異世界転移
私は清水美咲、16歳だ。私は歌が好きでアイドルを目指して日々ボイストレーニングにダンスレッスンをしていた。今日はボイストレーニングの日で、その帰り道のことだった。突然私の前に、黒い靄が現れた。そして、その黒い靄から、骨が見えるんじゃないかというくらい痩せた手が無数にでできて私を捕まえた。
「何⁉この手⁉嫌、離して‼」
黒い靄のほうにどんどん引っぱられる。
「いや‼私まだ、アイドルになれてないのに!」
私は黒い靄に引き込まれ、気を失った。
「さぁ、聖女様をお呼びするのだ!この世界をわれわれ人間のものにするには、聖女様のお力が必要なのだからな!」
「「我らが神へ祈ろう、我らはもとめるこの世界を救う者を!今、生贄を捧げよう‼我らが神よ聖女を我らのもとへ!」」
ピカァーー
「成功したぞ‼生贄どもが消えた!我らのもとへ聖女様がやってくるはずだ‼」
「っ⁉おかしいぞ‼聖女様が見当たらないぞ!」
「なぜだ⁉儀式は成功したはずだぞ!」
「探せ!聖女様を探すんだ‼絶対に多種族の奴らにとられるな‼」
「うっ、ここは?」
目が覚めた時、私は森にいた。
「・・・そうだ、たしか痩せこけた手に引っ張られたんだった。どこだろうここ。」
私はあたりを見回したけど、ただの木と草しかなかった。
「なんでこんなところに...」
考えていてもどうにもならなそうだったので、とりあえず人がいるところを探して歩き始めた。
どれくらいたっただろうか、どれだけ歩いても人の気配すら感じられなかった。
「うぅ、ここどこ?歩き回らない方が良かったかな?」
私が焦り始めていたら、後ろからガサガサと音がした。
「なに⁉」
「グオォォーーッ」
茂みから黒い靄をまとった、オオカミが飛び出してきた。
「きゃあっ!」
美咲は腰を抜かしてしまった。どんどんとオオカミが近づいてくる。
―私こんなところで死んじゃうの?まだ、アイドルになるって夢、叶えていないのに!―
そう思ったときだった。
「すべてを貫けアイスアロー!」
その声が聞こえた瞬間、オオカミが氷に貫かれて倒れた。
「大丈夫か⁉って人間?なぜ人間がこんなところにいる‼」
人間?何をそんな当たり前のことを言っているのだ?
そう思い、後ろを振り向くとそこにいたのは、オオカミの耳をはやした男の人だった。
「なぜ人間がこんなところにいる⁉」
「えっ?オオカミの耳が生えてる?コスプレ?でも、なんか耳動いてるし...」
「何を言っているんだ?俺は獣人なんだからおかしくないだろう!それよりも俺は、お前は、なぜここにいるのかと聞いている‼」
なんでこんなに怒っているんだろ?ていうか、獣人?もしかして私、異世界転移したの?
「おい!聞いているのか⁉」
「す、すみません。えっと、どうしてここにいるのかですよね?それは私にもわからないんです。」
「わからないだと?どういうことだ?」
「えっと、私さっきまで家に帰る途中だったんですけど、急にここになったっていうか、景色が急に変わったっていうか...」
「そんなわけはないだろう!転移魔法なんて使えるやつはそうそういないし、いたとしても一度行ったことのある場所にしか行けないんだぞ‼この場所は私たち獣人しか知らないはずだ!誰も転移させることはできない‼」
「そんなこと言われても来ちゃったというか…」
「はけ!なぜここにいる?はかなければ殺すぞ!」
「・・・」
何?この人、一方的に問い詰めてくるんだけど。話聞くつもりある?ていうか、私まだ状況つかめてないんだけど。
「あのっ!ちゃんと話聞いてもらってもいいですか⁉私も急にこんなところに来て、訳が分からないんですよ!」
そう言うと、その男ははっとした顔をした。
「す、すまない。こんなところに人間がいることに驚いて、つい...」
「大丈夫です。それでですね、ここはどこですか?それに獣人というのはなんですか?」
「獣人が何かだと?知らないのか?普通は大人と子供誰でも知っているぞ。」
「だって私、この世界の人間じゃありませんから。」
そういうと男性は、顔を青ざめた。
「まさか...異世界から来たのか?」
「多分、そうだと思います。」
男は慌てて片膝をついてた。
「申し訳ありません。まさか、あなたがここに現れるとは思っていなかったので、無礼をお許しください。」
「え?きゅ、急にどうしたんですか!?やめてください!」
「説明がまだでしたね。ここは危ないですので、場所を移しましょう。こちらへ。」
「わ、わかりました。ところであなたの名前を聞いてもよろしいですか?」
「失礼しました。私は、ハルと申します。」




