声はとても複雑で、高いものも若干低いものもある。その声はよく耳にした鷹の攻撃的な鳴き声に似ていた。


エンダーがやや羽ばたきを弱め、視線を四方八方に向けて警戒する。その青い眼は何かを威嚇するように鋭く、だが一方で焦りが見えた。自分達の安否を確かめる為に時折、こちらにも顔を向けてくる。


「父さん……この鳴き声は!?」


「カルグレイスだ!!だが何故我々を……」


ギルファーの問いに父親は即答で答え、急いでその場から離れようと今度は羽ばたきを早める。エンダーの声は明らかに動揺していた。不意をつかれたような、そんな感じに見える。彼の表情からさっきまでの余裕が消えた。


(そんな!!こんなときに……)


エンダーが説明したその日の遭遇にギルファーは戸惑いを隠せない。その直後、鳴き声の主が自分達の上空、つまり青い空を覆い隠していた白い雲の中から……巨大な影と共にその姿を現す。まるで噂をすれば……のような嫌な偶然だ。


厚い雲の中から現れたのは灰色の羽毛を持つ巨大な鳥だった。その身体はとても細く、翼が扇のように広がっている。特徴的な長い嘴は捉えた獲物の肉を貪るように鋭く、足には鷹のような禍々しい黒い爪が並ぶ姿はとてもアンバランスに見えた。そしてこちらに向ける冷めた赤色の眼は、竜とは違う感情と明確な殺気を持っている。


彼らは規則的な編隊を組みながら、こちらへスピードを上げて追随してきた。竜は飛ぶのは得意だが、だからといって速い訳ではない。四肢の力が強い分、速さを犠牲にしているのだ。それは鷹がツバメに追い付けない理由と同じである。加えて今は自分達がエンダーに負担を掛けている。圧倒的に不利なのは明確だった。


「父さん……」


「そんな馬鹿な。お前達は……」


エントラルが不安そうな声を上げ、ビクビクしながらエンダーの背中の棘の影に隠れる。だが隠れていても、カルグレイスは翼を傾けてその反対側に回り込んで視界に捉えようとしてきた。


一方でエンダーは未だに今の状況が信じられないのか、相手を睨み付けながら困惑している。今さっきまで彼は襲われないと言っていた。だが知っていることと現実は180度違ったようだった。


(怖い。狙われるってこんなにも……)


ギルファーはこちらに向けられる狩人の視線に、心の奥底から恐怖してしまう。人間に襲われたときとはまた違う狩りの恐怖。自分は数日前まで向こうの立場にいた。それが逆転し狙われる側にされた今、これまで追い掛けてきた獲物がどのような気持ちを感じたのかが理解出来る。圧倒的不利な状況からくる絶望感。死を間近に感じるような身体が冷たくなる感覚。


火吹きは狙わない。その常識が覆されることを予期出来なかった結果だった。


自分とエントラルの天敵、カルグレイス。彼らは自分達を狩りの獲物として狙い、周囲を徐々に包囲し始めていた。その数……10匹。


頭上にある蒼い空が……一段と暗くなった。





「去れ!!」


直後にエンダーが口を開け、目の前の行く手を塞ごうとする一羽に向けて青い炎を吐いた。吐き出された炎はとぐろを巻きながら真っ直ぐ相手に向かっていく。また、自分が見たときとは比べ物にならない位に大きく、勢いが激しい。


至近距離からのその攻撃は相手の羽毛に包まれた身体を焼き、致命傷を与えるかに思えた。だが相手は予想の遥か上をいく行動を取る。


カルグレイス達は一瞬だけ緋色の眼を細めた途端、エンダーが火を吹く寸前にその場から退避したのだ。直後に吐き出された炎は虚しく空気を焦がした程度に留まり、相手には全く当たっていない。そして何事もなかったかのようにこちらへの包囲網を敷き直す。その様子には恐怖の欠片もなく、寧ろ完全に慣れているように見えた。


「なっ……!!」


これにはエンダーも驚きを隠せなかった。何故ならば相手は火を吹くタイミングを伺い、器用に彼の攻撃をかわしたのだから。しかも、何の素振りも見せていないときから。


それから父親は怒り狂ったかのように、周囲へ炎の奔流を撒き散らし続けたが、向こうはその攻撃を嘲笑うかのように全て避ける。中にはわざとらしくちょっかいを掛ける者もいて、向こうのペースに段々と乗せられていた。


しばらくするとエンダーは炎を吐ける力を失い、荒い息遣いで睨み付けることしか出来なくなってしまう。逆上してしまったのがあだとなったようだ。同時に飛ぶ速さも格段に落ちて、向こうが縦横無尽に飛び回れる程の隙が生まれかけていた。


「父さんの炎が……!!」


エントラルが絶望したように呟く。そして希望が打ち破られたショックのあまり、彼は茫然と立ち竦んでしまう。息は恐怖で乱れていた。


ギルファーも同じ状態だった。自分達の持つ最大の武器である炎が当たらず、効かない。それは紛れもなくこちらに勝機がない、敗北宣告を受けるに等しいことだ。炎を怖がらず、容易にかわされてしまっては威嚇の意味がない。炎がなれればエンダーはただの大きな的になってしまう。


「――――!!」


そして……炎を封じられた彼らに、カルグレイスは容赦なく群がり襲いかかった。まるで……この瞬間を狙ったかのように。





「掴まれ!!」


エンダーの甲高い叫びと共に視界が傾き、双方がぶつかる衝撃が自分達を襲った。その遠心力に振り落とされないようにギルファーとエントラルはエンダーの背中に爪を立て、必死に耐える。これに負けたら自分は終わりだ。地面に落ちた衝撃に身体が耐えられずに死ぬだろう。


視線を後ろに向ければ四羽のカルグレイスがその嘴と脚を開き、こちらを捕らえようと迫ってきた。その飢えたような目付きに、思わず身体が固まってしまう。だが竜として……負ける訳にはいかなかった。


「―――!!」


追い付いた一羽のカルグレイスが、奇声を発してながらエンダーの背中の上に躍り上がる。そしてぶつからない距離を保ちつつ、嘴を二匹に突き立てようと襲いかかってきた。翼こそ巨大だが、胴体は小さい為に動きが俊敏過ぎてエンダーの守りでは防ぎきれないのだ。


先ず狙われたのはギルファーだった。カルグレイスは慎重にこちらの動きを観察し、嘴を突き出してくる。それに対し、彼は掴まる位置を変えながらそれを必死にかわす。だがエンダーが囮役の4羽を相手に肉弾戦を繰り広げている為に、動ける範囲は限られていた。


父親の鱗は硬く、彼らの嘴程度では貫通などしない。でも弾いた攻撃が慣性でこちらに向かってくることが度々あった。その度にバランスを崩しかけ、カルグレイスが隙を逃さず攻撃を仕掛けてくる。


今だからこそ上手く避けていられるが、じわりじわりと精神を削られている為、当たるのは最早時間の問題だった。





そして……とうとう向こうの攻撃をかわしきれなくなった、鋭い一撃がギルファーに襲う。急所こそ外したものの、嘴の先が彼の肩を掠めまだ硬くなっていない鱗を引き裂いていた。怪我を負った箇所からは赤黒い血が流れ出し、すぐさま激痛が容赦なく襲いかかってくる。そのせいで傷ついた側の前脚に力が入らなくなった。


「ギルファー!!」


親友が怪我を負ったところを間の当たりにしたエントラルが悲痛に叫ぶ。彼の方は父親の背中の棘の間に上手く身を潜めていた為に、あまり狙われていなかった。恐らくあのままじっとしていれば大丈夫だと思う。問題なのは自分の立場だけだ。幸いにも。


「大丈夫だ……!!」


ギルファーは傷に呻きながらもエントラルを安心させようと言葉を返す。だが、その間にもカルグレイスの襲撃は収まることなく続く。執拗な嘴による攻撃に晒されて、血を流しながら自分は動き続けるが、再び避け損ねてしまい今度は翼を破られる。


「ぐあっ!!ぐ……」


さっきとはまた違う痛みだった。冷静さを奪うような、また動くことを麻痺させてしまうような激痛。今度こそ……本当に危険な状態だった。自分の背後には黒い影が被さり、今にも止めを刺そうとしているのが解る。


だがその前にエントラルの様子を見たとき、ギルファーは全ての痛みを忘れる光景を目にした。


「ギルファー!!」


自分が傷つき弱っていくことに耐えられなくなったのか、エントラルは今まで隠れていた背中の棘の間から飛び出したのだ。その表情は悲痛に歪み、今にも泣きそうだった。左右に激しく揺れるエンダーの背中の上を伝い、自分を守ろうとこちらに走り寄ってくる。


「エントラル!!来ちゃダメだ!!」


ギルファーは咆哮しながら叫び、親友の行動を止めようとした。しかし、彼は駆け寄る足を止めない。意地でも傍に行くつもりのようだ。このままだとエントラルもカルグレイスに……。


「っ!!」


また自分に止めを刺そうと近づく、一羽のカルグレイスを睨み付けようとしたとき、あることに気づく。何かが違うことに。そして次の瞬間にギルファーは、エントラルに向かって痛む身体を引き摺りながら走り始めていた。


敵の眼は確かに自分に向いている。だが見据える視線の先が自分ではなかった。もっと上……つまりはもっと遠くを見ていたのだ。他でもない、助けに向かおうとする彼を。


そう、カルグレイスの狙いは自分ではなかった。傷ついた仲間を助けようと向かい、周りへの警戒心が薄れたエントラルを……。


(それだけは……させない!!)


ギルファーは行動を躊躇わなかった。傍まで来た親友にすまないと謝りながらも、前脚を握り締めた拳で殴り飛ばす。それによって無理矢理に彼の身体を倒すと、自分は庇うようにその上へ覆い被さった。全ては親友を守りたいが為に……。





直後、腹と頭に強い衝撃を感じたのを最後にギルファーの意識は暗転した。暗転する前、最後に聴こえたのはカルグレイスの奇声に混じって泣き叫ぶように自分の名前を呼ぶ、エントラルの声だった。

意見や感想、不自然な点があれば投稿お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ