6:動き出した歯車
荷物を持ちレステルさんと教授はそのまま王都にある研究所に行くらしい。
僕は教授達の姿が見えなくなるまで手を振りその姿を目に焼き付けていた。
今振り返ってみたらこれが教授とレステルさんをちゃんと見れた最後のときなんだよね。
教授たちが見えなくなってからさっき感じた殺気の主を探してみようと試みる。
でも、やっぱり見つからない。
さすがに時間が経ってるか・・・
そう思って僕はすぐに探すのをやめ宿に戻る。
(今日中には帰れないのか・・・ふぅ)
教授達が出て行ってからジンは一息つく。
場所は宿のロビー。
周りにはまだまばらに人が残っており、酒を交わしながら他愛もない話に華を咲かせていた。
ジンにとってはそれが疎ましくもあり羨ましくもあった。
彼には「普通」の人生はない。
彼が歩んできた人生の中に普通もしくは幸せな生活などない。
なぜか?
それはジンにも分からない。
ただ、自分に宿っている【能力】が引き起こしているのは間違いないというのをジン自身は自覚していた。
だからこそ、このチカラを使わなかった。
彼は能力ではなく自分自身の力を認められるその日まで血のにじむような『努力』と誰も寄せ付けない『覚悟』で生きてきた。
だが、その努力も、その覚悟も、今では当に崩れ去っている。
彼自身が生きる上でこの能力を使わなかったとしてもその余波は確実に出ていた。
何をするにも先が解ってしまう予知能力。
人がやっていることを一瞬で把握してしまう瞬間記憶。
目の前で銃弾を撃たれても避けれてしまう動体視力。
どんなに重い物や堅い物でも持ち上げたり粉砕出来てしまう怪力。
すでに人としての域を超えているのだ。
そのために幼いころからあまり優遇された扱いをされることもなく友達もできず家族からも見捨てられた。
だが、それでもジンには『拠り所』があった。
住むところがあった、楽しむものがあった。
見捨てられたとはいえ世話をしてくれる家族に感謝もしていた。
そして、6年前。
ジンが12歳の誕生日を迎えた時だ。
彼はその時――――全てを失った。
「・・・ふぅ」
思い出してみると僕の人生はそこで狂ったのかもね。
と、自嘲気味に心の中で笑う。
それでも、今の生活にはジン自身満足していた。
途方に暮れていたジンを引き取り我が子同然で育て教育してきた人。
その人こそライルである。
誰にも認められず蔑まれてきたジンにとってライルは父親のような存在だった。
だからこそ、彼は人並み以上にライルのことを按じているのである。
そんなジンだからこそ今日は寝まいと座っていたのだが、どれだけ超人といえどそこは人間。
人間の中にある最大の欲の中の一つ・睡眠の睡魔には勝てない。
うとうとして少し目をつむった時、彼は闇の中へと意識を遠のかせていった。
「――――――――ッ!!??」
突然ソファから飛び起き肩で息をする。
その額には汗がにじみ出ており並大抵のことではない事がうかがえた。
そして何事もないことを確認しソファに体を預ける。
天上に目を向けしばしボーッとしていた。
だが、異変に気づくのに時間はいらなかった。
時間を確認する。
先程からまだ1時間も経っていない。
後ろを確認する。
先程までいた人はもうすでにいない。
最初は部屋に帰ったかと思った。
だが。
「気配が・・・消えた?」
「おい、この状況・・・説明できるか?」
『・・・・・・・・』
俺は通信口に向かって現状の説明を要求した。
だが、向こうから来る返事はない。
ただそれでも、何か≪ヤバイ≫出来事に巻き込まれているのは間違いないと即座に判断した。
それもそうだろう。
目の前で『人が消えたりしたら』そりゃだれでも驚くだろ?
俺も相手も黙っているとやがて相手が切り出してきた。
『・・・奴らが動き始めたかもしれないわ』
「何?こんなにも早く動くもんなのか?」
だとしたらあまりにも俺たちにとって僥倖で相手方にとって無様だ。
みすみす自分たちの手の内を明かすのと同じだからだ。
俺は左目に手を当て口元を緩める。
思わず笑ってしまいそうだったがあくまで平静を装った。
「・・・どうする?俺たちも行動を起こすか?」
『いえ、彼が動くまで待って。多分奴らの狙いは彼・・・私もすぐに向かう』
俺はつくづくこの女、おっと俺から見れば少女だな。
こいつの行動の理由が目に見えるなと思う。
すると、見張っていた建物から慌てた様子で青年が出てくる。
「そうか・・・と、来るなら早くした方が良いぜ。あんたの言う王子様は研究所の方に走っていったからな」
『何ですって!?ああ、もう!そんなに早く行動を起こすなんて・・・』
詰めが甘いぜ、お嬢さん。と内心思う。
さてと。
「なら、俺は先に行動を起こさせてもらう。来るなら早く来い、主人」
『え?あ、ちょ!まっ――――』
通信を切る。
座っている態勢から体を伸ばし少しだけ準備体操をする。
そして足にある自分の武器を確認し、男は喧噪の消えた闇の街の空を翔け始めた。




