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Dragon World Tripper ~初まりの朝~  作者: エントラル
第5章 異世界からの追放者
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40 友情

第5章はこれで終わりです。

暗い灰色の空から、雪が絶え間なく降り続いていた。風に流されて激しく吹くことはなく穏やかに。その雪は大地に積もり、一面の白銀世界へと変えてゆく。


その中を、厳密には降り積もった針葉樹森の中を自分は走っていた。地面を四本脚で踏みしめ水色の鱗を輝かせながら。そして自分が慕う親友の背中を追いかけながら。


「ギルファー、どう相手を仕留めるの?」


エントラルは先を行く彼に向けて問いを投げる。今は遊びの一環として陸上での狩りをやっていた。勿論、空をど飛べるというアドバンテージさえあれば陸上での狩りなどしない。だが彼らはそのアドバンテージがない。


狩りなど父親に頼めばいいと思うだろう。しかしそれでは意味がない。これはれっきとした遊びであり、彼らが思い付いた狩りの訓練だった。敢えてプラス思考に考えれば、飛べなくなった際の為でもある。因みに今、追いかけているのは灰色の毛皮を持つトナカイの群れだ。加えてエンダーは監督役として上空にいる。


「挟み撃ちにする。エントラルはそのまま彼らの背後を追いかけて方向を逆にお願い!!」


ギルファーは獲物を更なるパニック状態にしないように抑え気味の声で、背後に追随する自分に指示を出す。そして彼は徐々に距離を離していき、緩やかな角度で左に曲がって木々の中に消えた。


後の誘導役を引き受けた自分はそのまま、トナカイの群れの背後を追いかける。元々空を飛ぶ自分には陸上で彼らに勝てない。だが誘導ぐらいなら……。


エントラルは不規則に入り組んだ針葉樹の間を抜けながら、徐々に直線だった追跡ルートを左に曲げていく。動物は天敵から最も遠くなるように逃げる筈。例え逃げ道が今までの折り返しになっても。


時々、地面を踏みしめるように生えた針葉樹の根に脚を引っ掛けて転びそうになるが、その度に態勢を必死に立て直す。失敗なんてしたくない。こんなにも楽しいこの時間を……自分で終わらせたくない!!


彼は出せる限りの力で咆哮する。しかし獰猛なものではない。普通の竜のように怒りに任せてなどいない。敢えて右寄りにいると見せかける為に方向調節された咆哮だった。


広範囲の視界を持つトナカイでも、ほぼ真後ろにつかれれば音に頼るしかない。結果は思惑通りコースを更に曲げることに成功し、とうとう反転させることが出来た。後はこのまま追い込めばいい。


グォォォォ―――!!


そんなときだった。突然前方から咆哮が聞こえたかと思うと、直後に自分と同じくらいの黒い影が追いかけてきた群れに向かって襲いかかるのが目に映る。他でもないギルファーだった。


エントラルはそれを確認すると、今まてまわざと離していた距離を一気に詰める。そして竜としての本能を強め、二匹に囲まれて動きを止めたトナカイの一頭に襲いかかった。


相手の角が怖くて何度も手離すが、なんとか竜の持つ怪力で直ぐ様相手を押さえつける。しかしそれだけでは足りない。まだ身体が獲物と余り変わらない為に、暴れる度逃がしてしまいそうになる。だから止めを刺す必要があった。


ギルファーの方は難なく獲物の首を口でくわえ、ポキッと骨を折り絶命させる。だがエントラルはそれが絶望的に下手だった。暴れるときに一緒に揺れる鋭い角へ視線がどうしても向いてしまうので、なかなか急所を捉えられない。怖いのだ。目に刺さってしまうことを考えると。だから前脚で押さえつけるより先が手間取った。


「う……うわっ!!」


仕方なく持ち上げて背骨を折るというやり方にした。だが、当然ながら相手はとてつもない悲痛な声でいななき暴れる。その反応で角がこちらに向いた為にエントラルはビックリして両脚を離してしまった。


「あっ……」


彼の拘束から逃れたトナカイは、残る力を振り絞ってその場から走り去ろうとする。エントラルは再度追いかけるが、ビックリした反動からすぐには動けない。竜が獲物を逃すなんて情けない。彼は焦った。


だが、その前にこの焦りは一瞬にして消える。ギルファーが獲物を放り出し、自分が逃した方を捕まえてくれたからだ。ついでにとばかりに相手の首を折り、止めを刺す。そして口でくわえたまま自分の前に差し出し地面に置いてくれた。


「エントラル。今度からは気をつけて」


ギルファーは自分の額の上をそっと前脚で撫でる。声は弟の失敗を気遣う兄のように優しい。


「……ごめん、ギルファー」


申し訳なさそうに謝り気持ちが少しだけ萎む。でもエントラルはそれが幸福に思えた。誰かと一緒に居られて、失敗をカバーしてくれることが。





「また、失敗しちゃった……」


エンダーに見守られつつ、巣穴の中でギルファーと捕らえた獲物の肉を貪りながらエントラルはそう呟き、肩を落とした。これで三度目だ。彼は二度目以降、コツを掴んだらしくもう難なく狩りが出来る。しかし自分は未だに失敗続き。仲間として情けない。


「大丈夫さ。いつかは上手くなる。そんな失敗ばかりに目を向けても、モチベーションを落とすだけだよ」


ギルファーは口の周りを深紅の血で汚しながら、元気づけようとプラス思考に考えて言葉を掛けてくる。だがその気遣いは嬉しい反面、申し訳ない気持ちにさせた。今は彼が居なければ自分は狩りすら出来ないことがあからさまなのだから。


「僕って狩りのセンスがないのかも」


エントラルは不機嫌のあまりトナカイの骨を噛み砕く。まだ飛べない段階で判断するのは時期尚早に思える。しかし獲物を捕らえてから後のやり方は成竜になっても変わらない。獲物に止めを刺せないのは致命的な自分の欠陥だ。角が怖いなんてまるで人間と同じじゃないか。


「いつかは出来る。自分を信じれば必ず。僕だって最初は怖かったけど、成功したんだよ。時間はまだあるから、そんなに悩まなくても……」


最後の肉の塊をぱくりと口に入れて、骨をボリボ砕きながらギルファーは気楽そうに言う。確かに自分達はまだ幼い部類だ。巣立ちまでに上手くなればいい話だろう。彼を頼るのも本心はそれで構わないのだが……。


「いいのかな……?それで……」


自分はギルファーがいる。そして一緒に居られるのが、堪らなく嬉しい。でも不安だった。もしも居なくなってしまったら……自分は生きられるだろうか?彼に依存しているのに、何の力にもなれないのに……。


エントラルは首を横に振って嫌な想像を打ち消す。駄目だ。考えたくない。そんなこと……させない。絶対に。今が一番幸せだから、自分が……自分で居られるときだから。


「それでいいよ。もし、上手くいかなくても僕が君を助ける。同じ混血竜として……支えるから」


その言葉に冬の寒さに冷えていた胸が急に熱くなる。自分の居場所をくれた大切な仲間からの思いやり。言葉の刃を向けられ続けた空間エストランとは違う、優しい言葉の抱擁。自分はもしかしたらこれを求めていたのかもしれない。


だがこれは甘えであり、依存だ。なのに自分はこれでいいと願っている。この時間がいつまでも続いて欲しいとも。


でも……だからこそ……。


「だけど僕も……ギルファーを助けたい。何かの力になりたい。何も出来ないなんて嫌だ。僕は……助けられるだけの仲間で終わりたくない」


エントラルは強く彼に訴えた。仲間として足を引っ張ることはしたくない。迷惑だけは掛けたくない。何か恩返しをしないといけないと思った。彼が優しいからこそ、自分は何かで返したいのだ。


「そう言ってくれると嬉しいよ。でも、そうするには先ず僕に追い付かないと。基本は大事だからね」


彼はまだ吐けない炎を吐こうとするように大きく息をつく。炎を吐けるようにするのも基本の一つである。因みに空間竜の中には産まれてすぐに炎を吐く者もいれば、魔法を使役して間接的に出す者もいるだろう。ただその比率は異世界無限の法則(異世界は無限通りの事象が存在する)により、同じと定められている。火を始めから吹けない自分達もまた然り。


「それはそうだけど……」


「ほらほら、早く食べないと肉が凍るよ。冷たい肉は美味しくないから」


深く考えようとする自分にギルファーは釘を刺す。ハッとして手元の肉に目を向ければ、赤い動物の血は固まり本当に冷めてしまっている。生温かいからこそ、食べごたえがあるのに……勿体ない。


「うう……」


エントラルはしょんぼりと小さく唸りながら、肉を口に入れる。ガリッという音と固い食感。そして冷たい。こんなときに炎が吹ければと思う。溜め息が漏れた。


「早く空が飛べるといいな……」


エントラルは夜空を見上げながら気分を切り替えてぼそりと呟き、彼に話題を振る。はっきり言って自分は会話程苦手なものはない。話題はいつも断続的。普通の竜ならば話にうんざりするだろう。だが、ギルファーはそれを懸命に聞いてくれた。それもまた、嬉しいこと。まともな会話が出来るまでの練習だ。


「それは僕も同感だよ。いやそれよりも、異世界を早く渡りたいな」


「異世界を……?」


空間竜は空を飛べるだけではない。何度も言うが、異世界同士との移動が出来る特殊能力を持つ。その為に竜の行動範囲は無限大に広がっている。


「だってこの世界だけって狭いよ。人間目線にすれば国一つなんだから。僕は外を知りたいな」


異世界を渡ることが出来るのは、空を飛べるようになったとき以降。まだまだ先だ。幼竜ならば誰でも憧れる能力だが、エントラルはそこまで気にしてはいない。自分も一応長老ランデスに診断して貰ったが空間竜である。ただ、異世界の竜だけあって既存(空間エバンヌ準拠)の法則の違いが懸念されていた。


「そうだね。僕も知りたいかな……?」


そんなとき、エントラルの脳裏にある案が思い付く。自分は空間エストラン出身だ。つまり空間エバンヌの竜からすれば異世界の竜。だったら……。


「なら、僕のいた世界について……知りたい?」


横目で彼に目を向け提案する。自分としては話に乗って欲しいところ。自慢にはならないけど、ちょっぴり優越感がある。


「うん、知りたいな。この世界と君のいた世界がどう違うのか、教えて欲しい」


自分が頼りにされている。それだけでもエントラルの心は光り輝き、自然と笑みが溢れた。彼の助けになること。これはほんの些細なことだけれども、自分にとっては大事なもの。自分が今出来る精一杯の手助けだ。


「うん♪」


エントラルは明るく返事を返し、自分の世界のことを話し始める。辛い記憶しかないが彼が横にいると何故か平気だった。すらすらと頭の中に言いたいことが浮かび上がってくる。自分しか知らないことを話すことが楽しいのだ。


「僕の世界は……」

意見、感想があれば投稿お願いします。


次の章はこの小説の醍醐味である、あの設定が発動します。そして同時に作者にとっては最も書くのに苦労する章です。

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