10:聞こえる声
闇。
それは長く深く広く……途方もない世界。
右も左も前も後ろも上も下も。
自分が何を見ているのかもわからなくなる幻覚に似たものだ。
人々の脳裏から決して離れることのない『闇』。
それは決して、忘れてはならない罪である…
----ここは………どこ?……
ジンは気がつくと何もない空間に浮遊していた。
ただ何かに包まれ、何もない世界に一人でいる気分だった。
恐怖は感じない。
あるのは無だけ。
(…僕は……何を………してたんだろう…)
思い出そうとしても思い出せない。
いや、思い出す気になれないのだ。
もう何もかもを投げ出してずっとここにいたいと思うほど、考えることも体を動かそうとすることもできないのである。
(…なんだか……眠いな……)
何も感じなかった体が徐々に睡魔という感覚に侵食され始めたのを感じた。
体を投げ出し睡魔に身を任せる。
全てから解放され自由になった気がした。
----------!
ふと、どこからか音が聞こえてくる。
微かで弱々しくまるで形となっていない音。
それでも、何故か自分が呼ばれているのだと思うのに時間は掛からなかった。
(…誰…何だろう…)
音は遠い。
まして自分が動こうという気持ちにはなれなかった。
-------?
音が少しずつ近づいてくる。
しかし、自分が理解できる形としてはまだ聞こえてこない。
雑音だらけで聞き取れなかったが、ジンは不思議と懐かしく感じた。
---起きて、起きて―――!
そしてようやく聞こえたのは、懐かしく温かな声で誰かの名前を呼ぶ声だった…
研究所前。
ガルーダは死体を目立たないように片付けていた。
幸い研究所の近くに大きな川があり、死体を隠し流すにはちょうどよかった。
死体を見られれば余計な騒ぎが起こる。
幸い研究所の周辺には人はいないためスムーズにことを運ぶことができた。
犠牲となった兵士は開いたままの目をそっと閉じてやり安らかに眠れるようにしてやった。
作業を終えたガルーダは、研究所裏手の木陰に向かった。
目の前にいる青年は未だ目を覚ましてはいない。
「…俺が命を救われるとは、な…」
結果的にではあるが、ガルーダはこの青年―ジンに助けられたのである。
あの時もし彼の一撃がなければ、間違いなく自分は死んでいた。
光に包まれたその一瞬だった。
「何がどうなってるんだかな…」
考えれば考えるほど混乱だけが頭を支配する。
そのうち考えるのをやめて地面に座る。
「これ以上わからないことを考えても無駄か…ん?」
そんなことを呟いていると通信が入ってきた。
「こちらガルーダ、何か―――」
『どうして待ち合わせ場所にいないのよ!!』
応答した瞬間、通信機の先から怒号が聴こえてくる。
ガルーダは特に気にすることなく通信機を耳から離し答える。
「緊急事態だったんだ、仕方ないだろう? それに監視していた時に事態が起きた時、介入をしろといったのはそっちだぜ?」
『確かにそうだけどっ! それとこれとは話がちが―――』
「それに通信魔装機には探査機能があるからもしものときはこれを使って探せと言った気がするんだが?」
『うぐ…そ、それは…』
ぐぬぬぬぬ…といった感じで通信相手は唸っている。
それを聞いたガルーダはやれやれといった感じで話を続ける。
「連絡を入れなかったのはすまなかった。そっちにこれから合流する。それと"優雅"な雰囲気はどうしたんだ?年相応な反応だぞ」
『ハッ!? ゴ、ゴホン…ともかく! 合流する場所はそっちで決めてちょうだい。なるべく人に見られないようにお願い』
「了解だ、主人」
『それと、彼は無事でしょうね?』
心配した口調でこちらに訪ねてくる。
少し呆れたように息を吐きジンの方に顔を向け答える。
「安心しろ、とりあえずは無事だ。今は眠っているがな」
『そう、それならいいのだけど…』
「何にせよ、さっさと合流したほうが良さそうだな。向こうはもう動き出してるようだし、あんたに会って聞きたいこともできたしな」
『聞きたいこと?』
「いや…それについては――ん?」
通信をしながら微かに視界の端で何かが動いた。
動いたものを確認するために視線を動かす。
先程まで眠ったままのジンが目を覚まそうとしていた。
「あんたの王子様が目を覚ましそうだ。そろそろ動く、詳しくはまた後にしよう」
『そう、それじゃあ頼んだわ』
通信を終え、ガルーダはジンの近くへ向かう。
そうしてゆっくりとジンは目を覚ました。
久々に投稿。
お待たせしました…本当に。
亀更新で進めていこうと思っています。感想・意見・アドバイスドンドンくださいな