3:予期せぬ出会い
教授が王宮へ出かけると言った後、ジンは研究所の教授が請け負っている仕事の手伝いへと狩りだされる日々を送っていた。
ライル教授はこの研究所のほぼ全ての役所に仕事を持っているため並大抵の量ではない。
しかし、ジンはそつなくそれをこなしていく。
なぜか?
彼には元々人には言えない「特殊能力」がある。
ジン自身もそれを理解はしているが普段の生活に使うことはない。
自分がその「特殊能力」を嫌っているからである。
この力のせいで一度全てを失った。
だからこそ二度と使わないと決めた。
だが、普通に暮らしていてもその力の余波は出てくるもので今このような状況になっている。
彼が天才と呼ばれる理由はこの力のせいだ。
彼自身の力で勝ち取ったものではない。
人並み外れた身体能力や記憶能力。
「天才」と呼ばれるには申し分ないものだ。
人はこれを恨んだり、妬む者もいる。
だがそれも、彼にとっては彼らの方が妬ましかった。
「普通」の生活が送れないジンにとって「普通」に暮らすことの大切さは尊いものなのである。
「ジンさん、今日はこれで最後です」
「ん、了解。そこに置いていてね、後は僕がやるから」
作業台に向かいながら最後まで残っていた研究員に声をかける。
今日の仕事は主に魔装機の開発が多かったため案外早くキリが付いた。
残っていた研究員二人が「お先に失礼します」と言って部屋から出ていく。
ジンは手を止め帰っていく二人を見送る。
「さ、あと一息!」
薄暗い部屋でジンは一人、魔装機に向かう。
時間はすでに真夜中。
最後の魔装機を調整し終わり背伸びをする。
「~~~~!ふぅ・・・さて、帰るか」
荷物をまとめコートを羽織り外に出る。
研究所を閉め正門を出ようとした時だった。
(助・・・け、て・・・・・・)
「え?」
風と共に流れてくる声。
後ろから、前から、右から左から上から下から。
どこからでもなく、頭の中に直接響いてくるような声だった。
ジンは辺りを見回し、それでも誰もいない。
ひどく苦しそうな声だった。
まるで何かの危険にさらされているような声。
それでいて、聞き取りづらかった。
ジンは考え込む。
「・・・なんだったんだろう・・・」
もう一度耳をすましてみる。
風が流れる音。
その声が聞こえるかどうか意識を集中する。
聞こえない。
気のせいか、とジンはまた歩き出す。
だが、彼の中ではまだ不穏な空気が拭いきれずにいた。
ジンの住んでいる家から研究所までさほど距離はない。
歩いて15分、走って10分のところにある。
もう目の前に家が見えてきた。
この帰り道、少し周りの様子に気をつけて慎重に帰ってきた。
が、何も不思議なことが起きてる様子はなくいつもと変わらない風景があるだけだった。
「・・・多分疲れてるんだろうな、今日は早く寝なくちゃ・・・」
手を首にあて首を回しながら家へと向かう。
そう、疲れているのだ。
あの声も夢に違いない。
そう、思いたかった。
ヒュン
風を切る音。
異常、それ以外に例える言葉がない。
「へ?」
拍子抜けた声を上げるジン。
無理もない。
目の前で自分が今まさに足をかけた階段が何かに切られたように崩れた。
一瞬、刹那に起きたこの異常事態にジンの体は反応できない。
辺りは無音となるが、ジンの心臓は鼓動を速める。
(え?何?何が起きたの!?狙われた?いや違う、それならもっと効果的に・・・)
考えている最中にまた聞こえる。
(助けて・・・誰か!)
今度はしっかりと聞き取れる声。
ジンはハッとして声のしたほうに駆けだす。
自分が何をしているのかなんてわからない。
ただ怖い。
恐怖が体を支配している。
それ以上に強い正義感とは違う何かに突き動かされていた。
何か。それが解らない。
ただここで走らなければダメな気がした。
「はぁ、はぁ、はぁ、ど・・・どこだ?」
声が聞こえる方に走っても誰も見当たらない。
いや、見当たらないのではない。
人の気配がないのだ。
建物にも、草むらにも、街の中にも。
生きているものの気配が消えている。
「何だよ、これ・・・うっ!?」
突然頭に激痛が走る。
割れるように響く。
何かに共鳴するように。
自分の中の「何か」が呼んでいる。
「誰・・・僕を、呼んでるのは・・・誰・・・うぐっ!!」
頭の激痛がさらにひどくなる。
立ってることもままならなくなった。
遠のく意識、だが一向に途切れることはない。
(いつまで続くんだ、これ・・・)
思い始めていた時だった。
ふっと痛みが引いたのである。
急に引いた頭の痛みにまた来るのではないかと恐れながら辺りを見回す。
人の気配は相変わらずない。
だが、見知らぬ少女がそこにいた。
自分の目の前で自分を覗き込むように佇んでいるのだ。
少女は目が覚めたジンを見ると表情を明るくしにこやかに笑う。
見たことのない服、鮮やかなピンクの髪、両目も赤色に近い綺麗な色だった。
「君・・・は・・?」
ジンが尋ねると少女は屈託のない笑みで言った。
「ようやく気付いてくれた・・・私はエル。精霊を守り世界を守るもの。会いたかったよ!ジン!」




