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第一部 柴吉 第三章

「ふうむ。まだ本調子でなさそうだが。そうかそうか、とうとう目覚めたか」


 などと柴吉が喜んでいるが、それが幼馴染の如月彩にはとても偉そうに見えたらしい。


「どういう事かな? 」


 などと彩が柴吉の頬をつまんで左右に引っ張った。


 柴吉は頬がぴょーんと伸びるんで、子供の時に良く彩が柴吉を注意するときにやってた仕草である。


 今回は本気で引っ張っているので本当に伸び伸びと頬が伸びていた。


「いやいや、言った通りなのだが……」


「何が目覚めたって? 起きただけじゃない? 」


「いやいや、お前達も妖の城の伝承は知っているだろう? 」


「「知らない」」


 俺と彩が同時に淡々と柴吉に答えた。


「いや、知らないって事は無いだろう? 」


「「知らない」」


「えええええええええええええええええ? 」


 左右の頬を引っ張られたまま柴吉が困惑していた。


「この地の伝承で天武天皇の時代から、ここには褒美として妖達が賜った妖の城があるのだ。そして、それは妖の王たるものの血筋の者がずーっと継ぐようになっていたのだが、残念ながら先代が亡くなられてから血筋の者が居なくてな。直系が居なくなった場合は、血筋たるものの傍系が継ぐように決められているのだが、今はなかなか妖の王たるべき血を持つものは現れん。それで、たまたま、おぬしの父が妖の本来住む異界に引き込まれた事で、我らの血筋たる大妖の血を受け継いだ御方にお前が産まれた。妖の王は男でなければ駄目なので、長い間お前を我らは待ち続けていたのだよ」


「女の格好しているのに? 」


「仕方あるまい、異界に住むとお前の親父殿が言うので、どうしても、こちらの世界で面倒を見るのは祖父母になる。随分と折衝したのだが、お前の祖父は言う事を聞かず、<かぐや姫>として育てて良いならと言い続ける。まあ、正直、長男を女装して病魔に命を取られないようにする風習はあるから、そういう形にすればと思ったのだが……それが、ずっと続いてしまったのだ……」


「あの爺……」


 震えるような怒りの声が隣の布団から聞こえる。


 彩がブチ切れていた。


 あーあーあーあー。


「あれ? 異界にいるの? 父母は? 」


「うむ、神隠しにあってあちらの世界で、大妖の娘である母上殿と結婚できたのでな。いろいろと決まりがあって、父君も母君もこちらの世界に戻れず異界に残ったのだ。それで御子を妖の王とする為に、こちらの世界で世話する事になった。だから、我らもその御子が我らの王となるのだし、祖父母殿も自分の息子とは簡単には会えぬので、寂しいのだから言う事を聞いてやれと言う意見が通って、こうなった」


 何がこうなったのか分かんないが、柴吉が肩を竦める。


 普段の柴吉なら柴犬なので出来るはずが無い仕草である。


「いや、あんたらもいい加減神楽耶の女装は止めろと律蔵に言ってやれよ」


 キレた様に彩が叫ぶ。


「というか、誰も女装を止めさせようとしなかっただろ? 流石は恐るべき大妖の血筋から産まれた御子だけはある。本当の魂のお前が怒るように、お前がそれを認めている部分もあるからなのだ。だから、誰も止めれなかった。お前の意志を世界は尊重するからな。まあ結果として妖艶たる美少女に育ってしまったと言うわけだ」


「は? この格好って? 神楽耶が? 」


「いやいや、今更、男の格好にって言われても違和感があって、それはしにくいと言うか……」


「そういうとこじゃろうな。誰しもいつもと変わったことをするのは抵抗があるからな」


「ええ? 」


 不満そうに彩が布団に寝たまま口を尖らした。


「あまり、平気でいつもと違う事が出来るのも本当は怖いんじゃがの。わしが昔々に育ててた奴も凄いことになってな。義父と折り合いが悪くて家を飛び出して、近隣の大名家に仕えたが、優秀ゆえに嫌がらせを受けて、家中が収まらないのでと当主から辞めさせられてしまった。そうやって失意の如く生きてた時にわしの居た社に泣きながら祈願に来たのでかわいそうに思っていろいろと手伝ってやったのじゃが、そうしたら凄い世の中を変えだしてな……」


 などと柴吉が辛そうな顔で話す。


 いや、こんなに表情が豊かな犬だと思わなかった。


 いつもとぼけて居るだけだったし、老犬だと思ってたから、しょうがないと思っていたのだが……。


 まるで人間のようにころころと表情が変わる。


「だから、彩殿よ。やはり少しずつ変わっていくのが良いと思うぞ」


 などと柴吉が疲れた顔をしている。


 何か相当な苦労があったような顔だ。


「世の中を変えてって何よ? 」


 彩が聞いた。


「いや、妖の王として後を継げばおぬしもまたこの世界を変えていくのだ。古くは天武天皇を帝位につけたのも我らだし、鎌倉幕府で北条氏が繫栄したのも我らだし、足利尊氏の奇跡の勝ちも我らの働きだ。つまり、妖の王たる力だと言っていい。これから妖の王として目覚めていく事で妖の城が手に入り、おぬしの為の幾万の妖が集結してくるはずだ。まずは挨拶として公安の間宮柊(まみやしゅう)殿と宮内庁の鷹司紗和(たかつかささわ)殿が現れるはず」


「いや、誰? それ? 」


「心配するな。人間と妖のハーフで日本の政府の妖対応役として存在しておるが、元々はおぬしの家臣じゃから」


 などと柴吉が説明した。


 どんどん信じられない話が続いて途方に暮れる。


 どんな存在なんだ? 


 妖の王って……。



 


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