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Dragon World Tripper ~初まりの朝~  作者: エントラル
第6章 異世界の狭間へ(仮名)
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42 異世界の狭間

この物語の根幹設定たる空間。それはこんな景色です。表現が下手ですがどうぞ。

不思議な感覚だった。自分という存在が大きな何かに放り出されるような喪失感。そして自分を圧倒するような、方向を持たない巨大なエネルギーの流れ。


エントラルは先程の眩しい光できつく閉じていた目を開けた。だが次の瞬間には思考が完全に止まってしまう。あまりの変わり様に息を飲んでしまう。


そこには自らの想像を越えるものが……目の前に姿を見せていた。





そこには様々な光があった。だがそれは薄い膜のように視界を覆い尽くし、果てがなく広がっている。僅かに灯る白い光、存在を誇示するように激しく点滅する赤い光、水面の揺らめきのように歪む黒い光。様々な光が無限の距離の先に存在していた。手を伸ばしても届かない。どれだけ飛んでも近づくことすら……叶わないような感覚をエントラルは感じた。


だが、彼の視力でも辛うじて届くと分かるものもある。それはこれも無限と存在する巨大で不思議な光の結晶や輪、模様の数々。楕円形の中に六茫星を嵌め込んだような、回転する白い光の輪。中には九茫星が入ったものも、言葉には定義出来ない模様があるものさえ彼方に見える。


巨大サファイアの結晶にルビー色の鳥の翼がついた物体、黒い球に紫色の薄い輪がついたような物体(土星みたいな)、夜空に浮かぶような渦巻き銀河など……とにかく様々な形を取ったものが、空に浮かんでいた。


いや、これは“空”とは定義出来ない。彼がエンダーの背中から長い首を伸ばして下を覗くと、そこには地面がなかった。代わりにあるのは上で見たものと全く同じもの。それが下に……底を見せることのない、無限の“穴”を開けていた。


全てが無限という曖昧な定義で形成された異世界との境目……それが空間だった。そして……彼らはその無限の境目の中を飛んでいた。





「ッ!!」


エントラルもギルファーもその無限の可能性が織り成す景色に釘付けになっていた。自分の存在を……この場所と比べたら、どれだけちっぽけで儚いものだろうか?不思議な虚脱感と底知れない恐怖をエントラルは感じ、身体が冷たくなった。


「エントラル、ギルファー。この感覚に呑み込まれるな。自分の存在を“定義”しろ。自身を見失うな!!」


見とれている最中にエンダーから厳しい声が飛び、ハッとして彼は我に返った。広大に伸ばしていた思考が一気に縮小する。自分は父親の背中に乗っていて、この広大な空間の中を……。


エントラルは激しく頭を振り、勝手に羽ばたく思考を必死に戻そうとする。危ないところだった。自分のことをすっかり……見失ってた。


自分がどのような存在か定義し、父親の背中の棘をきつく握り直す。するとさっきまでの虚脱感がすうっと消えていくのが分かった。だが、まるで身体から意識が抜けていたような、ふらふらとした感覚が残り力が入らない。


「エントラル……大丈夫?」


そのとき、優しい声が聞こえ自分の前脚の上に何かが添えられる。驚いて触れられた方に眼を向けると、ギルファーが前脚を自分のそれと重ねていた。そして自分を心配するような瞳でこちらを見つめている。


「あっ……!!」


そうだ……自分は独りじゃない。自分には仲間がいる。何よりも大切な、唯一心を許せる親友が。混血という境遇を背負っていても家族として受け入れてくれた……父親が。


それを強く再認識させられると、身体が急に熱くなり掴まる力が元に戻る。空っぽにされていた自分が漸く形を取り戻し、この圧倒的な力を持つ景色に負けない意志が自分の中で明確な形を持つようになった。


「うん……大丈夫だよ」


エントラルはか弱い声で言葉を返し、ギルファーに向かって頷く。意識していないうちに自分はやはり彼に依存していた。こうして貰えなければ心は脆くすぐに壊れてしまう。独りは……嫌だった。


「父さん。これが……空間の力なの?」


ギルファーは自分をちゃんと定義出来ているのか、エントラルとは違って毅然とした構えで父親に尋ねる。その深いブルーの瞳には戸惑いや混乱などなく、何にも流されない強い意志が宿っていた。竜ではなく人間の持つような……見極めようとする眼。


「そうだ。ここではありとあらゆる可能性が存在する。だからこそ、始めて見た者の大半が自分の存在を定義出来ずに、一種の虚脱感に襲われるのだよ。この圧倒的な感覚に呑み込まれてね」


エンダーは羽ばたきの感覚を弱め、二匹に聴こえやすい声で説明する。その声はとてつもなく真剣で、耳にする彼らの頭の中に強く叩き込まれた。自分の存在を定義出来なくなる。それは生きる者として最も危険な状態だからだ。


「今ここから見えるあれらは何なの?」


「僕も気になる。父さん、教えて欲しい」


エントラルは無限と空(他の呼び名が見つからない)に浮かび、横を遠く流れていく模様や物体の数々を眺めながら質問をする。綺麗な模様もあるが、目がくらくらするような錯覚をしてしまう幾何学模様もある為に、ずっとは見ていられない。これらは一体何なのか?非常に気になる。ギルファーもそれは同意見だった。


「あれは全部異世界の扉だよ」


二匹はエンダーの口にした言葉に絶句する。


「えっ……!!」


「あれが……全部……?」


予想はしていたものの、やはり信じられなかった。あの模様、形が自分達の住んでいる世界も同様になっているというのだろうか?


「我々の世界もある特定の形を取っている。このことは覚えておくんだぞ」


エンダーは念を押すように話すが、エントラルはこの衝撃的な事実のショックのあまり一発で頭の中に入った。因みにギルファーもまた同じ有り様だった。


「「知らなかった……」」


二匹の驚きの隠せない呟きが、この無限の場所に響き渡った。お互いに顔を合わせて呆然としたまま、頷き合う。いつの間にか、無限に対する自分の感じたものが消えて、日常的な穏やかな空気が彼らの間を流れるようになっていた。


「さて、まだ空間スタールテランまでは遠い。だから父さんから、この場所の詳しいことを話そう」


二匹はすぐに興味が湧いた。この無限と続く場所のことを。いつかは自分も自力でここを旅することになるのだ。出来る限りのことは知りたい。人間の持つ好奇心と欲望の強さがそれを助長した。


「聴かせて聴かせて!!」


「空間って普通の世界と何が違うの?」


エンダーは鱗越しに、また首を回して彼らの輝く目を眺めてその反応に満足するように笑顔を向けると、静かに話しを始めた。二匹はその鋭角な耳をぴんと立てて説明を聞き逃すまいと集中する。


「空間には独特の風があって……」





話はこの無限の場所を飛ぶ間中、ずっと続いた。空間を流れる風は普通と違って不規則に流れること、地面がないから落ちれば永久に落ち続けること(この事実に二匹はゾッとした)、何かをここで見失えばほぼ絶対に見つけることは出来ないことなど、様々なことを教えられた。どれも自分の知る範囲を越えていて驚愕するばかりだったが、絶対という程に“無限”という言葉がついている。つまりは父親でさえ、完全には把握しきれていないのだ。


そのうちに時間はごとごとく過ぎていき、またこの間に幾つもの異世界の扉の横を通り過ぎた。そして……。


「見えたぞ!!空間スタールテランが」


体内の感覚で何時間か経ったとき、エンダーは話を止めてこちらに向けよく聴こえるように叫んだ。そして直後に目の前で待ち構えているかのように浮かぶ世界の扉に翼を向ける。


その世界の形はエンダーの身体よりも何千倍も巨大で透明なダイヤモンド四つを、上下左右にそれぞれ組み合わせたものだった。中心部には黄金色に輝く光の渦巻きがゆっくりと回っている。


「何処から世界に入るの?」


父親は中心部の渦巻きには向かわずにダイヤモンドの方へ接近する。だからエントラルは視線を巡らせて入れそうな世界の入口を探すが、それらしいものは見当たらない。段々と迫る巨大なダイヤモンドは傷一つない神秘的な透明な壁があるだけだ。この状態で一体どうやって異世界の中へ入るというのだろうか?


「扉は自分で開けるんだ。今から異世界に入る。ちゃんと背中に掴まってよく見てくれ!!」


エンダーはそう言うと急に羽ばたきを強め、速度を上げた。目の前にダイヤモンドの表面が迫る。二匹は再び振り落とされないように父親の背中を前脚で握り、後ろ脚の鉤爪を硬い鱗に突き立てて踏ん張りながら様子を見守った。


再び父親の額から、この場所に転移するとき同様に輝きが生まれる。自分の下から鱗を通して感じるエネルギーの流れも“最初は”全く同じだ。少し時間が経てば自分達はまた流れ星となっている。


「突入するぞ!!」


エンダーが再び叫んだ瞬間、青い閃光が自分の周りを包み込み目が眩んだ。視界が青い光に遮られてまた瞼を閉じてしまう。ここまでも先程とは先程とは変わらない。


だがダイヤモンドにぶつかる寸前に力の流れが急激に変わる。放散していたエネルギーが一気に前方に向かって、まるで口から炎を吐くように集積され解き放たれる。包み込むのではなく、目の前の何かを突き破ろうとするやり方に感じた。そして現に一瞬だけ薄い膜のような何かにぶつかり、突き破った。


途端に周囲の感覚が変わる。莫大なエネルギーの流れが消えて、一世界が持つような規模にまで縮小されていく。空間にいた名残のせいか、エントラルはそれがとても微弱なものに感じた。でもこちらが正常なのだ。あちらが巨大過ぎるだけで。


しばらくすると、世界に必ずあるような穏やかで冷たい風が自分の身体に当たった。風を切るような冷気と音。微かに感じる自然の森が出す様々な匂い。自分のよく知るものだが、僅かに違う違和感。


エントラルは目を開けて周囲を見渡す。眼下に向けると、自分の見たことのない景色が目の前に広がっていた。その新たに目にするものに、自身の好奇心が一気に呼び覚まされる。心が高鳴り思わず咆哮を上げたくなる。





彼らは異世界、別名空間スタールテランの夜空の上を飛んでいた。

意見、感想があれば投稿お願いします。


章のタイトルが仮題なのには理由があります。勘の鋭い読者ならば本当のタイトルが解るかもしれません。

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