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03. 封じられた最上階

「ちょっと?聞いてるの!?」


黙って考え込む俺が気に障ったのか

再度かけられた声には苛立ちが滲んでいた。


「攻略済みってどういうことだ?」


『World Re:Code』内のレベルの上限は100。


だが全てのプレイヤーがレベル上限に

達している訳でもなく、ほとんどがその半分の

50〜70レベル。


90レベルに達しているものでさえ、

全体の1割にも満たなかった。


そんな中、俺のレベルは97。


ダンジョンマスターという括りでは

トップのレベルを誇っていた。


そんな俺が作ったダンジョンも

なかなか高難易度なものだった。


難攻不落、最凶最悪、誰も最上階に

たどり着いたことがなかった。


それなのに攻略済みだと…?

一体どうなってるんだ?


「知らないで攻略していたの?

 ここは10年前、当時ギルドのトップだった

 冒険者のパーティに踏破されたのよ。」


ギルド、冒険者。

アニメや漫画でしか聞かない言葉。

俺はあまり現実味がなく、

夢物語のように聞いていた。


「街では今でも英雄として語り継がれてる話なのに、 本当に知らないの?」


少女は訝しむような視線を向けてきた。


そういえば、街。

ダンジョンを見つけるまでは街を目指していたが、

今となっては後回しだ。


「知らないな。

 まず、街にも行った事がないし。」


少女の瞳が大きく開かれる。


「嘘でしょ?そんな人間がいるなんて。

 …ってことはもしかかして冒険者登録も

 していないの?」


ハッとしたような表情で問いかけてきた少女。


今度は俺が首を傾げる。


冒険者登録?

もちろんしてないが、それがなんなんだ?


「してない…。」


少女ははぁと深々とため息をつく。


「このダンジョンに挑戦するには冒険者登録が

 必要なの!バレたらペナルティがあるのよ!?」


「は?なんでダンジョンに挑戦するのに

 他人の許可がいるんだ?」


自分のものを奪われたような気分になり、

思わずムッとしてしまう。


ダンジョンは本来、誰の所有物でもないはずだ。


ダンジョンマスターがいれば話は別だが、

このダンジョンのマスターは俺なのだ。


冒険者ギルドには関係ないはず。

ましてやペナルティなんて…。


「そりゃ、初心者を鍛えるための

 ダンジョンとしてギルドが管理してるからよ?」


その言葉に俺は眉を顰める。


「初心者を鍛えるためにギルドが管理…?」


ありえない。

そんなはずはない。

最高難易度ダンジョンなんだぞ!?


攻略済みでギルドに管理されているどころか、

初心者向けだと…?


はぁ、と何度目かのため息をつく彼女。


「ほんとに何も知らないのね?」


「…。」


彼女の顔には呆れが見えた。


「このダンジョンは階層ごとの特色が

 分かりやすい上、そこまでレベルも高くないの。

 だから初心者を鍛えるのにちょうどいいのよ。」


俺は殴られたような衝撃を受けた。


初心者向けに解放されてる…。

新人育成にちょうどいいダンジョン…。


俺の最凶最悪のダンジョンが──。


何百時間もかけて地形を組み、

魔物を生み出し、

罠の発動タイミングも秒単位で調整した。


攻略するプレイヤーに合わせて、

魔物の配置だって何度も組み直した。


「鬼畜すぎる」「性格悪すぎ」とチャットに

流れた罵倒は数えきれない。


だがそれは、当時の俺にとっては、

最高の賛辞だった。


それなのに──

それが、初心者向け?育成用?


俺が削った睡眠も、積み上げた理不尽も。


すべてが“ちょうどいい難易度”に

上書きされたというのか。


胸の奥が、軋んだ。


……だからか。


俺の知らない仕掛けや、

フロアガーディアンがいたのは。

誰かが、俺のダンジョンを書き換えた。


俺は一筋の希望を込め、とある質問をする。


「なあ、もしこのダンジョンを攻略したら

 どうなるんだ?そいつがダンジョンマスターに

 なれたりするのか?」


ダンジョンを攻略しさえすれば全てが元通り。

俺のダンジョンに戻るはずだ。


だが──。


「無理よ。」


続いた言葉はあまりに無情だった。


「なぜだ?」


「最上階の扉が開かないらしいのよ。

 ギルドで管理しているダンジョンだし、

 間違っても攻略されないようにって

 ことなんでしょうね。」


視界が真っ黒に染まった。


最上階の扉が開かない。

それは攻略不可を意味する。


最上階のフロアボスを倒さないと

ダンジョンは攻略できない。

なのにも関わらずその扉が開かないなんて──。


俺の希望が粉々に打ち砕かれる。


なにか…。

何か方法はないのか。

せっかくこの世界にきたんだ。


やっと彼女に──。


俺は深い谷底に突き落とされたような気分だった。


あまりに俺が酷い顔をしていたのだろうか、

今まで強気だった少女が心配そうな表情で覗き込む。


「まあ、ギルドは攻略を禁止してはいないし、

 扉さえ開けてしまえば踏破することも可能な筈よ。

 本来ダンジョンとは攻略は自由なもの。

 誰にもそれを縛ることなんてできないわ。」


励ましの言葉。

気を使わせてしまっただろうか。


そうだよな。

結局のところそれしかない。

ギルド管理だろうが関係ない。

俺はこのダンジョンを踏破する。


俺は改めて、決意を固めた。


「教えてくれて、ありがとう。

 それじゃあ、俺はいく。」


そう言って立ち上がろうとする俺の手を

少女は掴んだ。


「待って。」


どこか思いつめたような表情で俺の手を掴む少女。


なんだ…。

あっそうか。


「お、お礼だよな!

 悪いけど今手持ちがなくて…

 また、今度必ず、このダンジョンを

 踏破したら返すから!」


少女は命の恩人だ。

なのに「ありがとう。じゃあね!」って

そりゃ引き止めるよな。


身体を見ると血は止まっていたし、

もしかしたら回復ポーションなんかも

使ってくれたのかもしれない。


それなのになんのお礼もせずさよならはまずい。


慌てて捲し立てる俺に、彼女は首を振った。


「違う。

 お礼が欲しいんじゃなくて…。

 あなた一人で行くつもり?」


予想外の一言に一瞬戸惑う。


「ああ。俺は一人で攻略するよ。」


もちろん最初から一人で行くつもりだった。


これは俺のダンジョンだ。

俺が取り戻すものだ。


......なのに。


なぜかその言葉が、少しだけ寂しく響いた。


「…。」


数秒沈黙が生まれる。

何かを考え込み、俯く少女。


──正直気まずい。


「じゃ、じゃあ俺は行く。」


再度切り出したその時だった。


「私も行くわ。」


「え?」


彼女は何かを決意したような表情だった。


見ず知らずの俺と一緒にくるだと?

一人の俺を心配してなのだろうか…。


「そこまで甘えられない。

 俺はダンジョンを踏破するつもりなんだ。

 巻き込むわけにはいかない。」


ダンジョン踏破は簡単な道のりではない。

そうやすやすと巻き込んでいいはずがない。


それにギルドに管理されているとなるといくら攻略は自由とは言え、踏破したらギルドに目をつけられる可能性だってある。


ダンジョン攻略は自由。


とは言え、登録なしでペナルティが課されるのだから、ギルドの力がどんなものか分からないが、最悪、犯罪者として捕まってもおかしくない。


「私にも目的があるの。

 そのためにあなたを利用する。

 だから連れて行って。」


彼女の意思は固い。

芯のある強い瞳がまっすぐ向けられる。


その瞳に俺は負けた。


「わかった。

 一緒に行こう。

 これからよろしく頼む。」


そっと右手を差し出す。


その手を握り返す彼女。


その手からほのかな温もりが伝わる。

人に触れたのはいつぶりだろうか。

心の奥に、じんわりと熱が灯る。

俺たちは再び視線を交差させる。


「よろしく。私はアリサ・ミナシエ

 あなたは?」


そう言えば名乗ってなかったなと思い返す。


名。名前か…。


ぽつりと呟くように出た言葉には静かな決意が込められていた。


「ロキス。」


前世の名前でも、ダンジョンマスターだった

ゲーム時代の名前でもない。


────新たな名。


これは俺が過去と決別し、新たな人生を歩む証。

この世界では、俺はロキスとして新しい世界を

切り開いていく。


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