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Dragon World Tripper ~初まりの朝~  作者: エントラル
第5章 異世界からの追放者
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35 救出

水風呂しか入ったことのない作者です。


ミニ解説:ここの水深は比較的浅い設定です。と言っても10mくらいありますが。

ギルファーはハッとして氷の穴を振り返った。


今の声は……何?そう思ったが声はもう消えて冷気を纏った風の吹く音しか聞こえない。でも……幻聴じゃない。


彼は今一度しっかりと氷の穴の中を凝視する。すると水の中からキラリと青い光点がオーロラの光で反射して小さく輝くのが、また一瞬だけ冷たい湖の底に沈んでいく幼竜も見えた。そしてその姿を消すように水泡がゴボッと浮かんで来る。


助けないと!!


その光景を目にして血の気が引き、自分の判断の甘さを責めながらギルファーは一刻も早く幼竜を助けようと湖の中に飛び込もうとする。しかしその前に足が止まる。今上空を飛んでいる父さんは何も知らない。伝えてあげるべきだろうか?と行動を渋ってしまう。


ギルファーは激しく頭を振る。今はそれどころじゃない!!そんなことは一言で十分だ。頭から余分な考えをさっさと振り落す。


「父さん!!後をお願い!!」


そう言いギルファーは身を切るような冷たい湖へ、一部の氷を割りながら飛び込んだ。湖の中に潜るとまず最初に地上との温度差で身体が痛くなり、身体中から体温がいきなり奪おうと死の触手が自分に向かって伸びてくる。イメージしていたのとは感覚がまるで違う。しかし前を凝視した。


自分が見た幼竜は力尽きてしまったのか、湖の底のあたりに沈んでいた。既に動きは止まり意識がなさそうだ。恐らくは溺れたのだろう。普通の竜は基本泳ぎが苦手なのだから。身体の大きさは自分と同じくらいか、それ以下くらいだった。


ギルファーは身体に無理をさせて幼竜を引き上げるべく、更に潜航し前脚を伸ばした。一応魚狩りの素潜りをやったことがある為、泳ぎは得意だった。しかしこの冷たい湖でその泳ぎがまともに出来るかどうかは分からない。


間に合え……!!


彼は底まで辿り着くと、寒さで感覚のない前脚で幼竜の投げ出された前脚を掴み一気に自分の元へ引き寄せる。向こうの体重が軽いのか簡単にこちらに動いてくれた。幼竜の目は固く閉じられ、絶望の表情で沈んでいてギルファーの心は痛み、助けたいという気持ちが余計に強くなる。


しかし問題はここからだった。泳ぐのが例え得意でも竜一匹分の重さが加われば話は違う。この極寒の湖でギルファーは必死に幼竜を抱きかかえて上を目指そうとしたが、なかなか向かえない。それどころか自分が沈んでいた。


こんな所で……死んでたまるか。この子を助けるまでは……絶対に……死ねない!!


体温が容赦なく消えていく中でギルファーは心の中で咆哮した。口の中の酸素がなくなり、肺が苦しくなる。それでも彼は幼竜を離さずにもがき続けた。だが、そのうちに身体が動かなくなり、冷たくなり……意識までもが薄くなっていく。


ゴボッ……。


ついにギルファーも力尽きた。酸素が尽きて抱えた幼竜もろともゆっくりと沈んでいく。悔しかった。自分では何の力もないことに。かじかんだ前脚を水面に向けて強く念じながら伸ばした。


ごめんなさい……父さん……。僕独りじゃ何も出来なかった。だから……助けて……。


言い訳のような言葉を残してギルファーは意識が途切れそうになった。自分はまた死んでしまうのだろうか?せっかく与えられた……チャンスをこんな形で無駄にするのか……?


そんな諦めの葛藤の中で、突然上の水面から巨大な紐のようなものが自分に向かって伸びてきた。それは太くしかも硬い鱗に覆われている。水の流れとは無関係にゆらゆらと揺れている。あと少しで届きそうな距離だ。


父さん……!!


ギルファーはエンダーからの助けだと確信すると湖に落とされた救いの手に、幼竜を抱きかかえながら必死に自分の手を伸ばした。意識の無くなりつつある中、最後の力を振り絞ると残った数シードの距離をもがき、伸ばされた紐(尾)にしがみつく。


自分がしがみつくのが分かったのか、尾はそこから一気に水面へと引き上げられていく。水圧と抱えた幼竜の重さに腕が悲鳴を上げたが、目をきつく閉じてまた歯を食いしばって耐えた。助けたいし、こんなところで終わりたくない。それだけの思いだった。


そして、幼竜二匹は冷たい地獄から無事引き上げられた。ギルファーは尾に掴まりつつ上を見ると、エンダーが翼を羽ばたかせ飛んでいるのが見える。二匹の重さで湖すれすれの高度だった。


父親は湖に落ちる自分の危険を犯してここまで助けに来てくれた。そのことは彼にとって嬉しいが、同時に申し訳がないとも思った。だがそれ以前に自分が飛び込んでおいて勝手に溺れるなんて情けないと、掴まりながら無責任な自分を責めてしまう。


「ギルファー、大丈夫か!?」


飛んでいる為前を向きながらエンダーは叫んだ。その口調はかなり心配していて悲痛なものだった。尾は湖の冷たい水に浸ったせいで若干白く変色している。多分自分に掴まれて痛いだろうと思う。だがそれでもエンダーはこの手段を選んだのだ。


「だっ……大丈夫だよ、父さん。ごめんなさい……」


寒さに震えながらもギルファーは謝った。だが危険を犯してまで飛び込んだ価値はある。彼は自分抱えている幼竜を見やった。幼竜は気を失っているのかまだ目を覚まさない。


幼竜の鱗の色は自分の藍色よりか薄い水色。背中の棘は自分のように尾に向かって反る形だが、固有種の直線的な反りではなく少し真上に伸びてから曲がる反りだった。角の形も半楕円形を描く二本のそれ、一本ずつが更に枝分かれしている。そして……三日月の刃が鼻先に……ない。こんな特徴を持つ竜は初めて見た。だが、どこの竜だろうと冷たい地獄から助け出せたのは良かったと思う。


しばらくしてギルファーはエンダーが降りても安全な湖岸にゆっくりと下ろされた。まずは意識のない幼竜を下ろし、それから自分が尾を離して地上に立ち、最後に父親が着地する。そしてすぐに二匹は助けた幼竜の容態を確かめた。


「おい、しっかりしろ」


最初は呼び掛けて観るが反応がない。次に身体を軽く揺さぶった。それでも返事はない。幼竜の身体は前脚で触れるととても冷たい。ギルファーは最悪の事態を考え不安になったが、諦めずに鋭い耳を相手の胸元の鱗に押し付けて心臓の音を聴いた。呼吸もなければ鼓動も感じられない。心肺停止状態だった。


「その子は大丈夫なのか?」


エンダーが背後から身を乗り出して尋ねるが、ギルファーは俯きながら苦悩に顔を歪めながら振り返った。


「父さん……この子、息してないよ……」


悲痛に父親に訴えた。どうすればいいのかが分からず、頭の中が真っ白になる。間に合わなかった……。これでは自分が助けようにも……。


「見せてみろ」


エンダーに言われ、ギルファーは手遅れだったショックに茫然としたまま場所を空ける。彼もまた自分と同じく耳を幼竜の胸に当てて鼓動を聴く。恐らく出るのは同じ結果だと確信していた。そうしてどんな状態なのかを知ると幼竜から頭を離して再び見下ろす。しかし、父親は諦めてはいなかった。


「水を飲んでしまっているようだな。人工呼吸が必要だろう」


「ジンコウ……コキュウ?」


語句の意味を知らないギルファーは首を傾げるだけだった。ジンコウコキュウっていう何かがあればこの子は助かるの?でも……。周りを見回すがそんなものなど持ち合わせてはいない。


「ギルファー」


頭に疑問符が浮かぶ中、エンダーは自分に呼び掛けて振り返る。その声は張り詰めていてとても真剣なもので、暗く沈む自分でも緊張感を感じた。


「何?」


「お前にしか出来ない。人工呼吸をやってくれ。父さんの力ではこの子を救えない」


顔を自分の視線と同じ高さまで下ろすと頼み込むように言う。この切迫した状況で自分に頼んできたということにギルファーは驚く。自分にしか出来ない……。それがとても頭に響き淀んでいた思考が冴え始めた。


「でっ……でも僕はやり方を知らないよ」


父親の言葉からジンコウコキュウが動詞だとは分かった。だが肝心の方法を知らない。だから……救いたくても……救えない。それに……。


自分の身体がふらついた。自分もまた極寒の湖に飛び込んだ為に身体が寒くて意識が薄くなっている。手足が震え立つのが辛い。そんな中で自分に出来るのだろうか?


途方に暮れていたその時、父親が自分の身体をその長い身体で取り囲み、温かい腹を押し付けてきた。そして脅しに近い声で怒鳴る。巨大な鉤爪が雪を、土を深く抉った。


「方法は父さんが教える。だから安心しろ!!それに今ここでお前が倒れたら、この子は助からない!!」


その重い言葉に、ギルファーは衰弱して細めていた目を大きく見開いた。自分にしか助けることが出来ない。つまり自分が倒れてしまえばこの子は死んでしまう。それだけは避けたかった。この子をあんな冷たい湖の中で死なせたくない。自分のように……たった独りで逝かせるなんて……させない!!


「分かった……。じゃあ、やり方を教えて……」


遠ざかりかける意識を無理矢理戻し、荒い息遣いでエンダーの必死の説得に答えるように頷いた。なら……倒れる訳にはいかない。この子を救うまでは……。


「ギルファー、ならまず……」


エンダーとの説明が始まると共に、弱っていく自分との戦いが始まった。

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原本総執筆ページ / 投稿ページ = 239 / 231

残り8ページ。約1.5話分。


人工呼吸と心肺蘇生、どちらが正しいか正直悩みました。

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