表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

私はこの男が嫌いだ

作者: いのりん
掲載日:2026/04/20

 前世の人格が蘇ったのは突然のことだった。


「カミーラ、婚約者候補はこの三人だ。誰を選ぶ?」


 父親らしき人物からそう言われた時、貴族令嬢カミーラ・ヤナ・セレナとして17年間生きてきた女の持っていた知識と記憶はそのまま、人格に前世の『加美羅(かみーら)』が上書きされたのである。


 婚約者候補と言われた三名の名前と、記憶にある自分の容姿および経歴から判断したところ、どうやら私はスマホで遊んでいた無料(一部課金あり)乙女ゲーム『私を高みへ連れてって』の世界へとトラック転生したらしい。


 そして現在は、ゲーム最序盤のチュートリアル。


(え?!元の人格どこいったの……あ、本人の思考と感情だけ記憶がないわ。成程、いままでカミーラは所謂『哲学的ゾンビ』状態だったのか良かった……ってそれも怖!あと、神様、良い世界に転生させて頂き大変ありがたいんですが、ここ第一希望の転生先じゃ無くて第三希望なんですけど……)


 小説家になろうを嗜んでる人なら分かると思うが、年頃の乙女たるもの「もしも転生するならこの世界!」ってのを第三希望くらいまでは考えているものだ……考えてるよね?


 ちなみに、私の転生先の第一希望は昭和30年代前半を舞台にした某名作アニメの5歳児だった。優しい家族に囲まれて、子供の時にだけ訪れる不思議な出会いを体験したかったのだ。


(もしかして、名前や年齢や種族の近いヒロインじゃ無いと転生できないとか?……あくまでも仮説だけど)


 ちなみに、第二希望のヒロインはこの世界と同様カミーラというお名前。ただし、種族は吸血鬼の逆ハーレム小説世界だった。


 第一、第二希望を通せないなんて、神様といっても結構しけて……


 いやまて。


 冷静に考えると中身17歳が5歳児の演技するってあいたたたーだし、お化け屋敷にすむ生活も何かと不便そうだし、吸血鬼になってもうっかりカーテンとか開けて灰になりそうだからこの世界で良かったかも。


 冷静な調整をありがとう、神様!

 私は最初からアンタを信じていたよ!


「……カミーラ?」

「おっと、失礼しましたお父様。それではこちらのティガ・アート・デッセイ様と婚約しとうございます」


  携帯乙女ゲー『私を高みへ連れてって』通称『わたつれ』はノーストレスが売りのノベル型恋愛シミュレーションだ。


 プレイヤーは主人公カミーラとなり、三人の婚約者候補(課金するともっと増える)から一人を選びそのヒーローと共に通っている学園でずっとイチャコラする。


 出てくるヒーローは皆優秀で紳士的。カミーラのことが大好きで、色んな女からモテモテなのにひたすら一途。どの選択肢を選んでもいっぱい褒めてくれて、彼女のために頑張り続け、将来は一角の人物(王様や宰相や騎士団長)となって「全てカミーラのお陰だ、一生愛してる」的なことを言われセレブ妻になってハピエン。


 最近流行の、自立しているつよつよヒロインものとは真逆を行くスタイルだ。


 ちなみにキャッチコピーはこちら。


『スパダリから一途に愛されよう。それも簡単に、努力は最小限で、今すぐに』


 男性なら、女の浅ましいリクエストをこれでもかと詰め込んだをゲームだなと笑うかもしれない。だが、男性向けラブコメにも同じような話は多いときくし、お互い様だと思う。


 男であれ女であれ、つらたんな人生を送るものには、ノーコストで上めの異性からヨシヨシされる時間が必要なのだ。例えそれがフィクションでも。




 さて、そうして始まった学園生活。


 婚約者、そして我がヒーローに選んだティガ様の様子がおかしい。


「カミーラ、この学校、授業長くない?」

「しっ、講義中ですよ」


 まず、けっこう多弁で落ち着きがない。座学の半分位しか集中力が持たず、よく話しかけてくる。ティガ様と言えば寡黙で落ち着きと忍耐力と包容力があると評判の人物なのに……

 ちなみに授業時間は確かに長いが、前世の高校の1.5倍くらいで決して耐えられないものではない。


「カミーラ、今度出かけるときマリーとユリアンも一緒に誘っていい?二人も君と仲良くなりたいみたいだし」

「……婚約者と出かけるときは二人きりと言うのがしきたりだと思いますの」


 あと、他の女に対する愛想が良すぎる。『ひたすらヒロインへ一途、他の女は眼中になくむしろ苦手』のはずのティガ様が、むしろ彼の方から女に声をかけ、まるでハーレムを作ろうとでもしているかのようにみえる。

 何度かやんわりと指摘してみたが、返答は『皆仲良くできた方がいいじゃん』とのこと。それ、逆の立場でも同じ事言えんの?


「あー、騎士団長よりも冒険者になって色んなところを旅してみたいな。それで悪いドラゴンとか一杯やっつけて人助けしてさ」

「作用でございますか」


 そして、結構KYでキャラ設定が色々と崩壊している。周囲も、最近のティガはまるで人が変わった様だと噂になっているくらいには。


 お互い貴族の令嬢令息で、常に従者が側にいる関係で問いただせていないが間違いないだろう。


 ティガ様……いや、今の奴に様づけはいらんな、ティガは私と同じ転生者に違いない。もっとも、向こうはそれに気づいていないようだが。


 そして、私はこの男が嫌いだ。


 ティガはきっとこの世界を俺TUEEE系ハーレム物とでも勘違いしているのだろう。奴がこの世界にやってきたのはきっと、ティガって名前の主要キャラがいる世界がレアで、他に転生先が無かったとかそんな理由だ。


 てゆーか、ティガって元の漢字どんなだよ。

 帝牙、とか?


 キラッキラだな、もしかしたらちょっとアレな親だったのかもしない。ちなこれ、前世が加美羅だった私の経験談。つらたん。


 さて、そんなティガ。希望先に配属されなかったらしきことには同情するが、それで納得し受容できるほどスパダリを奪われた私の心の傷は軽くない。


 あと現在婚約者となっているので、このまま順当にいけばハーレム願望の勘違いクソ野郎と結婚するハメになってしまう。それも絶対に嫌だ。


(と、言うわけで痛い目見てもらうとしましょうか。とは言っても、私はアドバイスせずにただ見てるだけなんだけど)


 正史ではマッチョで騎士団長となるティガ様。ルート序盤で、彼の男気が炸裂するイベントがやってくる。


 婚約者同士、絆を深めるために休日静かな湖畔に出かけた際、超強力な獣に強襲されるイベントがあるのだ。


 ちなみにこの時、二人の従者はお花摘みや周囲の索敵に出ていて不在。


 そこで、愛するカミーラを守るため単独で自分よりも圧倒的に強い獣に立ち向かうティガ様。ボロボロになるが闘志は衰えず。

 実はその獣は『最近の若いもんはどんな感じかな』と試しにきた伝説の聖獣で、その聖獣に認められた事でティガ様は出世街道を爆進し「全てカミーラのお陰だ」とか言ってくる、そんなお話だ。


 俺TUEEE系ハーレム物だと思っている今のティガには現実を知らしめるいい機会になるだろう。聖獣って人間の味方らしいから、呆れても命まではとられるまい。


 もし当日、チビって私をおいて逃げ出そうとするならそれを口実に婚約破棄してやる。


 あと、ボロボロになった後二人きりの看護イベントがあったからこの世界の秘密をバラすのはその時でいいや。


 我ながら黒いと思うが、勘弁してほしい。


 なんせ私は、17歳にもなって脳内ポワポワなあの男が嫌いなのだから。絶対、小中高と碌な人付き合いしてないぞアイツ。


 同族嫌悪?

 あーあー、聞こえない聞こえない。





 さて、そうして始まった聖獣様強襲イベント。


 ティガは思った以上にようやっとった。

 と言うか、ようやり過ぎとる。


 ゲームでは


『ティガはボロボロになりながらもカミーラを守っている』


 という短文で表示され、立ち絵もなんかちょっと薄汚れたくらいだから分からなかったけど、鼻血を流しながら、なんなら痛みと恐怖で涙までボロボロ流しながら私を守ろうと戦い続けていた。


 あと、聖獣のプレッシャーも半端ない。もう、ティガもこの世界が俺TUEEE系ではないことが分かっているだろう。痛みは本物で、身体はズタズタ。少なくとも、魔法少女なら変身は解け、光の巨人なら胸のタイマーが点滅し、巨大ロボットならアラートがビービーしてるくらいのダメージは受けている。


 暴力に慣れていない中高生なら逃げ出すのが普通の場面だ。なのに、ティガは逃げない。


(えっ、もしかしてこれって……)


「ナゼ、ニゲナイ?」

「僕は……僕はヒーローになるんだあぁぁぁ!」


 結局、私を守るためとかそう言う理由じゃ無かったんだけど、それはそれとして男気を認められた彼は聖獣のお気に入りとなりルート通りイベントが終了した。





 さて、その後日。


 傷ついたティガ君を見舞い二人っきりになる場面にて、私は自分も転生者である事を打ち明けた。


 そうだったの!?という顔をするティガ君。


「ええ、それでね……君ってもしかして、生まれ変わる前は今よりも……」





 ()()()()()()()()()()()()()()()()





「え、なんでわかったの?!」


 ビンゴだった。自分がそうだったから、彼の中身も高校生と思い込んでいたが確かにティガ君にはそう言う節があった。例えば、授業時間の半分くらいしか集中力が持たなかったり、男女の機微に疎かったり……


「そう、ひかり組だったんだ。まあ、ほとんど病院にいたんだけど……」

「うえ!?まさかの元幼稚園児!」


 鈍感ムーブにイラっとしていたが、幼稚園児なら仕方ない。むしろ充分過ぎるほどようやっとる。毎日、行き渋らず学園通ってるだけでもう偉い。


「僕、なんでこの世界に来たんだろう?生まれ変わったらティガになりたいって神様にお願いしてたんだけど、違うティガになっちゃった……」


 なんでも、彼の転生先第一希望は巨大ヒーローだったらしい。成程、それは神様にも荷が重いお願いだ。たぶん、吸血鬼転生よりも種族的条件厳しいし。


 ……それかもしかして、私が弾かれたの第一希望から考えると版権的なアレだったのだろうか?ティガ君のも合わせて、大手は厳しい的な。


「辛い?」

「んーん、身体も痛くないし点滴もしなくていいし」


 あと、その話を聞いて思い出した。


 そう言えば昔、公共放送のドキュメンタリー再放送で見たことがある。それは、難病で小学生になる前に亡くなってしまった男の子のこんな話だ。


 ***


 男の子は巨大ヒーローに憧れていた。医師から輪廻転生の話を聞き『生まれ変わったらティガ』になりたい、と呟く。


 医師と両親は夢を叶えるべく奔走し、巨大ヒーローの利権をもつプロダクションも快諾。余命僅かな少年の病室にそのヒーローがやってくる。


「ありがとう、僕はパパとママの子供でよかった」


 少年はそう言い遺し、遥か遠い光の国へ旅立つ


 医師は、死亡診断書の余白にこう付け加えた


 追記:少年はこの日よりティガへと転身(変身)


 ***


「カミーラ……なんで泣いてるの?」

「いや、ちょっと目にゴミが……」


 そっかあ、この世界に転生してたのかぁ。

 そら、見えない今日の風に立ち向かっていったヒーローなら強大な敵を前にしても逃げんわなぁ。


「今頃怖くなった?大丈夫だよ、よしよし」


 何か勘違いされたらしく、頭を撫でられた。





 さて、そんなことがあってからさらに一月。


「カミーラ、今度の休みは天文台に星を見に行こう!勿論、二人っきりで」

「いいね、楽しみにしてるよ」


 私とティガ君の中は良好だ。


 婚約も継続している。まあ今の彼はスパダリではなく、手のかかる弟と言った感じなのだが、一旦正体がわかれば可愛いものだった。少なくとも、こちらが支える側になるのもやぶさかでは無いと思えるくらいには。


 男であれ女であれ、つらたんな人生を送ってきた者には、ノーコストでヨシヨシされる時間が必要なのだ。


(なら、わたしがやってやんよ)


 それにティガ君は素直で努力家、アドバイスした事はきちんと実践してるし、こちらの事を慕っているのもポイントが高い。


「ねえ、カミーラ」

「なあに?」

「大好きだよ。僕、絶対立派なヒーローになるからそしたら結婚しようね!」

「んあ?!」


 おおお、落ち着け私!今のは幼子の「大きくなったら先生と結婚するー」系の奴に違いない。


 しかし、顔のいい年頃の男の姿で言われると破壊力が凄いな……熱い鼓動がする……てゆーか、今から仕込めば本当に私にゾッコンのスパダリに……って煩悩退散!


 ただ、希望に光る瞳でできる事を続けている彼は、きっと将来凄いところに辿り着くんだろうなぁって確信はある。


「……まあ、ティガ君がヒーローになるのを応援してるよ」


 夫婦には釣り合いってのあるから、その時私が隣にいられるかは分からないけれど。


 だがせめて今、彼の傍で微笑みを守る優しい人ではありたいと思った。

カミーラの言ってる男の子のお話は、ちょっぴり改変していますが、ほぼ実話です。人間の尊厳について書かれた終末期医療の本で、そう言ったエピソードがあった事を知りました。


少年が輪廻転生し、異世界で幸せになっている事を願います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
精神的おねショタカップル誕生で、めでたし愛でたし。 カミーラとしては乙ゲー転生ですが、ティガ君の要望が混ざって劇場版アートラマソ要素が入ったのでしょうか。 ふたりの未来がどうなるのか分かりませんが、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ