第八部 渡辺陽菜 第五章
「糞っ! 糞っ! 」
如月彩の舌打ちが止まらない。
負けたのが余程悔しかったらしい。
「凄いね。香織から強いって聞いてたけど、想像以上だった。この年齢でこれなら、日本全土で見ても最強クラスだよね」
「ふざけんなっ! 年齢なんて関係ないっ! 」
「落ち着け。落ち着け。柔術だから、しゃーない。一応、お前は実戦空手の大会で中学の部で日本一だし」
「そうじゃぞ。こんな方と戦える方が異常な話なんだから」
彩が泣いているので、俺と柴吉が慰めた。
相手に対して、年上だから、相手の得意な分野だからと諦めないから、多分、まだまだ強くなるんだろうな、彩は……としみじみ思う。
これが如月彩が異常な強さに育った理由でもある。
まあ、常在戦場の師匠の影響を受けているのは間違いないが。
それと、多分、渡辺綱の血筋みたいな人として異能の同じ系統の人間か妖か。
「君が神楽耶君かな?……え? 嘘っ……資料で見たより凄い美少女じゃない。お肌は16歳のせいかすべすべだしっ! 何これ! いやだっ! こんな美少女だと思わなかった」
などとそこから延々と衝撃を受けたらしくて、噓ぉとかなんでぇとか続く。
まだ、自己紹介すら受けていないのに。
「あの、男なんですが? 」
「バンドとかでボーカルやったら人気が出そう! 」
興奮しすぎで話になってない。
なんじゃ、この人。
そう言えば渡辺香織もノリノリのタイプだったな。
「あんたの名前はっ? 私は如月彩っ! もっと柔術を練習して必ず再選で勝つ! 」
「ええええ? こちらの方が漢なような気がする。私は渡辺陽菜。渡辺三姉妹の一番上だよ」
などと俺と彩に失礼なことを言う。
どうせ、俺は見た目も中身も女の子ですよぉ。
「私は女の子だっ! 」
彩がムッとして叫んだ。
「俺は男ですが」
「知っているよ。香織から聞いているからね。何しろ、小学生の時から香織は潜入を命じられたからね。友達の話と監視対象の話でよく聞いてたから。凄い美少女って聞いてたけど、想像を絶しているわ。こんなの詐欺でしょ」
などと陽菜さんが苦笑した。
「やっぱり、小学生の時点で俺は警戒されてたんですか? 」
俺がそれで聞いた。
まさか、そんな昔から警戒されているとか。
やっぱり、そうなんだ。
「御前って知っている? 」
「ええ、さっき爺さんに言われて知りました」
「凄い危険人物でね。公安の方でもずーっとマークされていたんだけど、公安は妖寄りだから、それで政府の方が私達にも監視させてたの」
「なんで? 一条覚ならわかるんですが……」
「今はそうかもね。それであなたのお爺さんは御前の最側近だったのよ。つまり竹内律蔵さんね」
「はああああああああ? 」
「というか、側近だった人は全員変死でね。生き残ったのが早い段階で決別した律蔵さんしかいないの。実はそれで我々の方も律蔵さんと接触していて、逆に律蔵さんの方から彼の目的を阻止したいっていうから、協力体制にあったのよ、実は自衛隊と」
「ええええ? 妖に対する裏切りにゃん」
ミケがそれで憤る。
いや、お前、手下なんだから、薄々気が付いていただろうに。
「爺さんが何をしようとしていたか、ご存じなのですか? 」
「いや、孫ならわかると思うけど、彼は秘密主義でしょ。詳しくは教えてくれないの。ただ、この国の国家の根幹に関わる事を御前がしようとしていると。後は御前が死んでいない可能性があるという事かな? 」
「一条覚ですね」
「え? そうなの? 」
「駄目じゃ! 話したらっ! 」
柴吉が叫ぶ。
「制止も何もされてないし」
「爺さんが言わないなら、あちこちで言ったら駄目だ」
「俺らには教えてくれたぞ? 」
「やっぱり不死なのかな? 身体を渡り歩いていると言うか。そんな感じでは無いかと言う話もあったんだけど……」
「はっきりは分かんないみたいですけどね」
「まあ、分かるわけないと思うわ。御前の生家の旧華族の分家の一つを継いだのだけど、名門の一条家の分家なんだけど、その分家だけは秘密主義だったしね。所詮、人間の私達に分かる範囲は少ないから」
「ああ、なるほど」
まあ、妖でも分かんないんだから、それはそうだろう。
「で、その対抗する為の秘策が君だったんだけどね。律蔵さん曰く」
「ほああぁぁああぁぁぁあああああああああああああああああああ? 」
思わず、変な声が出る。
何が俺は妖の奇跡のカップルでたまたま産まれただ。
明らかに手を加えているやんけ。
柴吉の説明と違う。
本気で糞だな。
それで柴吉をじろりと見ると、またしても目を泳がせた。
もう、信じるのをやめよう。
自分で自分の謎に迫るしかない。
「で……だけど……校舎を破壊したよね……。君なのかな? 」
そこから陽菜さんの雰囲気が変わる。
あ、やばそう。
返事はしない事にした。
「ガス爆発ですよ」
そう言って頭を掻いた。
いやいや、そんな話はしてないし。




