表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星巡りのセレナーデ  作者: ファントム
第一章:始まりへのカルマンド
13/13

11:夢の少女

「…う……あ、れ?」


ジンはゆっくりと目を開ける。

先ほどまで立っていた場所とは違う。

どうやら自分は寝かされているようだった。

意識がまだはっきりしていない。

そう感じるような気分だった。


「…気がついたか」


そんなジンに男が語りかけてくる。

その人物が視界に入るとだんだんと霧が晴れていくように少しずつ自分の感覚が戻ってくる。


「貴方は、確かさっきの…」

「まだ、動くな。体が付いてきていない…急に力を使ったせいで身体に何らかの抑制機能が働いたんだろう」


無理に起きようとするジンを男が止める。

確かに男が言うとおりに体があまり動かない。

動こうとしても力が入らないと言ったほうが当てはまる。


「…あなたがここにいるっていうことは…さっきのは夢、じゃないですよね…」

「あぁ、残念だが現実だ」


恐る恐る確認するジンに男は即答する。

実際ジンは先ほど起こったことを信じたくなかった。

いきなり目の前で人が死んだ。

血飛沫を上げ冷酷な刃の餌食となった瞬間。

『死』。

その刃が自分に降り注ぐ。

目の前にこの男が来てくれなければ。

向こうが真っ先に自分を狙ってきていたら。

そう考えるだけで体の震えが止まらなかった。

自分は生きている。

そう思える今このときが幸せだった。

ふと、ジンは目の前にいる男にお礼とちゃんとした自己紹介をしていないことを思い出す。

相手は自分を知っているようだが、自分は相手を知らない。

そう考えまだ震えが止まらないながらもゆっくりと口を開く。


「…あの…た、助けてくれて…ありがとう、ございます… 僕は・・・」

「ジン・アルサード。性別は男。年齢は17。いや、もうすぐ18か。魔装機の研究者にして開発者。巷では天才少年だったか?親しい友人はあまりおらず、強いていうなれば研究所の人間。家族は養父であるライル=フリッチェ唯一人…君の事は少し調べさせてもらっている。自己紹介は必要ない」

「そ、そうですか… あの、貴方は…」


これで少しなのか?と心の中で疑問に思うジン。

若干引きながら質問する。


「さっきも言ったが…まあいいか。俺はガルーダ。ガルーダ・シグナス。傭兵・・・と言えば聞こえはいいが…まぁ、戦闘関係の何でも屋だと思ってくれればいいさ」


とジンの質問に男―ガルーダは答える。

眼帯をしていない右目がジンの緊張を和らげようとしているのか優しく見えた。


「ガルーダさん…ですか。あの、えと…」

「今は何も考えなくていい。いきなりのことで混乱しているだろう。ともかくこれを飲め、体を動けるようにするのが先決だ。すぐにここを離れて俺の雇い主(クライアント)のもとへ行く」


状況を教えてもらおうとしたジンだがガルーダがそれを制し、小瓶をジンに渡す。

少し戸惑いを隠せないジンだが素直に受け取り小瓶の中身を飲み干した。

すると体のだるさがとれ、力が入るようになった。

どうやら回復薬の類らしい。

ジンはゆっくりと立ち上がる。

その様子を見てガルーダは自分の荷物とジンの持っていた魔装機を手に持つ。


「徐々に動けるようになるはずだ。それとこれはお前の獲物(ジルディア)だ。返しておくぞ」

「え?うわっとと…」


軽く放り投げるようにガルーダはジンの持っていた剣を渡す。

落としそうになりながらジンは渡された剣をまじまじと見た。

自分が無意識に振っていた剣であろう。

気を失う前にかすかに見たモノと同じであった。


(この剣…博士からもらった箱が変形したのか?でも、なんでいきなり…)


ジンは少し考えながら思う。

自分はガルーダを助けた時のことを一切覚えていない

だが、今手に持っている剣で確かに敵を切った。


(……僕は…これで、人を…)


今になって体から嫌な汗が吹き出てくる。

今まで経験することも、したいとも思わなかった。

人を殺めるということ。

ジンはそう考えるだけで吐きそうになっていた。

ガルーダはジンの雰囲気を見て何かを感じ取ったのか、ジンの肩に手を置き言う。


「気に病むことは無い。仕方ないということで終わらせたくは無いが、相手はこちらを殺すつもりだった。君は人を殺めたかもしれない。それはこれからも背負い続けることになる。だが、俺は君のおかげで助かった。俺の命を救った。それでだけは覚えておいてくれ」

「ガルーダさん…」


ガルーダから諭されジンの気持ちは少し楽になった。

ガルーダは荷物をまとめ背負う。


「さて、そろそろ行くとしよう。あいつに機嫌を損なわれると厄介だ」


あいつとは誰だろうと思ったジンであったが、さっさと移動を開始したガルーダに置いていかれないように足早に歩み始めた。




「…そろそろ合流地点だな」


先ほどの場所から移動したジンたちは研究棟が見下ろせる丘の上に来ていた。

ここはディム・バルアの中でも有名な夜景スポットであり普段なら夜景を見ようと人が多く集まる。

だが、この丘の周りには人っ子一人いない。

まるで何かから遠ざけられるようにその周辺に人が近づいてこないのだ。


「人がいないだなんて…何かあったんでしょうか」

「あったんじゃなくて、何かしたんだろうな。たぶん俺の雇い主(クライアント)だとは思うが」


不思議とこぼれたジンの問いにガルーダは答える。

二人は丘を上るために人目につかないよう小さな山道を通ってきた。

そして二人の目の前に大きな広場が広がった。

ジンとガルーダは周りを見渡した。

あたりは静けさに包まれやはり人もいない。

歩きながらふとジンは大きな木のある展望台を見やる。

精霊の雪(フェアリースノー)】と呼ばれる、この展望台の名物だ。

この木からは蛍のような小さな光源がいくつもあふれており、淡い光の幻想的な風景を作り出している。

この光源の正体はわかっていないが、人体に影響がないため特に気にしている人は少なかった。

この木は様々な場所にあり、その木のある場所に町を立てたりすることも多い。

御神木というやつだ。

その木の横に何者かがいた。


「あそこに人がいますね」

「あぁ、どうやら先についていたらしいな。行くぞ」


ジンは頷くとガルーダのあとを付いていく。

展望台にあがりながらジンはだんだん心の中に暖かいと思う「何か」が流れてくるのを感じた。

どこかで感じたような、そんな漠然とした不可解なもの。

怪談を一段一段上がるごとにその「何か」は自分のココロだけでなく体を包み込むようになる。


(暖かくて…懐かしくて…さびしいのかな?なんでこんな気持ちになるんだろう…)


そう思いながらジンは階段を上がる。

やがて展望台の上に上りきりジンが見た人影は、どこかで見たことのある服を着ていた。

踊り子や巫女が着るような衣装でありながら、どこか凛とした雰囲気を醸し出す不思議な装飾。

細くスラッとした脚を見せるような短パンに、指先からふくらはぎ全体覆うように作られたサンダル。

長くサラサラとしたピンクの髪は、サイドテールで束ねられている。

腰には可変式魔装機だと思われる機械をポーチと一緒に身に着けている。

背丈と雰囲気からして女性でまだ幼さが残る少女ではないかとジンは感じる。

そう感じたジンはどこかでこの人物とあったと感じた。

だが、すぐに思い出すことが出来なかった。

思い出そうとすると何かが邪魔をするようにもやがかかるのである。


「…つれてきたぜ、マスター。あんたの王子様だ」


ジンを尻目にガルーダは目の前の人物に声をかける。

その人物はその声で気がついたように振り返り、近づきながらながらこういった。


「ご苦労様、助かったわ」


「…………え……君は、あの時の……」


近づいてくる少女を見たジンは思わず言葉を失った。

そして思い出した。

自分があの時見た少女を。

自分に向けて見せた笑顔を。

ゆっくりとその少女はジンとガルーダの前にくる。

そうして口を開いた。


「久しぶりだね……ジン。」


微笑みながら少女は答える。

まるで、離れ離れになり長いときを経て再びめぐり合えた最愛の人に向けて言うように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング よろしければお願いします(^^;
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ