第十二部 大ムカデ 第六章
「いや、でも、うちの娘をですね……」
「でも、彩ちゃんは納得しないだろ。うちの息子に性格がよく似ているし」
そう爺さんが隆史おじさんにそう話す。
それで隆史おじさんがしぶしぶと納得した。
爺さんの顔つきから、多分、この言葉が隆史おじさんに効くと思っていた殺し文句らしい。
堀を埋めた後に使ってきたのが分かる。
そういうのが分かるから、俺は爺さんを信用できないのだけど。
多分、あの隆史おじさんの顔つきから推測すると、うちの父親は隆史おじさんの親友なだけでなく、何か自分を犠牲にして隆史おじさんを守ったことがあると思われた。
なるほど、それなら、こんなやばい家と付き合いながらも俺の面倒を見てくれたりするわけだ。
「何か、父に借りでもあるんですか? 」
いつもの俺なら聞かないが、つい聞いてしまった。
多分、父も母も俺は会った事が無いから、心の奥底にそれを知りたいと言う気持ちがあるのだろう。
「あ……う……」
隆史おじさんが口ごもる。
どうやら、ストライクだったらしい。
「……ごめんね。あなたのお父さんが異界に向かったのは、うちの旦那の為だったの。旦那が異界のある御方の怒りを買ってしまって、命が危なくなった時に、そうかって言って、かわりに話し合いに行ってくれたの」
などと、真由おばさんが泣きそうに話す。
「あいつは……俺がやばい時に平気で命をかけてくれたんだ。俺の為に」
そう言って隆史おじさんが涙をこぼした。
「だから、神楽耶ちゃんには随分と迷惑をかけてしまって……」
そう隆史おじさんを抱きしめるように真由おばさんが隆史おじさんの頬を撫でて俺に頭を下げた。
二人とも泣いていた。
それで彩が困ったような顔をした。
いや、それだけじゃないよね。
多分、爺さんがその時に後ろでなんかしているわ。
そう思って爺さんを見た。
「わしは何もしとらんぞ。息子はそういう自己犠牲が出来る人間だからな」
などと爺さんが話す。
「いや、なんかやっているよね。悪いけど、俺にはそんな噓は通じないよ? 」
「私もそう思う」
などと彩にまで言われる始末。
付き合いが長いから、俺と彩には爺さんの噓は通じない。
隆史おじさんも真由おばさんも仕事でいないから、いつも、彩はうちの家にいたし。
柴吉すら、ふぅと諦めたようにため息をついた。
「ほら、本当の事を喋れ、柴吉」
などと彩が柴吉の頬を摘まんで引っ張った。
「いや、隆史の件がトドメで話し合いに行ったが、爺さんのやらかしで双方にもめ事が燻っていたのはたしかだ。神楽耶の母親と祖母がその話を言うまでは全ての話は言えないけどな。だから、トドメになったけど、爺さんもあれには関わっているから、隆史はあまり気にするな。とりあえず、向こうで幸せには暮らして居るし」
そう柴吉が隆史おじさんに話す。
それでも隆史おじさんと真由おばさんは俺を済まなさそうに見ていた。
「まあ、父さんも母さんも幸せならいいんじゃね? 」
ちょっと、その柴吉の話でほっとした。
爺さんの事だから、はめ込んで碌でも無い状況で、向こうで父さんが地獄を見ているなら、さすがに申し訳ない。
「まあ、幸せらしいから。いずれ、戻ってきてから息子と話したらいい」
などと爺さんに微笑んで言われて、ちょっと釈然としない。
多分、あんたが原因なのに。
「まあ、落ち着いたところで、聞きたいんですが……誰が大ムカデを説得に行くんです? 」
などと間宮さんが肝の話をした。
尋常の戦いと言いながら、牙と刀の強い方が勝ちとか全然、それと違うような気がする。
それと、そう言われてハツカネズミさんを見たら、爺さんを見てきょろきょろしている。
「大ムカデの説得に自信があるんと違うんかい! 」
つい叫んでしまう。
ブッカーとして有名なくせにおろおろするとか。
「律蔵さんが一緒に行ってくれるのかと思ったのに……」
「いや、因縁があるから、どこかでわしだと気が付いてもいかん……」
爺さんがきっぱり話す。
なるほど、彩に軽蔑されるかもしれないのに、自分の恥部を晒したのは、説得に行かない予防線を張るためか。
となると、やっぱり、大ムカデの説得が難しいって事だな。
爺さんでも少し手に余るって事か……。
それで俺が大きくため息をついた。
まるで、猫に鈴をつけるで騒いだ寓話のネズミの相談みたいだ。
だれが一体、大ムカデを説得するのだか……。
「え? その地下闘技場での戦いを私達は見たくて期待しているのに難しいんですか? 」
「ちょっと、それは困ったの」
などと原因になった土蜘蛛の面々がいけしゃあしゃあと言ってくる。
爺さんに似ているわぁ。




