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第十一部 土蜘蛛 第八章

 その一瞬の隙に大ムカデが地下から半身を引きずり出して、その尾を鞭のように彩に叩きつける。


 それは、その図体からしたら信じがたいレベルだ。


 速すぎる。


 普通なら、トラックだって粉砕される勢いなのに、それを薙刀で受けただけでなく押し返した。


「やはり受けきるか! 」


 そう大ムカデが大喜びしているような声を出した。


 なんでか、受け止められたのを喜んでいる。


「え? 」


 柴吉もその歓喜に満ちた大ムカデの様子に驚いていた。


「ふははははははははははは! 雑魚どもをからかいで潰していたら、とんだ大物が見つかった」


 大ムカデの歓喜が止まらない。


「雑魚だと? 」


「おのれっ! 」


 貶されたので五郎さんと六郎さんが憤怒の表情をするが、一歩も前に出ない。


 そういうとこだぞって言葉が出そうになる。


「うちは、安全第一なのよっ! だから、どんな騒ぎでも仲間が死ぬことはない! 逃げて逃げて生きる事こそ勝利だから! 」


「ふふふふ、その通り! 」


「戦いに負けることは負けじゃない。生きていることこそ勝利! 」


 大和朝廷と戦い続けながらも生き延びた土蜘蛛の矜持が出ている。


「正しいけど、やっていることがうちの爺さんそっくりだぞ? 」


 そうしたら、五郎さんと六郎さんと茉菜さんがその場でのたうち回る。


 そうか、陽菜さんものたうち回ってたし、俺ものたうち回るから、あの爺さんそっくりってどれだけ衝撃を受ける言葉なんだか……。


 ウーウーウーカンカンカンって消防車の音がする。 


「消防署に連絡した! もうすぐ来る! まだ妖の王が決まっておらぬ! 今は妖の存在を気取られてはならぬ! これは三代目の妖の王の遺言である! 」


 あの出来る間宮さんの部下が叫んだ。


 おおおお、消防車がくるなら、相手も引くだろう。


「素晴らしいな。相手に気が付かせるために、それで声をかけるとか……」


「いや、結構、燃えてますよ? 」


 などと間宮さんが俺の背後の家を指さした。


「あああっ! 」


 玄関からどんどん燃えて、屋敷に燃え移っていた。


 うちは祖父が変なのが来たらいかんからと妙に縦長の玄関になっているのだが、それだけでなく屋敷にも燃え広がっている。


「良かろう! では我が名誉にかけて、そこの娘との勝負を所望だ! 」


 大ムカデがギョロリとした目で彩を見て叫ぶ。


「いや、娘ですよ」


「子供に近いんですが……」


 俺と間宮さんが慌てて突っ込む。


「性別など関係あるかっ! 戦士だろうがっ! ならば我と戦えっ! 」


 などと大ムカデが彩に叫ぶ。


 まずいな。


 そういう言い方が大好きだから、彩はそう言われると受けちゃうだろうな。


「分かった! 戦士として場を設けられたら、貴方と戦うっ! 」


 彩がやはり言っちゃった。


 まいったな。


 仕方ない。


 後で間宮さんと相談して彩を説得して、断る方向で行こうか。


 そう間宮さんを見たら同意だったらしくて頷いた。


 とにかく、妖が人目に付くのは不味い。


 多分、騒いでいる人がいないから、祖父の結界でぎりぎり騙せているのだろう。


「流石は我らがムカデ一族の宿敵の血筋! 戦う場所はこちらから指定する! まさにこの世で会えるとは! 

我も眷属離れになって悪いことばかりではない! 楽しみぞ! 」


「え? 」


「は? 」


 大ムカデの言葉で俺と間宮さんが驚いた。


 そうだったのか。


 それで、異様な強さを……。


 すべてが納得がいった。


 彩が異常に強いのは、そう言う事だったのだ。


「え? 宿敵とは? 」


「なんじゃ、知らぬのかっ! 我らがムカデ族と宿敵と言えば、俵藤太しかあるまいがっ! 」


「ええええええええ? 私は俵藤太の血筋なの? 」


 彩が喜んでいる。


 あーあーあーあー、これじゃあ、絶対に戦いに行くよな。


 あーあーあーあーあ、俵藤太を言っちゃった。


 こんなビッグネームの血筋だったとは……道理で……。


 藤原秀郷とか……。


 まいったな。


 ムカデ退治でも有名だけど、あの怪物の平将門とも戦ってんだよな。


「ふははははははは! 今日は良き日よ! まさかの宿敵の血筋と会えるとはっ! 」


 そう大ムカデが叫ぶと土の中に戻って言った。


「ああ、駄目ですね。目が輝いてますよ」


 間宮さんが彩を見てため息をついた。


 俺も同じだ。


 まさかの俵藤太……藤原秀郷の血筋とは。


「これは絶対に戦うな……。止めるのは無理だ」


 俺が諦めたように呟いた。


 彩がああなったら、止められない。


 もう、目がキラキラである。


 どうしょうかな。


「なあ、爺さんは知ってたのかな? 」


「知ってたと思うが、わしも知らなんだ」


 俺の言葉に柴吉もぼやいた。

 

 家が燃えてんのに呑気な話だが、こっちの方がどう考えてもやばい。


 どうしょう。


「尋常の勝負になりますから、この場合、どちらかが死にますよ」


 などと出来る間宮さんの部下が呟いた。


 だが、彩は目がキラキラだし、大ムカデは嬉しそうだった。

 

 家の火事より、そちらの方が一大事だった。

 



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