第二部 ミケ 第一章
如月彩が騙されていると騒ぐので間宮柊さんと鷹司紗和さんとの話は切り上げになった。
「まあ、お二人とも、神楽耶様は妖の王と目覚められたばかりですし、すぐにはご理解いただけないと思うので、ゆっくりとこれからお話しをつづけていくつもりです」
「目覚められたことが大事ですからね。もともと100年近く待ったのです。ここで待つ事くらい問題ないですから。第二次世界大戦後しばらくで先代は亡くなられたのですし。最後の20年くらいは寝たきりで、あまり力を発揮になれなかった。あの御方がお元気でしたら、また敗戦も変わったのでしょうが……」
などと鷹司紗和さんと間宮柊さんが話す。
鷹司紗和さんも間宮柊さんも終始笑顔だったので、揉めてはいないと思うのだが……。
彩はぶすっとした顔をしていた。
「まあ、初日だしな。1年経とうが2年経とうが諦めたりはしないだろ。100年近く待った妖の王だしな。それだけ妖の血を引くものにとっては悲願だったと言う事だ」
「偉そうに」
柴吉がちょっと偉そうに話すので、またしても頬を彩にびょーんと拡げられていた。
「それにしても、大丈夫かい。俺のせいで怪我してしまって……」
「ああ、血は止まってるし大丈夫でしょ。昔から怪我とかの治りは早かったし……」
そう彩が笑った。
だが、微妙に妖の話を聞いた後なので心配になる。
俺の顔つきで彩が察したようだ。
「ああ、無いと思うよ。聞いたことないもの」
「いや、俺もこんな話は今日聞いたんだけど……」
「ええと……」
それで彩が不安になる。
確かに怪我をしてもすぐ治るのは俺も見てきた。
そして、まさかの実戦空手の全国大会で優勝である。
覇王如月の異名もあるし、俺に護衛がいないと言うのもおかしい。
となると、どう考えても怪しいのは確かだ。
「まさか、私も妖なん? 」
「可能性はあるかもしれんが、あまり妖の情報は仲間同士で共有はされてないからな。結構、妖の世界もそういうのは隠している事が多いから」
「いや、俺の面倒見役だからいろいろと知っているのでは? 」
「どちらかと言うとわしは乳母とかじいの役だからの。多分、本当にそれを把握して管理しておられるのは、お主の母様と母方の祖母様だと思う」
「大妖の? 」
「へえ、日本の国で屈指の大妖とか言ってたよね。誰なの? 」
「いやぁ、それは言っちゃいけないんだわ」
「なんで? 」
「ご本人達がお主が妖の王としてなった時に会いに来てすべてを話すと仰せだからな。それを言っちゃったら、わしが殺される」
柴吉がちょっと震える。
そんな怖い妖怪っていたっけ?
「ぬらりひょん? 」
「なんでやねん! そんな、どこぞと被るような話では無いわ! 」
柴吉が彩に怒る。
「じゃあ、誰? 」
「だから、言えないってば! 」
彩はぐいぐい来る方なんで、当分、しつこく聞くんじゃないかなと、真面目に思った。
「おお。目覚めたって? 」
などと庭から声がかかる。
そこに三毛猫がいた。
柴吉の話が本当なら、それは妖の化け猫のはず。
と言っても普通に喋っている時点でそうなんだと思う。
「おお! とうとう目覚められたぞ? 」
などと柴吉が嬉しそうに話す。
「そうか、そうか、やっとじゃな? 」
三毛猫が嬉しそうに笑った。
これまた表情が豊かである。
「この方も見守り役の方なの? 」
などと俺が柴吉に聞いた。
「違う違う。目覚めたら妖の王にお願いがあるって言って、うろうろしているだけの奴だ」
「はああああああ? 」
「社に祭られてたんじゃないの? 」
「それにゃん! それですにゃん! 」
俺と彩が突っ込んだら、さっきまでおっさんの声だったのが急に可愛い感じの声に変わる。
それで俺達も唖然と見ていた。
「妖の王の権力で、わしの社を立てて欲しいにゃん。もう一度神様として祭って欲しいにゃん」
などと必死だ。
猫があの手でゴマすりをするのをはじめてみた。
しかも、こういうのに慣れているのか、異様に可愛く見える。
何、これ?
「相変わらずじゃのぉぉ。もうええ歳だろうに」
柴吉が突っ込んだ。
「馬鹿者めが柴犬だって我儘な可愛さが良いのだにゃん! わしはこの可愛いにゃんで今度こそ神として祭られ続けるのだにゃん! 今度こそ復活にゃん! 」
必死になって胡麻をする速度を上げて早口で三毛猫の化け猫が騒ぐ。
「名前はなんていうの? 」
「ミケ」
「まんまやん! 」
「まんまで良いんですにゃん! それが愛着を産むのですにゃん! 」
などと彩の突っ込みにさらに可愛いポーズであざとかった。
ひょっとして、妖ってこんなのしかいないとか。
ちょっと、ドン引き。




