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Dragon World Tripper ~初まりの朝~  作者: エントラル
第6章 異世界の狭間へ(仮名)
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43-1 空間スタールテラン-side Entral

こちらはエントラル視点のものです。


先に投稿した43話とは文章が若干違います。

「ここが……空間スタールテラン……」


自分が記憶に焼き付けた世界とは更に違う空気と景色。エントラルはそのことを分かっていても、思わず目を見開いてしまった。見るもの触れるもの全てが初めてな、完全に異なる世界。それは幼竜にとって、これ程飽きないものはない。彼はギルファーと一緒に異世界の景色を楽しんだ。


空間スタールテランは、自分達が出発した世界の時間とは異なり、この世界は夜になっていて太陽の代わりに月が空高く昇っていた。風は自分の世界とは違って暖かく吹き、春が訪れていることを静かに告げている。空に浮かんだ月も自分の知る2つの世界の月ではなく、青白いもの。星の位置も色も明るさも違う。


そんな空の上、正確には低い雲にぶつかる程度の高度で彼らは飛んでいた。まだかなり高いところからの景色なので正確には語れないが、少なくとも人里離れた森の上を飛んでいることは確かだった。一見するとどれも同じような木々が立ち並んでいるように見えても、恐らく生えているものはどれも同じではないだろう。加えて、川は蛇行することなくはっきりとした方向性を持って大地を切り裂いている 。


視線を前に向ければ彼らのいるところまでその背を伸ばす、雪を被った巨大な山脈が見えた。断崖絶壁にそびえ立つその威容は人を寄せ付けることなく、竜をその地へ降り立せる何かを漂わせていた。


「凄い所だね!!異世界って。どれを見たことがないものばかりだ」


ギルファーは余程嬉しかったのか、興奮した声で前を見据える父親に話掛けている。しかし一方でエントラルの喜びの色はすぐに冷めてしまい、黙り込んでしまう。


ギルファーはこうして異世界に飛ぶのは最初だからこそ、素直に喜べた。でも彼は一度、異世界を渡っている為、驚きはするものの少し慣れている。それが今、複雑な気持ちにさせた。あの出来事さえなければ……自分も彼のように喜べただろう。でもあれがあったからこそ自分は……。


「そうか……。なら良かった。喜んでくれて……」


直後、父親の疲れ切った返事が自分の耳に響き、思考がそちらに向いた。気付けばさっきまで速かったペースがかなり落ちている。羽ばたきもとても弱ければ呼吸も……荒い。


「父さん……?」


ギルファーは父親の異変に心配の声を掛ける。エントラルもこんなに疲れた様子の父親を目にするのは初めてだ。思わず彼と同じ言葉を出すが、彼の声に掻き消される。さっきまで彼と元気そうに喋ってたのに……どうして?


訳が分からずエントラルとギルファーはお互いに顔を合わせ困惑する。飛び立ってから時間は経っているが、疲れるには早過ぎると思う。普通ならば悠々と飛んでいる筈なのだ。


「ギルファー、エントラル。訳は……後で説明する。今は……しっかりと背中に掴まっていてくれ。地面に降りるぞ」


息切れをしているのかエンダーの言葉は所々切れていた。 二匹はその様子に大丈夫なのかと心配したが、当の本人が地面に降りると言うのですぐさまその考えを後回しにし、今は背中から振り落とされないよう棘に掴まることに集中する。途端にガクンと父親が翼を傾けて視界が揺れ、身体の中の臓器がフワッとなる違和感と、傾けたときの加速による突風が彼らを容赦なく襲った。


「父さん、物凄く息が荒いよ……大丈夫?」


疲労困憊した父親が近場にあった木々の生えていない場所を選び地面に着地すると、二匹はすぐさま背中から降りて傍に駆け寄った。どうしたのだろう?もしかして自分がいたから……重かったのかな?エントラルはもう少し父親に配慮して、楽な位置に乗るべきだったと後悔の念に囚われそうになる。


「ハァ……大丈夫さ。これは世界を渡るときにある、副作用みたいなものだ」


父親はうなだれながらも巨大な青い瞳をこちらに向けてな がらも、自分達を安心させようと小さく笑ってみせる。だ が、その瞳の中は疲弊しきっていた。


「「副作用!?」」


エンダーの明かした衝撃的な事実に、二匹はそれぞれの瞳を大きく見開いて驚愕の表情になる。特にエントラルに至っては、一度世界を渡った経験がある為衝撃は大きかった。そんなことは初耳だ。自分が異世界を渡ったときには疲れなんて……なかったのに、どういうこと!?持っていた常識が音を立てて崩れていくのをエントラルは感じた。


彼の困惑する間もなく、エンダーの言葉は続く。


「そう、副作用。異世界間を行き来するときに使う能力は 、身体の中に蓄えられた体力と精神力を対価にするんだ。 だがその消費する量は並ではない。何しろ世界の扉を開けるのだから。多大なエネルギーの塊である世界に入るにはそれ相応のエネルギーがこちらにも要る。出るだけなら簡単だが……その逆は難しい。だから父さんでも疲れてしまうのさ」


重苦しい息をつきながらエンダーは説明する。声からするに話すのも辛そうだった。父親でもすぐに疲弊してしまう程のエネルギーの消費。もしそれが本当で、自分が渡ったときにそんな法則が働いていたら……?考えるだけで寒気がした。


でもよく考えれば自分が空間エバンヌに跳ばされたときと、さっきの世界渡りによる力の流れは全く違った。多分……僕のときは別の方法を使ったんだと思う。何でか判らないけど、これに当てはまらなくて良かった……。


「じゃあ……能力は一度に何度も使えないってこと?」


でもエントラルはそれとは別に気になることがあったので、エンダーに質問する。世界を渡るという夢のような能力でも、一回だけで疲れてしまうのなら……。


「ああ、使えない。一度に何度も使えば……例え生命力の強い私達でも衰弱してしまう。身体を休めなければ最悪の場合……死に至る」


死。一度は死の淵に立ったことのある二匹には充分過ぎる言葉だった。エントラルは直後に死の寸前の冷たい感覚を思い出してしまい、ギルファーに身体を寄せて苦しみを和らげようとする。彼もまた、自分と同じ気持ちだった。お互いにその経験がある為に彼らの脆い心は揺れる。


「便利な力じゃないんだ……」


ギルファーは落胆して肩を落とし、エントラルは自分にも秘める能力に複雑な思いを抱いた。世界を渡る能力。それは空間竜の最大の利点でだけど……万能じゃない。父親の今の様子を見れば、はっきりと判る。どれ程便利で……危険な力だということが。


「万物全て……利点があれば欠点も必ずあるんだ。欠点が ないものなんてない」


エンダーはそう言うと、疲弊した身体を無理矢理に起こし立ち上がる。相変わらず息が荒いことに変わりはないが、 幼竜である自分達を伴っているせいか目の色はギラギラと荒々しい強さを宿していた。こちらを見下ろして目を配りつつ、後ろ立ちになって周囲に視線を巡らせ警戒する。自分もギルファーも心配の声を上げるが、父親は大丈夫だと笑顔で応えた。


「取り敢えず……ここは危険だ。見たところ人里からは遠 いが、街道が近い。竜討士にでも遭ったら不味いからな。 移動しよう」


そしてゆっくりとした歩みであるが、空を飛ぶ竜では珍し く四本脚で深々と茂る森の中へと足を踏み入れる。二匹は 父親に置いて行かれないように急いで後を追った。彼の一 歩は自分達の十歩に相当する。それだけに走らなければな らないのは必至だった。


「リュウトウシ……?」


横に追い付いたエントラルとギルファーは、歩きながら彼の口から出た単語を反復するものの、その意味が解らず首を傾げる。また聞いたことのない名前だ。新しい故郷、空間エバンヌでも同じ思いをしたので大体予想はつく。多分……生き物の名前。うん、当たり前だね。


「我々の世界で言う、竜狩りの人間達だよ」


竜狩り。エントラルにとって理解するには十分過ぎる言葉だった。親友を絶命させた元凶たる存在。自分でも絶対に許さない人間の行い。 その話を以前聞いたとき、彼はとても辛そうで……胸が痛かった。自分よりも仕打ちが酷い。追い出されるだけでなく、生きることすら否定するなんて……。


エントラルが俯こうとしたとき、隣で地面を抉る湿った音がした。ハッとしてそちらを向くとギルファーが鉤爪を地面に立てて、俯きながら古傷の痛みに表情を歪めている。鉤爪は小刻みに震え、力が籠っているのが分かった。


「ギルファー……」


エントラルはギルファーの小さな異変に対し、不安そうに声を掛けた。数少ない親友である為に。今は甘えたいけど……少しでも力になりたい為に、その苦痛を和らげたかった。親友が苦しむ姿を見たくない。自分だって……苦しいんだから。


「大丈夫。平気だから」


ギルファーは歩きながら、横に並んで一緒にいる自分に視線を移し、苦笑しながらもこの思いやりに応えてくれる。でも、まだ動揺しているのは見え見えだった。独りで考え込まなくてもいいのに……。エントラルは彼には聴こえない位に小さく、溜め息をつく。


「安全な寝床を探すぞ。この世界は夜だ。ずっと背中に乗って疲れただろう。話しておきたいことは山ほどあるが、それは明日にしよう。今は……身体を休めないと」


一方でエンダーは一度話題を打ち切ると、余程疲れてしまっているのか、それからは歩くときも無言だった。しかし、辺りを見渡しながら闇雲に寝床を探しているのではなく、何かに向けて真っ直ぐに進んでいる。何処かに寝床があることを知っているのだろうか?


しばらく経ってから、自分達は成竜が複数匹入れる程の巨大な洞窟の入口にいた。人気もなければ、竜もいない。“いた”気配及び、匂いだけは残っているけど、それ以外はただの洞窟。どうやら、ここを今日の寝床にするようだ。


中に入る直前に、エンダーは何故かこの洞窟の名前を自分達に教えてくれた。何でも“クラマドの洞窟”らしい。どうして洞窟に名前がついているのか気になったが、それ以前に強竜の気配が残っているせいで本能的に緊張してしまい、考えることもままならない。


「中は大丈夫だよ。元々ここは……私達のような空間竜が使う、簡易的な休憩場所なのだ。最近は、この世界の竜に占領されて使えなくなったが、見るからにどうやら何らかの理由で離れたらしいな。今日は本当に運がいい……」


エンダーは喜ぶように、小さく低い唸り声を発すると意気揚々と遠慮なく洞窟の中へと入っていく。二匹もようやく地面に横になれることが嬉しくて、はしゃぎながらそそくさとその後を追った。


中は当然のことながら、周囲が夜なだけに暗い。しかし、 竜の持つ視力と暗がりに目が慣れ始めたのもあって徐々に その全貌が明らかになる。


洞窟の中は入り口の大きさ相応に広く、やや窪んだ所が見 受けられる。また奥の方にはここに住んでいた痕跡なのか 、おびただしい数の動物の骨が散乱していた。広い天然の 岩肌は長い間使われたせいで削れていて、所々植物の棘の ように尖った箇所がある。だが外に出るための通り道は大 事に使われていた為、鉤爪の傷はやや残るものの、比較的 滑らかだった。


天井からは何故かポタッと水滴が落ちてくるが、それ以外は自分の巣窟と変わらない。エントラルもギルファー同様、安心しホッと胸を撫で下ろす。


異世界まで飛んだ時間はかなり短い筈なのに、何故か身体が怠く感じる。時間感覚が違うせいかな?頭がボーッとして……。


彼らは中をろくに観察することなく洞窟の真ん中に腰を下ろすと、さっさと尾を身体に巻き付け、丸まる。外がとても静かなことが幸いして、すぐ精神が眠りへと誘われていった。


数分後には三匹全員がすっかり眠り、洞窟内に心地よい寝息が響く。父親の脇にはギルファーがぴたりと寄り添い、エントラルがそのギルファーの脇に身体を寄せて、いかにも幸せそうな表情を浮かべながら……まだ小さな脇腹を上下させていた。

意見や感想、不自然な点がありましたら投稿お願いします。


これにより、視点の切り替えを44話からとします。


先に43話と44話を読んで下さった読者の方々には、視点が切り替わったことで混乱を与えてしまいすいませんでした。

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