第九部 柴垣家 第三章
「いや、本当に爺ちゃん。それは失礼だから」
市長の柴垣大輔さんがそう必死に止める。
「いや、今しか言えない。雲の上の御方になられたら易々と近づけない御方になられるのだから」
龍二さんがそう何度も言った。
「いや、いろいろと教えください」
「むう、まさに息子さんと同じだな。彼も立派だった。わしは止めたのだ。律蔵の為に異界に行く必要は無いと」
「あれ? さっきも言ったけどハッピーエンドじゃなかった? 」
「結果論じゃもの。それで、結果として今度は孫が……」
などと話すと龍二さんはうるうると涙を流した。
あれ?
酒臭くないけど、これひょっとして、酔ってなさる?
などと思った。
「あーあー、もうお爺さん、また、お酒飲んだでしょ」
そう、誠が言ってくれた。
やっぱり、酔ってんだ。
そんな感じだもんな。
たまに、異常に酒が強い人は飲んでも酒の匂いがしなかったりするから。
「確かに酔ってなさるな」
鼻が利く柴吉は淡々とつぶやいた。
「いやいや、申し訳ない」
などと市長の柴垣大輔さんが頭を下げた。
「息子さんは本当に良い方だったのに、あんな糞親父のせいで……」
「悪いんだが、名前とか経緯とかは神楽耶の母方の祖母と母が妖の王になられたら会いに来られて、それで説明するはずになっているのでな。下手にここで話すとわしら皆殺しになるぞ? 」
冗談だと思ったのだが、柴吉が剣呑な顔で話す。
そうすると、柴垣大輔さんと柴垣龍二さんがぞっとした顔になった。
それなのに、誠は変わらない。
どうやら、俺の母とかを柴垣大輔さんと柴垣龍二さんはいろいろと知っているようだ。
「とにかく、酒を醒ましてきて来てくれ」
そう柴吉が本来の北欧のフェンリルみたいな大きさになって、龍二さんの襟を咥えて奥に連れて行った。
「うわ! 大きいっ! 柴犬じゃないの? 」
「神ともされた大口真神と呼ばれた狼の妖だからな。ある意味では最強クラスの力を持つ」
香織が驚いているので、陽菜さんが説明した。
「最強クラスなの? 」
「全然見えないよね」
俺の突っ込みで彩も怒るのやめて唖然として同意した。
確かに、全然そうは見えないな、いつもの姿だと。
「そりゃ、もう高齢だし。全盛期は凄かったらしいがな」
「豊臣秀吉の時代? 」
「そのもう少し前の室町時代あたりが全盛期らしい」
「へえええ? 」
陽菜さんは陸上自衛隊情報保全隊の妖特科の幹部なだけあって、いろいろと知ってた。
「羽柴秀吉を育てた時は、もう結構年だったらしいからな」
「羽柴秀吉を育てた? 」
「えええええ? 」
柴垣誠と香織が驚いている。
「結構、凄いらしいのよ。全然見えないけど」
などと彩が苦笑した。
どうやら、多少は落ち着いたらしい。
俺も悪いけど柴吉は凄くは見えないや。
「あの御方はお目付け役でもあるからな」
「それ、俺じゃないですよね。本当は……」
そう俺が話すと柴垣大輔さんがコクリと頷いた。
やはりな。
俺と言うよりは律蔵爺さんの見張りなんだと、ここ数日で痛感した。
それなのに、呪術でいろいろと絡めとられちゃって、ああなったんだろう。
「タチが悪いや。本当に」
俺が呻く。
「まあ、しょうがないよね。協力しつつも、うちの妖特科もいろいろと迷惑をかけられているから。あの爺さん。敵にすると厄介な爺さんだよ。本当に。一線超えるのに躊躇しないからね」
「いや、貴方も結構、そうですよね」
などと柴垣大輔さんが苦笑した。
まあ、陽菜さんも同系統なんだろうなとは思う。
「で、本当にごちそうもあるのに、伝統芸やるんですか? 」
誠が今更ながら陽菜さんに聞いた。
「いや、彩ちゃんも神楽耶君のすりすりをかけて戦うんでしょ? 」
「せっかく、ご馳走をご用意したのに」
「え? ご馳走の方が良いんだけど」
彩が手のひらを返した。
実はこないだ派閥を断って逃げた件で爺さんと話をしたらしくて、用意されたご馳走が政治家一家なだけあって、特別な料理人が作る本当のご馳走だったと聞いて、すごくショックを受けていたのだ。
俺としてはそうだとしても関わりたくなかったのだが、やはり格闘家と言えどスポーツマンなだけあって、彩は意外と大食いだが、美味しいものに目が無いのだ。
特殊なせいか、食事の栄養とか気にしないでいっぱい食べても太らないし、そこそこ程度の痩せた、まあまあ筋肉質な体は変わらない。
それなのに俺をお姫様抱っこしながら校舎の二階の窓から飛び降りても平気だったから、まあ特別なんだと思う。
総合格闘技を教えてくれる人が、彩がタンパク質の計算とか栄養学とか一切やらないでも、痩せたままで身体能力とちゃんとした筋肉だから卑怯とか言ったらしいから。
今日まで二回投稿です
今後は土日だけ出来そうなら二回投稿します




