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第一部 柴吉 第四章

「で、ところで誰なの? その人は? 」


 如月彩が柴吉に突っ込む。


「ああ、間宮柊(まみやしゅう)殿と鷹司紗和(たかつかささわ)殿の話か? 」


「いや違う。あんたが昔に育てたとかいう人の話」


「ええええ? あまり言いたくないのだがな……」


「誰? 」


「うううむ。内緒と言う事にしてくれ。わしはちょっと育て方間違えたと思ったからの。途中でやばい雰囲気はあったんじゃ。戦争の仕方もリスクを減らしたやり方じゃが、結構えげつないやり方だったしの。柴吉の名前も守り役として力を貸すために譲ったのだが、そこまで力を入れて育ててもああなってしまうとは……」


 などと柴吉が酷く後悔したような顔をした。


 そんな表情は今まで見た事が無かったから余計に驚いた。


 今まで、ずっととぼけた老犬の真似をしていたらしい。


 しかも、戦争と言う事はその話は少なくとも100年以上前の話だと思われた。


「戦争って第二次世界大戦? 」


「いいや、もっと昔じゃ」


「あんたいくつなの? 」


「んんん、1000年は生きていると思うが? 」


「1000年? 」


「嘘でしょ? 」


 俺と彩が同時に叫ぶ。


 いくらなんでも古すぎる。


 でも、ニホンオオカミが本当の姿なら、最後のニホンオオカミは1905年に捕獲されているから、それだけでも100年以上前なのは間違いないのだが。


「いや、悪いけど眉唾なんだけど」


「まあ、妖と言うものはそんな風に認識されさえすれば長生きするのも多いと言う事だな。わしは幸いに柴犬と言う姿に移行できた。まだニホンオオカミの記憶があるうちに移行できたので良かったと言う事か。柴犬は縄文時代からの犬種じゃしな」


 などと柴吉が苦笑した。


 本当に表情が豊かだ。


 こんな風に柴吉のいろんな表情を見たのは初めてだ。


「で、誰なの? 」


「は? 」


「あんたの育てるのが失敗した人って……」


「育てたと言うても本人の才能が凄かったんじゃが……途中でもう良かろうと離れたのじゃが……その後に増長したのかどうなのか知らんが、とうとう伏見稲荷様にまで喧嘩を売るしな。母親の事で詫びてそやつは和解はしたものの、わしもそれでいろいろと凄く迷惑を受けてな……それはそれはエライことになってしまったのじゃ。だから、今回はお主の面倒を見て欲しい言われて何度も断ったのだが、あれほどの人物を育てたのだからと言われての。しばらく絶えていた妖の王をお迎えするにあたって貴公には何としても妖の王たるものを育ててほしいと何度も頼まれてな。妖の皆はお主を待ち続けていたから、お主には凄い妖の王になって欲しいので少々の問題は起きても構わんとか言われたので仕方あるまい」


 などと柴吉が言い訳の様に延々と続けた。


「……ひょっとして……その人……甥を殺してない? その家族も一緒に……」


 などと俺が聞いた。


 どうも、伏見稲荷に喧嘩を売った人物って、その人しか思い出せない。


「なんじゃ、分かったのか。わしも言いたくなかったんじゃがの」


「柴吉の名前が関係していて、いろんな話からすると、その人しかいないんだけど……えええ? 」


「だ、誰よ? 」


「豊臣秀吉」


「は? 」


 彩が固まる。


「多分、羽柴秀吉の時に分かれたんだと思う。柴吉の名前は与えたという話だから。でも、それだとすると本人がいろんな失敗した事をする前だから、上昇局面だけ付き合った感じだよね」


「もともとは三面大黒天様とのご縁もあって助けたんだがの。まさか、あんなに殺しまくって日ノ本以外の国にも攻め入るとは思わなかった」


 などと柴吉がしょんぼりと話す。


「でも、あの明征伐はそもそも信長の計画で本人もそれを実行している意識があったから、必ずしも本人だけの強行とは思えないけど……」


「あんなに化けると思わなかったからな。底辺から駆け上がったから、余計にそういう事をしなければならなかったのかもしれんが……」


 柴吉がちょっと同情的に話した。


 いろいろと情もあると言う事らしい。


 どちらにしろ、そもそも戦争で成り立ってた妖の世界と言う事なのだろうか? 


 そうだとするとちょっと俺には荷が重いなぁ。


「まあ、今の世界なら、そういう戦は無いと思いたいのだがな。ただ、元々、うちの配下の妖どもは、そういう戦争が得意でここまでになったからな。その辺りが心配ではある。もっとも、人間との混血も進み我のような妖の純血は減っておるし。かってのような陰から暗殺とか言うのも今は無いとは思うのだが……」


 ちょっと俺がいろいろと心配そうな顔をしたのを察して柴吉が気を遣ってくれた。


「そうだとしても、妖の王に妖がたった一体の柴吉だけが守っていると言うのは、ちょっとおかしいよね。だから、胡散臭いのだけど……」


「いや、今はうちにおらんけど、たまに遊びに来てた三毛猫がいただろう? 」


「ああ、そう言えば……」


「前はご飯貰いに来てたよね」


「あれが化け猫だ」


「ミケが? 」


 彩が驚いた。


 俺も驚いていた。


 化け猫に見えない。


「元は飼い主の仇を討った化け猫として江戸時代にはあそこの寺の近くに社もあったんじゃがな」


 などと柴吉が寺のある場所の方向を見ながら信じられない話をした。


「柴吉、間宮さんと鷹司さんがいらっしゃったわよ」


 そう祖父と逃げていた祖母の竹内柚が声をかけてきた。


「え? さっきの話の人? そっちも本当にいたんだ。そんな人達……」


 彩がびっくりしていた。


 そして、それは俺も同じだった。


 本当に妖の王などと言う存在があるのか疑問だったし。


 これからどうなるのか正直、思いっきり不安だった。




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