25.5 儚く消える流れ星
グロ注意です。
目の前には筏と一緒に流された筈のクルバス王子が平然と立っていた。とても不気味な笑みを浮かべ、こちらが絶望した顔を見ることを嘲笑うように。
嘘だ……嘘だ!!
ギルファーは絶望感に浸りながらも残る力を振り絞り、彼に飛び掛かる。もう手が届くくらいに近い。だから……この鉤爪で……。零距離なら……。
ズダーン!!
その時今まで聞いたことのない甲高い音が響いた。途端に思考が止まる。身体に衝撃が走る。痛みで動けなくなる。息が……出来なくなる。
ギルファーはクルバス王子の方を見た。王子のこちらに向けた黒い筒の先からは白い煙が立ち上っている。そして自分の胸元を見ると赤黒い小さな穴が空き、赤黒い血が流れ出していた。一瞬の出来事である。そしてこれが彼の知らない、未来の人間が創りだした銃の威力だった。
これは……ぐあっ!!
心の中で何かを呟く余裕を与えないまま第二の衝撃が彼を襲い、再び思考が止められてしまう。今度ははっきりと見える。自分がクルバス王子に……何かで心臓を刺されていることを。もう、身体は動けなかった。
途端にギルファーの身体へ先程の衝撃とは比べものにならない激痛が走り、加えて更に息が詰まる苦しさに喘いだ。痛みに必死で抗い片目を細め、反対の目をきつく閉じやられた部分を確かめる。
そこには剣が深々と撃たれた胸の傷を、更に広げるように貫き血が溢れるように噴き出していた。そしてトドメを刺したクルバス王子の表情は、これまでの緊張が和らいだ爽やかなものに変わっている。
自分は……やっ……ぱり……。
息がまともに出来ない。身体のバランスを崩しかけるも、そこを辛うじて前脚で支える。意識が朦朧とし始めた。
「お前は終わりだ。後はもう、都合良く生まれ変われることを祈っているぜ……ギルファー」
クルバス王子は死にゆく彼に対してそう言い残すと、貫いていた剣を引き抜いた。その瞬間彼の身体から血飛沫が上がり、王子のマントを赤黒く染めていく。そして幼竜は横にのめるように倒れ、動かなくなる。死へのカウントダウンが始まった。
クルバス王子はそれ以上何も言わずにその場を離れ、暗闇の森へと姿を消していった。だがギルファーはそれをただ見つめるしか出来ない。魔法の風に押し流され必死に息子のものへ急ごうとするエンダーは、距離を離され見失っていた為に目撃されなかった。
そ……んな……。
自分はここで死ぬのか?ただ生きていたいという小さな願いさえも打ち砕かれ、苦しみながら……。
空気を求めて口を開けるが、口の中からは大量の血が吐くように流れ出した。心臓の一鼓動だけでも苦しい。呼吸は乱れ、赤い血だまりが彼の周りにできて河原の石を真紅に染めた。もう身体のどこも普通に動かすことは出来ない。叫んで助けを呼ぶことも……叶わない。
嫌……だ。
ギルファーは激痛で細目になった視界から自分の見える世界を見据える。血だまりの中で傷つき、痙攣する前脚を懸命に振り上げて十シード先の森の中へと伸ばした。いつもならすぐに届く距離である。でも今はその距離が果てしなく遠くに感じた。もう、届かない……。
まだこんな場所で……死にたくない。せめて……。
身体の感覚が徐々になくなり、意識が薄らいでいく……。痛みが消えて暗闇に沈んでいくのが嫌でも分かった。ギルファーはそれに対して必死に抗おうとするがそれでも止められない。容赦なく自意識をこの世界から引き剥がそうとする運命。耐えてエンダーの助けが来るまで身体を持たせようとするが、まだ……来ない。一秒が何時間にも長く感じるせいだろうか……?
その内に震えながら伸ばす前脚も動かなくなって地面に落ち、意識を失いそうになる。この意識が無くなってしまえば自分は死んでしまう。でもこんな理不尽な運命なんて受け入れられない。
生きたい……。
彼の願いはもうただ一つだけだった。そしてその願いは夜に映る流れ星の如く、今儚く消えようとしていた。
ま……だ、死に……たくな……いよ……。怖いよぅ……。ボ……ク……は生……きたい……。死にたく……な……。
そう悲痛に心の中で……消えかけの力で呟くと、ギルファーは深いブルーの目をゆっくりと閉じ、横向きに自らの血だまりの中で星空を仰ぎながら……意識が途切れ、そのまま力尽きた。
その際、瞼の隙間から涙が一粒零れ落ち……月光の元で小さく光った。
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やはりこの世界で銃はチート過ぎました。読者の皆様、少なくともバッドエンドはないのでこのまま次話をお待ち下さい。




