第二部 ミケ 第二章
「別に妖の王の側近とか付き人みたいな妖とは、ミケは違うんだよね」
などと如月彩が聞いた。
「そうですにゃん。ただ、社を建ててくださるなら、側近でも付き人でもなりますにゃん」
ミケが必死だ。
「あのさ、柴吉。それなら、あんただけじゃん。守り役の妖って。いくら羽柴秀吉を導いたと言っても、それだけしかついていないって、妖の王にしたらおかしいんじゃないの? 」
などと彩が柴吉に聞いた。
「ああ……ええと……」
途端に柴吉の目が泳ぐ。
表情が豊かな分だけ、分かりやすい。
老犬のふりをしていたら分からなかったんだろうけど……。
「ひょっとして、妖の王の候補として他にもいるんだ」
「四人か五人ほどいるにゃん」
「ああ、馬鹿っ! 」
などと柴吉が慌てた。
「道理で……」
彩が殺気立つ。
「いや、目覚めているのは二人で、一人はすでに断ってきたんじゃ。だから、今は間違いなく妖の王として一番近いのは、神楽耶殿じゃからな……」
柴吉が必死だ。
だが、正直すぎる。
「ほら、断っている人もいるじゃない! 」
「まあ、せいぜい、妖の城の領土はこの市の1/3くらいですしにゃん」
などとミケが冷静に話す。
「ああ、なるほど、糞田舎だけど市の中心とか入って無いんだ……領土に……」
「いやいや、それはそうじゃけどな。別に問題なかろう」
「山側なんだ……」
「全国チェーンの大型スーパーも領土に入って無いんだよね。まあ撤退するけど……」
「だから、元から無かったと思えば……」
などと柴吉が話す。
ドンドン話がしょぼくなる。
そうか、昔は山側も棚田みたいになってたって話を聞いた事がある。
そっち側か。
田植え機とか機械を入れれないから、手で植えないといけないし、稲刈り機も入らないから手で刈らないといけないからって、どんどん田んぼが消えたって話を聞いた事がある。
農家は高齢の老人ばかりで引退する人も多いし。
「山側に田んぼってあったっけ? 」
「殆ど無いよね。残ってないはず」
彩が聞いてきたんで答えた。
この話、想像以上に不良物件らしい。
「いや、妖の王じゃぞ? 」
「年貢の米も殆ど無いじゃない。どうやってやってくの? 」
「妖の城の手直しは……妖でやれば良かろう」
「手直しがいるんだ? 」
「……だいぶ住んでないはずだからな……」
「詐欺じゃん。そりゃあ、辞めるはずだ」
彩がドン引きした。
「まあ、城の基礎は妖がやっているから、大丈夫にゃん。妖は減ったと言っても万はいるから、ただ彼らが集まってきても仕事や彼らを養う金は無いにゃん」
などとミケがどんどんと悪い話ばかりする。
「神楽耶に何のメリットがあんの? 」
「妖の王じゃ」
「いや、名前だけの貧乏人じゃん」
彩が柴吉の頬をまたしてもびょーんと引っ張った。
良く伸びるなぁ。
「まあ、他に候補がいるなら、俺がしなくても良いよね」
などと俺が笑った。
「いやいや、本命の一人なんじゃ。ただ、もう一人本命が居て、そちらに妖が集まっているのだが……。それがなぁ……」
「妖が集まっているなら、それでいいじゃん」
彩が柴吉の頬を引っ張りながら苦笑した。
「ちょっと、まだ覚醒してないけど、傘下に集まっているのもそうだけど、全部武闘派にゃん。多分、戦争をしそうなタイプにゃん」
「はああああ? 戦争? 」
「そういうのが妖の王の配下には多くてな。その御方は大妖でも戦うのが得意な方の血を引いておられる。だから、懸念している者が多いのだ」
「じゃあ、ますますもって駄目じゃん。多分、こっちを殺しに来るでしょ」
「ああ……まあ……」
などと柴吉が言いよどむ。
これはいけない。
「ちょっと……さては最初に断った妖の王の候補の人って殺されそうになったのでは? 」
彩が聞くと柴吉が目を反らす。
「「断ろう」」
俺と彩が同時に話す。
いくら何でも俺は戦えないし。
「いや、しかし、妖の王の御霊が話を直接としたと言う事は、お主の方が本命では無いかと思うのだが……」
「本命でも殺されたら駄目では? 」
「あう……」
柴吉が正直すぎる。
いくら何でも、表情と行動で心が漏れ漏れしていた。
「あんた、戦えるの? オオカミの神様としても祭られたほどの妖なんでしょ? 」
「いやぁ、歳を食ったからなぁ」
「じゃあ駄目じゃん」
「ふふふふふふふ、そこで私ですにゃん。腐っても主の仇を討ったと言われて、江戸時代にはその先の寺の近くの社に悪しき者に復讐する御霊に近い存在として祭られてた、この私がいるですにゃん」
などとその話を聞いてミケが自慢げに話す。
「いや、聞いたことないけど……」
「なんですとぉぉぉぉ! 」
ミケが叫んだ。
妖の城も知らないのに、そんな話を知るわけ無いし。




