第十一部 土蜘蛛 第四章
「ほう、あれが噂の覇王如月か……」
などと姫が呟く。
本気で有名なんだな。
少なくとも、姫は黒服だが顔を見た事が無いので、ここの市の出身ではないようだ。
そこまで噂が拡がるとは。
「遅くなってごめん……」
などと薙刀を持って、現れるボーイッシュ美少女……美少年に見えるが、デートの待ち合わせみたいなセリフを本当の薙刀を持って言われても困ると言えば困る。
どうにも、微妙に俺を含めて世界観がおかしい。
「なんか、二人ともお似合いですよ? 」
「いやいや、こんなに神楽耶様が美少女なら、もうしょうがないんじゃないですか? 美少女には美少年ですよ」
などと御付きの黒服が微妙に不安になる話を始めた。
爺さん、どういう話になっているのかな?
「美少年? 」
彩が複雑そうな顔で睨む。
そういう格好をしているのだから、ある意味覚悟をしているのかと思った。
そう考えると、ずっと子供の時から女装している俺も人の事を言えないなと。
最近、やっと、これっておかしい? って高校生にになって思うくらいだし。
「いや、律蔵さんからは将来の姫様のお婿さん候補でも良いと言う話もあったのですよ」
「でも、こんな美少女にお婿さんは無いですよね」
などと御付きの黒服さんがぶちまける。
どういう事だよ、あのジジイ!
彩の顔がキレ気味に変わった。
「ちょっと、私と方向性が違うよね」
などと悔しいのか悲しいのか姫が俺を悔しそうに見た。
何が何だか、分からない展開だ。
そうしたら、ひらひらと黒い紙が俺の背中から離れた。
「は? 」
黒法師だ。
爺さん盗聴してやがったのか?
俺がそっちを見ると、爺さんと婆さんが駐車場の爺さんの軽自動車に走って移動していた。
「ちょっと、出てくるからなぁぁ! 」
そう叫びながら、うちの軽自動車に爺さん達が乗り込んだ。
「ちょっと待てぇぇぇ! ジジイっ! 」
彩が叫ぶのと、黒法師が隙間から発進する軽自動車に乗り込むのと同時だった。
まるで脱兎の如く逃げたしたようだ。
「あの、ジジイッ! 」
珍しく彩が激高していた。
そうしたら、困った顔でのそのそと柴吉がこちらにやってくる。
「どうした? 」
「なんか、やばい話があったんだろう。いきなり、爺さんと婆さんが出かけて行った。急用だそうな」
柴吉が大きなため息をついた。
「あのジジイ! 自分の孫を人身御供にっ! 」
彩が柴吉にブチ切れる。
「あーあーあ、そういう話もしてたんだな。ああいう所が本当に……」
柴吉がうんざりしたように呟いた。
「人身御供は無くない? そりゃ、そんな美少女を前にしたら、私じゃ不服かもしれんけどさぁ」
などと姫さんが愚痴る。
いや、そう言う話じゃないんだけどさ。
「土蜘蛛の一統は日本中にいるからな。そういう意味で爺さんは目はつけてたんだろう」
などと柴吉があきれ顔だ。
まあ、柴吉もずーーーっと爺さんに巻き込まれて、ろくでもない事になっていたのは間違いないから、そういう意味では俺と同じ被害者なのだろうけど。
「で、お名前は? 真名を知られたくないなら構いませんが……」
そこでふと思って、姫さんの名前を聞いた。
「ああ、佐伯茉菜だ」
「佐伯六郎」
「佐伯五郎」
聞いてないのに、護衛の方まで名前を名乗る。
全部佐伯家なんだ。
名前も真名と同じ茉菜とか。
「私は竹内神楽耶で彼女が如月彩です」
それで自分も名乗った。
礼儀だからだ。
「わしが柴吉だ。まあ、神と呼ばれたニホンオオカミの真口大神の種族で……」
「いや、有名だから知っている」
そう自己紹介の途中で、柴吉が茉菜さんに遮られてしまう。
「昔はビッグネームだったのに、今はあの爺さんのせいで随分悲惨な扱いになっちゃったので有名ですからね」
「知らぬものがいない大妖だったのに……」
五郎さんと六郎さんがそう話すんで、柴吉が凄く落ち込んでいる。
俺も爺さんに酷い目に会っているのは変わらないので切ない。
「うちは弘法大師空海と同族じゃ」
などと茉菜さんが宣う。
「へえ? 」
などと彩が驚いてた。
「まあ、代々受け継がれた話なら本当なんだろう。実際、空海の佐伯家は良く分からない地方の佐伯家だから。まあ、俺は関係から言うと秦氏の方かなとか思ってたけど」
などと俺が話す。
「ほほう、良く知っているな」
「大体、まわりにいるのが秦氏と関係ある兄弟弟子だったりしてたし、それと八幡神とあまりにも関係が深すぎるから……」
などと俺が話す。
八幡神もいろいろと諸説あるが、一説の沢山の秦と呼ぶのが正しいのではと勝手に思っている。
空海の四国八十八か所も、実はかなりの寺が最初八幡神を中心に置いていたそうだし。
空海の氏神だと言う伝承もある。
八幡神と空海が互いに絵を書いて交換したって話は両者の関係を良く表している。
秦王国が九州にあったらしいし、多分、それは宇佐八幡宮がある大分だと俺は思っている。
「良く、ご存じで」
などと五郎さんと六郎さんが笑った。




