39 求めていたもの
この話は短めです。ちょっと感動などに欠けますが今の文章力ではこれが限界なので宜しくお願いします。そしてすいません。
彼は真剣な顔で向かい合ったまま動かなかった。避けられることを覚悟の告白。それは何を言われても甘んじて受け入れることを意味していた。
「君がこのことを知って、僕を嫌うことは一向に構わない。さっきの計らいを断ってもいい。ただこのことを知って欲しかった」
エントラルは何も言葉を返せない。自分は混血竜であることを隠して、この場所に一時的に留まろうとした。相手が純血竜だと思って。だが彼は隠さなかった。素直に純血かもしれない自分に事実を打ち明けている。混血竜なのに……その差別を恐れていない。
「そんなこと……」
エントラルは俯き肩を震わせた。冷めた胸の内が一気に熱くなっていく。無に投げ出された心に希望を見出だすように。目の前に探していたものが見つかったときのように。
「そんなこと……出来ないよ……」
顔は苦痛に歪み押し殺した声で反論した。自分だって同じ混血竜なんだから。否定なんて……出来る筈がない。助けて貰った厚意を無下になど……したくない。
「……大丈夫?」
向こうは彼の異変に気付いて心配そうに尋ねる。予想していた反応ではないものだったからだ。差別でも許容でもない、悲しみ……?相手の頭に疑問符が浮かぶ。
「僕も……君と同じ混血竜なんだ……。だから……僕は……差別なんて……出来ないよ」
エントラルは声を詰まらせながらも最後まで言い切った。それを聞いた相手は驚き、固まってしまう。最初から理解など出来ないだろう。自分と同じ境遇を持つ竜がいることを。
「僕は混血だから……捨てられた。だけど君は親と……一緒にいる。居場所がある。僕には……それが……」
ない。彼は目を瞑って辛そうに叫ぶ。今の相手の立場ははっきり言えば羨ましい。自分にも母親はいたが結局は捨てていった。自分もこうでありたかったのに……。
そうして、エントラルは瞑った暗闇の中で悲しみに沈むが、突然身体が何か暖かいものに包まれた。自分の頭に滑らかで、だが硬いものが当たる。それは低い音で鼓動を打っていた。これは……?
瞑った目を開けてみる。すると、目の前には藍の硬い鱗があった。付け加えれば、それが視界を埋め尽くしている。
「えっ……?」
そして気付く。自分が彼に抱き締められていることに。目の前の鱗は彼の胸元の部分であり、脈を打っていたのは彼の心臓だった。背中にまで前脚を回している為に彼の顔は自分の背にあるだろう。今まで感じたことのない温もりに思考が止まってしまう。
「なら……ここを君の居場所にすればいい。一緒にこの世界で暮らせばいい。僕が君の……友達になるから、家族の一員として……君を認めるから」
彼は優しく言い聞かせるように言った。躊躇いもなく。それが自分の抑え込んでいた感情を表側へ引き出した。
「うぐっ……ぐぅっ……」
その言葉を耳にして、エントラルの瞼の隙間から溢れるくらいの大粒の涙が流れ出す。そして甲高い悲痛な声を張り上げ、彼は泣いた。竜として失格な振る舞い。だが堪えることなんて出来なかった。自分はこれを……これが……。
「もう泣くな。大丈夫だから。君はもう独りじゃない」
彼は自分を慰めようと声を掛けるが、逆効果だった。その優しい言葉が更に流れる涙を増やしてしまう。自分を仲間と認めてくれることが嬉しくて、今までの悲しみが辛すぎて。
「君の……名前は?」
大分涙が収まってしばらくしたところで、相手は身体を離し向き合いつつ自分に尋ねてきた。向こうの親は許してくれるのか分からないが、少なくとも彼はそれでも一緒にいてくれるだろう。だから友達として、同じ仲間として自己紹介をしないと。
後ろ立ちになり、前脚で赤くなった目に付く涙を拭う。もう緊張する必要はない。ありのままで、自分が出せるはっきりとした言葉で告げた。
「僕の名前は……エントラル」
相手は自分の名前を聞き、分かったと言う代わりに頷く。そして自身の名前を笑顔で教えてくれた。僕が始めて持つ友達の名前を。絶対に忘れるなんてしなかった。
「僕の名前はギルファーだ。これから宜しくな」
意見、感想がありましたら投稿お願いします。
次の章で同作者の小説、前科 交通事故の死神と話を一部クロスさせようと思います。




