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01. Access Denied

ゲームが好きな人間なら誰しもが思うだろう。

自分でプレイしているときが、いちばん楽しいに決まっている。


そうだろ?

誰かがプレイしているのを観てるだけなんて、つまらない。


「はぁ、はぁ…くっそ。」


だからって、だからと言って!!

俺はこんなこと望んでない!!!


ダンジョン攻略。


異世界転生ものとしてはありきたりな展開。

そこに俺も文句を言うつもりなんてなかった。

異世界転生なんて憧れだろ?


ただ、それは普通のダンジョンだった場合だ。

ここは普通のダンジョンじゃ無い。


そう、ここは俺のダンジョン。


ここは俺がダンジョンマスターとして丹精込めて作り上げたダンジョンなのだ。


「俺は挑戦者〈プレイヤー〉じゃないんだよ!!」


◇◇◇


水の流れる音がする。

風がほおをかすめ、草木の匂いが鼻をくすぐる。


ゆっくりと瞼を上げると、眩しいほどの緑が目に入る。


ここは…森の中か?


記憶を辿るが、こんな場所に身に覚えがない。


無性に喉の渇きを覚え、水音を頼りに歩くと川へ辿り着いた。


水に手をつけると心地良い冷たさが伝わる。

海底が見えるほど透き通った川、これならば飲んでも問題ないだろう。


水を手で掬い上げごくりと喉へ押し込む。

冷たい水が喉の渇きを潤していく。


生き返ったような、そんな気分だ。


渇きが癒えると途端に周囲が見えてくる。


「ここ、どこだ?」


見たことのない色や形の木々や花、巨大なキノコ。


ドキリ。

俺の心は静かに高鳴った。

確信はないが、本能が告げている。


そして、水面に移ったそれは俺の本能が間違いではないと言っていた。


「嘘だろ?」


陽光を跳ね返す金髪。

長いまつ毛の奥から覗く、意志の強い蒼い瞳。

すっと通った鼻筋、小さな顎、丹精な顔立ちだ。


36才、独身のごくごく平凡なサラリーマン。

恋人もいない、夢もない、毎日仕事をして家に帰って寝るだけの人生。


そんな俺が──。


「イケメンに転生したのか!?」


憧れの異世界転生。

夢もクソもない現実からの開放。


前世で非モテだった俺。

彼女なんてできたこともない。


ドクン。


心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。

ただならぬ興奮が押し寄せる。


「よし!まずは街を目指すぞ!」


何においてもまずは情報収集。

この世界がどんな世界なのか、何ができるのかを知っておかなければいけない。


そして何より、女性がいる──。


この顔なら!今の俺ならできるはずだ!


人生初の彼女が!!

俺のニューライフが今始まった!! 


ありがとう神様!!


俺は期待に胸を膨らませていた。

進行方向を決める為ぐるりと辺りを見渡す。


「え…。」


視界に飛び込んできたそれを見て俺は息を呑んだ。


「あの塔は…。」


天まで届く白亜の塔。


悠然とたたずむその塔に俺の思考が止まる。


「嘘だろ!?」


先ほどまでの考えなど忘れてしまって、俺は真っ直ぐに駆け出していた。


川を越え、森を駆け抜け、木の枝が肌に刺さるのも気にせず、無我夢中で走った。


近づけば近づくほど、その塔の巨大さは際立っていった。

挑戦者を萎縮させるようなそんな圧倒的なオーラを放つ。


幾度となく、挑戦者を追い払ってきた塔。


見間違えるはずがない。

これは俺が作りあげたダンジョンだ。


俺は転生前、生粋のゲーマーだった。

中でもVRMMORPG「World Re:Code」には仕事と睡眠以外のほとんどの時間を注ぎ込んだ。


このゲームの魅力、それは自由度の高さだ。

プレイヤー次第で国王や勇者、魔王なんでもなれる。


そんな世界で俺が目指した存在。


それがダンジョンマスター。

ダンジョンを作り、管理するもの。


俺はいつしか難攻不落の高難易度ダンジョンを生み出し、プレイヤーの間で畏怖の目を向けられていた。


何人ものプレイヤーが挑戦してきた。

ダンジョンマスターとして、挑戦者を待ち、あの手この手で攻略してくる冒険者たちを追い返すのが俺の生き甲斐だった。


そのダンジョンがいま、俺の目の前にある。


ドクンドクンと鼓動が早くなり、体が熱くなるのがわかる。呼吸も自然と早くなる。


「そうか。これが俺の転生特典!!」


転生には転生特典。

俺はゲームの世界に転生し、ダンジョンマスターとしてこの世界を生きていく。


この世界でも凶悪なダンジョンを作ってやろうじゃないか!


決意を胸にダンジョンへ踏み出す。

そして、ふとあることに気づく。


「そう言えばゲームで使ってたキャラじゃないんだな?」


ゲームの世界へ転生する話でよくあるテンプレ。

大抵はゲーム時代の自分のアバターに転生する。


だが、この体に全く見覚えがない。


「まあ、いいか。

俺のゲームでのキャラに転生したら色々大変そうだしな。」


不気味な仮面のローブ姿を思い浮かべる。


あの姿だと間違いなく魔王ルートだもんな、、。

いや、でもダンジョンマスターをこの世界でも目指すのなら魔王でもいいのだろうか。


俺は気を取り直して塔に向き合う。

期待に胸を膨らませ、扉を潜り抜けた。


ひんやりとした風が吹き抜ける。

薄暗く、終わりの見えない石造りの道。

等間隔に配置された松明が、怪しく揺れる。


コツコツと靴音だけが静かにこだまする。


何もかも俺が設計した通りだ。

俺が何時間も人生をかけて作り出したダンジョンそのものだった。


俺は奥へ奥へと進んでいく。


変わり映えのない石造りの壁が挑戦者の方向感覚を狂わせ、惑わす。


だが俺には関係ない。

俺はダンジョンマスターなのだから──。

迷うことなく目的の場所へと向かう。


何度目かの角を曲がった時だった。


「ゴルァァァ!!」


物陰から黒い影が飛び出す。

子供ほど背丈、ゴツゴツした肌、鋭い爪、手にはギザギザと刃こぼれした剣が握られている。


ゴブリンだ。


だが──。


「なんでだ…?

 こんな所にゴブリンは配置してないぞ。」


俺はダンジョンを作る際、ダンジョンを管理する最奥へと続く道を作った。正しい選択をすれば一度たりともモンスターに出会わず最奥へと進める。


いわば隠しルート。


俺は一度たりとも道を間違えていない。

間違えるはずがない。


なのに…


「どうしてここに…。

 ゴブリンが勝手にルートを外れたのか?」


だが、今はそんなことを考えてる場合ではない。


「ゴルァァァ!!」


鋭い雄叫びを上げゴブリンが襲いかかってくる。


どうする?どうすればいい?


ゴブリンの鋭い視線が突き刺さる。

思わず一歩後ずさると不意にカチャッ腰の方で金属音がなる。


おそるおそる音の鳴った方向を見ると、腰に剣が下げられていた。


全く気づかなかった。

あまりにも体に馴染みすぎていた。


俺は迷いなくその剣を抜く。

その音を合図にゴブリンが突進を開始する。


「うぉぉぉぉ!!」


俺は気合を込めた雄叫びを上げ、腕に力を込める。そして、剣を思いっきり振り下ろす。


ぐしゃり。


「グギャァァァ!!」


鈍い感触とともに、ゴブリンが甲高い声をあげ、どさりと倒れたよう音が鳴る。


剣を持つ手には生々しい感覚が残っている。

これが、アニメとかでよくいう手応えってやつなのだろうか。


おそるおそる、ゆっくりとゴブリンの体に視線を向ける。

地面に倒れたそれは肩から腹にかけてざっくりと裂け、血を流している。


「やった…のか?」


先ほどまでの恐怖がほのかな高揚感に塗り替えられていく。


ゴクリと生唾を飲み込む。


ようやく自覚した。

俺は転生したのだと。


ここは異世界であり、ゲームの世界だが、同時に現実なのだと──。


気を取り直して、先を進む俺。


しばらく先を進むとそこは行き止まり。

なんの変哲もないレンガ作りの壁。


おそらく攻略者のほとんどはここを行き止まりだと勘違いして引き返すことだろう。


だが、俺だけは知っている。

ここがダンジョンの最奥に行くための隠し通路。


俺はそっと右から二つ目の石を押仕込む。

そしてつぎは左から三つ目、そして──。


「よし、これで隠し通路が開くはずだ。」


最後の石を押し込むと、ゴゴゴと鈍い音を響かせ隠し扉が開く。

──なんてことはなかった。

その代わりに視界に謎の文字が浮かぶ。


『Authentication Failed

 Registered Avatar: Active

 Current Body: Unauthorized』


「なんだこれ?」


認証に失敗?

なんで扉が開かないんだ?


何かの手違いか、手順を間違えてしまったのか、もう一度同じ手順を試す。


「頼む。」


額に嫌な汗が滲む。


さっきのは何かの間違いだ。

これで扉は開く。開くはずなんだ。


そんな願いを込めて、最後の石押し込む。


だが、現実は無情だった。


『Access Denied

 Role Assigned: Challenger』


ガン!と壁を殴るがびくともしない。


「Challenger」その文字が無慈悲に告げていた。

俺はもうダンジョンマスターではないのだと。


俺は幸せの絶頂から不幸のどん底に叩き落とされたのだった。


◇◇◇


氷を溶かしたような淡い銀の髪が肩を流れ落ちる。

愁を帯びる青い宝石のような瞳。

人形のようにどこか無機質な美しさを纏う少女。


白亜の塔の最上階。

そこに囚われている姫。

名をヘルヴィア・ノクティス


だが、囚われの姫とは名ばかりで、鳥籠には鍵はかかっていないし、拘束もされていない。


それでも彼女はそこに縛られていた。


そういう“設定”だから──。


「マスター…。」


彼女の言葉は決して彼に届くことはない。

一体どれほどの月日が過ぎたのだろうか。


彼亡き後、彼女はこのダンジョンを守り続けてきた。


何度心が折れそうになったことか、もうマスターは帰ってこない。

私は、私たちは捨てられたのだ。

そう思わざるを得なかった。


でも、なんとかそんな想いを押し殺し、自らを鼓舞し続けてきた。


きっとマスターは帰ってくる。

私たちは捨てられてなどいない。


「早く帰ってきてください…。」


しんと静まり返った部屋に彼女の声が虚しく響く。


ゆらりと揺れた蝋燭の火は銅像のように椅子に腰掛けた不気味な仮面を照らしていた。

第1話読んでいただきありがとうございます!

しばらくは毎日更新予定です。

本日12時に第2話を更新します。

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