02. 挑戦者としての一歩
『Access Denied
Role Assigned: Challenger』
「チャレンジャーってなんだよ…。」
まるでゲームのように空に浮かぶ文字は無情に告げていた。
ふざけるなよ!!
俺の転生特典返せよ!!
冷んやりとした石造りの壁に背を預け、天井を見つめる。
俺の転生人生は、始まる前に終わった…。
◇◇◇
どれくらいそうしていたのだろうか。
「いつまでもこうしているわけにはいかないか…。」
はぁと深く息を吐き、立ち上がる。
どうせこんなことしていたところで意味はない。
項垂れていたって仕方ない。
俺はもうダンジョンマスターではない。
どんなに嘆いてもその事実は変えられない。
なら俺がやることは一つ──。
このダンジョンを攻略する。
「よし!やってやる!」
パチンっと頬をたたき、気合を入れる。
ダンジョンの最奥に辿り着いて、ダンジョンマスターに返り咲く。
そして…彼女を──。
このダンジョンの最上階は100層。
道のりは長いが、やるしかない。
俺は腰に下げられた剣に手をかけた。
◇◇◇
長い長い石造の道の先は暗くて見えない。
ごくりと唾を飲み込む。
知っていてもこの緊張感。
これはゲームじゃない。
コントローラーでボタンを押せば敵が倒れるような生やさしい世界じゃない。
身体を動かし、剣を奮い、自らの手で切り拓かなければいけない。
深呼吸をし、じんわりと汗が滲む手に力を入れた。
「行こう。」
だれがいるわけでないがそう呟いていた。
誰でもない自分を鼓舞するために。
そうと決まればやる事がある。
それは自分の能力を把握することだ。
何ができるのか、何ができないのかをしっかり把握する。
そっと腰に下げた剣のつかに触れる。
冷んやりとしていてどこか心地よい。
ゴブリンとの戦いで、俺は自分が剣を得意としていると分かった。
それに剣を握っていると落ち着くというか、剣が手に馴染む感じがする。
まるで何年も剣を極めていたかのようだ。
では、その他は?
例えば、魔法なんかは使えるのだろうか。
答えは使える。
正確には確信はないが使えると思う。
魔力なんて感じたこともない。
ましてや魔法など使ったこともない。
それでも──。
身体の奥に、確かに“何か”が流れている感覚がある。
何度目かの角を曲がった時だった。
「ガウゥ!!」
犬のような顔、毛むくじゃらの体。
獣の体にも関わらず、後ろ足のみで立つ、二足歩行。
そして、手には鉄の槍──。
ハァハァと荒い呼吸の間に鋭い牙がキラリと光る。
コボルトだった。
ダンジョンに来てからの2度目の戦闘。
しっかりと視線を定め、剣を握る手に力を込める。
「試してみるか。」
俺は心の内に聞こえる声に耳を傾ける。
その瞬間、妙な感覚に襲われた。
力が剣に吸い取られるような、不思議な感覚。
そして──。
「嘘だろ…?」
刀身は眩い光を放ち鋭さを増し、俺はあっという間にコボルトを一刀両断していた。
これは──。
「シャイニングブレード…!?」
ゲーム時代にあった光属性の剣技だ。
やはり魔法も使える。
「これなら、なんとかなるかもしれない。」
闇の中に一筋の希望の光が見えた気分だった。
その後、俺は記憶にある限り色々な技を試してみる。
「ん〜つかえるな。」
先ほどのシャイニングブレードの他にも、
光速の突撃技「シャイニングスピア」
光の斬撃を飛ばす「フォトンスラッシュ」
光を放つ2連撃技「セラフィックブレイズ」
どうやらこの体、光属性の剣撃魔法が得意らしい。
ゲーム時代のアバターは闇魔法が得意だった。
光属性の剣撃など使ったことはないためあまり知識はないが、知ってる初級技は大抵使えるようだ。
繰り返し使用する事で熟練度も上がって魔法の幅も広がるだろう。
胸の奥が熱を帯び、口角が自然と上がる。
「俺めちゃくちゃゲームやり込んでたしな。」
人生の全てをかけた廃ゲーマー舐めんなよ!
どんな魔法だって使ってみせる!
そして必ずこのダンジョンを攻略してみせる!
◇◇◇
他よりひときわ巨大な、古びた扉が静かに佇んでいた。黒ずんだ鉄の縁取り。無数の傷跡。
そこから滲み出る圧は、挑戦者を拒むために存在しているかのようだった。
このダンジョンには10層ごとにフロアボス。
その他階層にはフロアガーディアンがいる。
そして、ここは第一層の中ボスがいる部屋。
ゴゴゴ。
ゆっくりと扉が開いていく。
しんと静まり返った部屋に静かな緊張感が走る。
ドクンドクンと脈打つ心臓が少しずつ早くなっていくのがわかる。
ゾワゾワと全身に鳥肌が立つ。
部屋の奥から大きな黒い影がゆっくりと姿をだす。
それをみた俺は思わず目を見開く。
「は?」
大きな黒い毛皮。
獲物を射殺す赤い瞳。
なんでも噛み砕いてしまいそうな鋭い牙。
塔狼がそこにいた。
待て待て。
俺は一層の中ボスこんな奴配置してないぞ?
「グルゥゥゥ…。」
塔狼は低く唸り声を上げる。
その声で場の空気が下がったような感覚を覚える。
一旦退却と思ったが逃がしてくれる様子ではない。
震える足に鞭を打って力を入れ直す。
鋭い視線が交差する。
俺を見定めるような目。
俺は剣を構え直した。
「ガルゥゥ!!」
力強く吠えた塔狼はそのまま突進を開始する。
だが、俺は動かない。
時を待つ。しばらく惹きつけて、塔狼の牙が届く寸前、思いっきり地面をけり、右へよける。
すかさず、塔狼の右側へと滑り込み、まばゆい光を放つ刀身を叩き込む。
「グルゥゥ!!!」
悲鳴にも近い鳴き声をあがる。
鉄の錆びたような匂いが鼻をつく。
傷口からは赤黒い血が流れ落ちている。
大勢を立て直し、再び距離を取り警戒する塔狼。
呼吸は荒く、赤黒い血は流れ続けているが、爛々とした光を宿した鋭い瞳は獰猛に輝き続けている。
交差する視線。
おそらく先ほどの技はもう効かないだろう。
ならばどうするか。
今度は突撃。
「はぁ!!!」
気合を込めて地面をけり、一気に塔狼との距離を詰める。
「グルゥゥゥ!!」
低い唸り声で応戦する。
どうやら俺の攻撃を正面から迎え撃つ構え。
「なっ!!」
俺の切先が塔狼へと届く瞬間。
塔狼は身体を右へ逸らす。
先ほど俺がやったのと全く同じ手口。
「コイツっ学習しやがったてん!?」
咄嗟に腕でガードする。
狼の牙が深く突き刺さる。
「くっそっ…痛ってぇな!
そうだよな。これゲームじゃなもんな!!」
油断した。
そうだ。モンスターも現実を生きている。
学習もすれば策もたてるだろう。
噛まれた腕が熱を持ち激痛を放つ。
これが痛み──。
その痛みはこの世界はゲームではないと嫌でも告げていた。
全身から滝のように冷や汗がながれ、呼吸が速くなる。
このままじゃまずい。
目前に来た死の恐怖に指先が冷たくなる。
次は俺が仕掛ける。
塔狼が体制を変えた瞬間俺も右へと体制を変え、大きく剣を振り抜いた。
「がぁぁぉ!!」
俺の剣が数刻早く塔狼へ届き、まばゆい光とともにその息の根を止めた。
どさりと塔狼の身体が地面に倒れる。
そこからは赤い液体が流れ出す。
ピクリとも動かないそれに安堵の息を漏らす。
「ふぅ…。」
俺はその場に膝から崩れ落ちていた。
初めてフロアガーディアンとの戦い。
どっと疲労が押し寄せてくる。
怪我はズキズキ痛むし、血も流れ続けてる。
これを後、99回。
道のりは長い。
長すぎる…。
よろよろと立ち上がろうとした瞬間──。
「あ、まずい…。」
ぐにゃりと視界が歪み、膝が崩れ、身体から力が抜けていく。
そこで俺の意識は途絶えた。
◇◇◇
「うっ…。」
全身の痛みで目を覚ます。
ごつごつとした岩肌が視界に入る。
ここは?てか俺、なんで?
確か塔狼を倒して…。
呆然としていると、ふと声をかけられた。
「あんた。バカなの?」
いきなりの罵倒。
もう少し何かなかったのだろうか。
そっと声の主の方に視線を移す。
夜空のような輝きを纏う漆黒の髪。
気の強そうな切れ長の瞳。
魔法使いを思わせるようなローブを纏った少女。
「え、えーと、君が助けてくれたのか?」
辿々しく言葉を紡ぐ。
この世界で初めての人間。
というかそれ以前の俺もあまり人付き合いが得意な方ではなかった。
特に女性関係は壊滅的だ。
「ええ。
それで、何か言うことあるんじゃないの?」
どこか不満気な態度の彼女。
言うこと…。
なんだ?
俺は…なにを…。
そこまで考えてハッとする。
「助けてくれて…ありがとう。」
まずは感謝だろう。
こんなダンジョンで気絶していたんだ。
塔狼を倒した後とは言え無防備がすぎる。
きっと彼女が守ってくれていたのだろう。
俺の言葉に満足したのか呆れたのかは判断つかないが、はぁ、と深々とため息をついた。
そして、俺は続く言葉に驚愕する。
「いくらここが、攻略済みのダンジョンと言っても1人で挑むなんてバカなの?死にたいの?」
「え…。」
攻略…済み?
何を言っているのかさっぱり分からなかった。
俺のダンジョンはゲーム内でもトップクラスの難易度を誇っていた。
難攻不落、最凶最悪、今まで一度たりとも攻略されたことがないダンジョン。
それなのに…攻略済み…?
ありえない。
そんなはずはない。




