5:敵か味方か
「うわぁ・・・」
船から降りての最初のジンの言葉である。
侮蔑の言葉ではなく心からの感嘆の言葉だ。
王都に近いとはいえとても普通の港町かと侮っていた。
数千人規模の人々がそこらじゅうを行き来している。
そこらの繁華街よりも多い人数だ。
もちろん港町だから宿屋、商店街、武器屋や防具屋などもそろっている。
港町としてかもう街としてなのかどっちで繁盛しているかさえも分からない。
「おや?・・・君は、魔装機研究機関の人かな?」
その街の様子に驚いていると一人の男性がジンに話しかけてくる。
その声に振り向き相手の顔を確認する。
優しそうな笑顔が特徴の長身の男性だった。
「え?は、はい!魔装機研究機関、第一魔装機研究科特別主任ジン・アルサードと申します。あなたは・・・」
慌てて自分の自己紹介をし相手の名前を聞き返す。
男性はジンの名前を聞いて顔を輝かせて言った。
「おぉ!君がライル教授お気に入りのジン君か。ライル教授から話を聞いているよ。私は、ラ・ストゥーデ王都魔装科研専門校の教授をさせてもらっているレステル・デイトーレだ。よろしく」
にこやかな笑みを浮かべ手を差し伸べる。
ジンもにこやかにそれを受け入れた。
刹那。
どこからともなく視線を感じる。
そこにあるのは殺気と呼べるもの。
いや、もしかしたら殺気よりも厄介なものかもしれない。
ジンは目の前にいる「一般人」に気づかれないように「能力」を使う。
範囲を広げ視線の主を探し始める。
「どうか、したかい?」
ハッとすると目の前のレステルの顔を確認する。
彼は不思議そうにはしていたが相変わらずにこやかな笑顔のままだ。
気づかれてはいないらしい。
ジンは表情上「何もなかったように」振る舞った。
「いえ、何でもありません」
にこやかに答えるジン。
レステルは気付いていないようだ。
「あ、そうだ。ライル教授も君に会いたがっていたよ。せっかくだ、私たちの泊っているところへくるといい。教授も喜ぶよ」
「本当ですか!ありがとうございます!レステルさん!」
その様子を遠くから見つめる影。
日が当たる場所からは程遠い日陰で人目につきそうにない場所にいる。
先程見つめると言ったが、強いて言うなら「監視」の方がしっくりと来るだろう。
左目には眼帯をしており右目は鷹が獲物を狙うような鋭い眼光を放っている。
そして目標物が動き出すと影もまた身を翻し移動を始めた。
その途中懐から通信魔装機を取り出し操作する。
そして足を止め会話を始める準備をした。
「俺だ。あんたの言ってた【あいつ】を見つけた」
『そう、ご苦労さま。彼には私が一度接触してるから。後は彼次第だと思うわ・・・思い出してくれるといいのだけれど』
相手方はまだ幼さの残る少女だろうか。
だが、その声からは凛とした雰囲気を感じさせる。
「あんたも大変だな。一度運命から逃がした男をまた巻き込むなんてな」
『そうね。私ってつくづく嫌な女よ。でも、彼の力が必要なのは間違いないし彼自身が危険にさらされているのも分かってる。奴らに彼の力を悪用なんて絶対させない』
男の皮肉めいた口調に自嘲し、そして決意を語る女。
男はしばし黙っていたがやがてまた話し始める。
「俺はあんたが何をしようと知ったこっちゃない。だが、俺はあんたに借りがある。返しきれない借りがな」
『そう、だから私は貴方を向かわせた。分かってるわよね?自分の為すべきこと』
「もちろんだ。そのために俺はあんたから≪異能≫を貰ったんだ。存分に使わせてもらうさ・・・俺の復讐のためにもな」
鼻で笑いながら左目に手を当て決意を新たにする。
少し沈黙が続く。
『・・・貴方には、感謝してるわ。まずは敵の殲滅を目標に。その後、彼の擁護をお願いするわ。きっと・・・もうすぐ彼は真実を知ることになる・・・』
「ああ、了解した。なら確認だ。俺の今回の任務は、全敵の殲滅及び目標の擁護・暴走阻止。こんな感じでいいな?」
『ええ、暴走したら確実に止めて。まぁ、後は貴方の思う通りに動いていいわよ。期待してるわよ?黒翼の弾丸さん?』
「Promise on my bullet and wing」
通信が切れる。
通信魔装機を懐に戻し男はわずかな隙間から見える空を見上げる。
「・・・世界が滅びようとも、己が信念に背くつもりはない・・・か。ずいぶんと高尚で・・・狂気じみた言葉だな」
男は通信魔装機が入っている方とは別のところからとある写真を取り出す。
そこに映っているのは、あどけなく笑う青年の姿。
それを見て男はどこかせつなそうな顔をして、写真をしまい歩みを進め始める。
そして、誰もいない道の中で虚空に向かって言葉を投げる。
「問おう・・・君が何を求め、何を救うか。そして・・・君自身は何者だ?ジン・アルサード」
ジンは宿に向かった後レステルとの話に華を咲かせていた。
研究者としては意地と意地とぶつかりあいに近い。
が、そういった会話をするのは教授とくらいだったジンは思いのほか楽しんでいた。
すると、向こうからやってくる一人の男性。
「ライル教授!」
ジンが腰を上げその名を呼ぶとライルはこちらに少し慌てた様子で近づいてきた。
「おぉ、ジン君か。悪いね、急ぎの用が出来てしまって・・・今日中には帰れそうにない」
「ライル殿、何かあったのですかな?」
レステルが尋ねるとライルは驚いたように目を見開く。
「レステル君!?す、すまん。てっきり私だけが遅れてしまったかと思ったよ・・・いやぁ、よかったよかった」
ライルは恥ずかしそうに頭を掻いた。
レステルとジンは何が起きているかわからないような顔で顔を見合わせる。
ライルはレステルが不思議そうな顔をしてるのを見てついに尋ねる。
「まさか、レステル君。連絡を見ていないのかね?」
「連絡?はて・・・何のことでしょう」
「君の通信魔装機を見てみるといい。王都研究所からの要請が来ているはずだ」
レステルはライルに指摘されポケットにしまってあった魔装機を取り出し確認し始める。
「本当だ・・・これは、ライ・ハック王都魔装機研究所直々のようですね。もしかしてこの連絡は」
「そう、受賞者全員に送られてきたものらしい。他の受賞者は皆もう向かったそうだ」
「なるほど、では私も準備してきましょう。ジン君、素晴らしいお話をありがとう。また機会があれば」
レステルはライルに行く旨を伝えジンには礼を述べた。
そしてレステルが自分の部屋に荷物を取りに戻って行くとライルがジンに声をかける。
「ジン君、すまないね。また留守を頼むことになる」
「いえ、気にしないでください。何時頃お帰りになられますか?」
ライルは時計を確認し通信の内容確認する。
「ざっと見積もって日付が変わるごろになってしまうだろう。君は寝ているといい・・・お、来たようだね」
ライルはレステルが下りてくるのを確認すると自分のポケットから魔装機を取り出しジンに渡した。
ジンは受け取りはしたが何か分からず確認していると。
「多分、君にとって大きな力となるだろう。持っておきなさい・・・近頃何やら不穏なうわさや物騒な気配がするのでね・・・」
「はい、教授もお気をつけて」
ジンは二人が出ていくのを見送り姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
それが、最後の会話にはなるとも知らずに。
時の流れは残酷だ。
運命に操られているなんてこの世界に生きる全ての人間が知ることではない。
何を知らない顔をしているんだい?
君だって、時の歯車に迷わされている一人の駒さ。
無論この私も、ね。




