第九部 柴垣家 第七章
「本当か? 」
「らしいわっ! 」
「はあ? 」
などと<赤錆>と彩が意味不明なやり取りをしている。
記憶がないからしょうがないんだけど。
「いや、お前、噓はいかんだろ」
「しょうがないじゃん。記憶が無いんだもの」
などと彩が堂々と話す。
いるだけで<赤錆>の凄い威圧感だ。
それを見て、柴垣家の派閥の妖達が震えている。
多分、俺も覚醒してなかったら震えていると思う。
これが鬼の威容と言うべきか。
「呑気だにゃ」
「いろいろあって慣れてきちゃった」
ミケが突っ込んできたので彩が答えた。
俺は特に気負うわけでも無く、ただその様子を見ていた。
話が悪い方に行くだろうなと思いつつ。
「記憶がない? まさか、天狗の神宝か? 」
ほら、悪い方に行った。
急にあたりの空気が悪くなる。
「いやいや、使ってませんよ」
間宮さんが首を慌てて振った。
「彩も途中まで抑え込んでたんだけど、<凶>と一緒に頭を打ったんで記憶が飛んでんです」
仕方ないので俺がそう説明した。
「頭を打ったくらいであんな風に<凶>がなるか? まるでぼろ雑巾だぞ? 」
「不幸な事故です」
俺が言い切る。
俺も記憶がないから、そう言うしかない。
「お前は一体、何の妖だ? それも分からん」
そう俺に突然に<赤錆>が聞いた。
「え? 」
それで俺が訝しむ。
「ん? 」
陽菜さんも少し首を傾げた。
こないだの強烈な体験はあったが、ちょっと<赤錆>の性格の感じが前と違うように見える。
いちいち俺の正体を聞いてくるようなタイプでは無かったはずだ。
「ん? 別にそう言うのは戦ったら分かるんだから、気にしないんじゃないの? そんな感じだったよね。特に貴方は鬼の中の鬼みたいな性格をしているんだから」
などと彩まで言い出した。
竹を割った性格同士だから、ちょっとおかしいと思ったみたいだ。
「わかるか? 」
突然、かぐや姫の囁きから俺が輝きだす。
その瞬間に、<赤錆>から何かが弾かれた。
黒いペラペラの紙に見える。
「なんだこれ? 」
その黒いぺらぺらの紙は坊主のような姿で描かれていた。
まるで、式神みたいだ。
「うお、まずい! まずい! 」
そうその紙が何か言うと、風に舞って部屋の扉の隙間から出ていく。
「ちょっと、待てやっ! 」
即座に陽菜さんが動いて捕まえようと躍起になって追いかけた。
「珍しい奴ですね。影法師とは……」
間宮さんが他人事みたいに呟いている。
「いや、そんな呑気な」
香織がそれで間宮さんに突っ込んでいた。
陽菜さんは部屋の襖を吹っ飛ばして追っていった。
「あ、あれ? 」
<赤錆>さんがそれで目が覚めたみたいになっていた。
「ええ? 精神コントロールってあんなのなの? 」
俺が驚いて、かぐや姫様に聞いた。
「あれは<赤錆>に言わせたお前の答えを聞くためについてきた奴みたいだな。精神コントロールとは別じゃ」
などと、いつの間にか<婆娑羅>様までいた。
それで、柴垣家の派閥の妖達が一斉に平伏した。
「え? 精神コントロールではないので? 」
「それもかぐや姫様が弾いた。ほんのわずかに気持ちを弄ったらしい。あれでは誰がやったかまでは特定できない。ほんの僅かの残り香しか残ってない」
「逆に、それほどの術者って少ないのでは? 」
「お前の爺さんができる」
「ええええ、そんな程度であれなの? 」
「いや、お前の爺さん、話術が達者だから、そっちばかり目立つけど……あれはあれで相当な術者だぞ? 」
「性格が悪いから、あまり評価されんがな」
何気に爺さんの評価がかぐや姫様も<婆娑羅>様も酷い。
誉めてんだか、貶しているんだが。
「なんで、見張りが? 」
「ほんの僅かな心の揺らぎを利用しているだけなので、精神コントロールと言えども言わせた後の話は聞けまい。やはり、神楽耶に何がついているのかは鬼達も気になっておるので、それを増幅したのだろう。だから、それをお前が喋った時に聞く奴がいる。ばれないように完全な精神コントロールにはしていないから」
「そういう事だ。やはり相当な奴だな」
などとかぐや姫様と<婆娑羅>様が真剣に話していた。
「こ、これは、<婆娑羅>様。私は操られていたので? 」
などと<赤錆>が慌てて平伏した。
あの<赤錆>さんが青くなっていた。
「わあああ、赤鬼さんでも青くなるんだ」
などと彩が横で言うのでドン引きした。




