第八部 渡辺陽菜 第四章
柴吉が道を把握しているみたいで、ぐるぐると追っ手を撒く為に道をあちこち回る。
山側とはいえ、まばらに家はあるし、そういう場所をいろいろと通って追えないようにするつもりらしいが……。
「多分、ついて来ているにゃん」
ミケが身もふたも無い話をした。
「いろいろぐるぐる回っても追っかけているのがプロなら無理だよな」
「プロっぽいにゃん」
「参ったね。私が潰そうか? 」
などと彩が覇王如月らしくて凄い事を言う。
「無理にゃん。相手はプロにゃん。鬼と戦う技量くらいはいるにゃん」
などとミケが言うが。
「やってみないと分かんないでしょ? 」
「例えば鬼と言うものは戦闘のプロで強いものにゃん。<ひとつ>は見逃してくれただけにゃん」
「そうかなぁ? 確かに厳しいとは思ったけど、もう少し私の技量があれば……」
「そういう考えは危険にゃん」
とミケがもっともな事を言うが、正直、レベルの近い<凶>をやり込めてたからなぁ。
言えないけどさ。
それで、俺の表情から柴吉がそれを察してドン引きしていた。
多分、渡辺綱の血筋と同じく、如月彩もまた人間ならば、そういう特殊な血筋なんだと思う。
妖で無いならばだが。
あまりに強すぎる。
あの渡辺綱の直系で三等陸曹まであの年で行っている渡辺香織と互角なんじゃないかと真面目に見てて思った。
「無理なものは無理にゃん! 」
「そんな事は無いと思うけど? 」
「人間は特殊なのを除けば限界があるにゃん! 」
「じゃあ、私は特殊なんだよ」
思わず、小さく頷いてしまう。
それで柴吉がさらに、それに気がついてドン引きした。
「そんなはずは無いにゃん! そういう甘い考えは捨てるにゃん! 」
ミケがそう騒いでいる。
「敵を侮るなかれって師匠には言われているけど、逆に敵は強いから勝てないと言う思い込みも駄目だって教わっているよ。工夫で何とか出来る事もあると」
「それは人間同士の話にゃん! 間違えたら駄目にゃん! 」
ミケが大声で叫ぶ。
「あ」
俺が思わず突っ込んだ。
猫が喋ってんのはまずいよね。
普通に考えても……。
まして、住宅はまばらな山側だし。
「静かにしろ。追われているのじゃろうが」
柴吉が制したが遅かった。
「へぇぇぇ、猫って喋るんだ」
そう声がかけられた。
その瞬間、如月彩が一瞬にして回し蹴りを振りぬいた。
もう、何の脈絡もなく、いきなりだ。
<凶>に支配された溝口有希をいきなり蹴った時のように。
「あーあー、最初に蹴りは駄目だよ。掴まれちゃうから」
その回し蹴りをその言葉の主はあっさりと掴んだ。
何という怪力だ。
足首を掴まれた彩が宙吊りになっている。
相手の身長が175センチくらいあるのもあると思う。
その女性の着ている服がOLさんが着るような黒系のビジネススーツなんで違和感が半端ないが。
だが、そこから一気に掴まれた足を軸に柔術に彩が移行する。
身体を曲げて掴んでいる手の指を掴むとともに、それを支点に一気に腕を取りに行く。
「うわっ、凄いね。君」
そう言うと、目の前で、激しい関節の取り合いが始まった。
まさか、相手はここで柔術に移行すると思わなかったらしくて、適当に彩の足を掴んだのが裏目に出たと言える。
柔術だけでなくて総合もやっているだけあって、彩は動きがスムーズである。
「えええええええ? あのレベルとやれるの? 」
ミケが衝撃を受けてにゃん言葉を忘れている。
だが、どちらかと言うと打撃技がメインの彩は、押されていた。
彩も初手で回し蹴りを使うべきでなかったのだ。
そういう意味で相手を甘く見ていた事はある。
んで、困ったことに相手が女性だ。
女同士の格闘家の戦いになっている。
「凄いね。こんなに身体も動くし、力もあるんだ」
俺をお姫様抱っこして二階の窓から下に飛び降りれるくらいは出来る彩であるから、真面目に超一流のアスリートの身体能力は持っている。
それでも、その女性の方が残念ながら強いみたいだ。
相当柔術をこなしているらしくて、最初は髪でかくしていたが、耳がカリフラワー耳……いわゆる柔道耳だ。
たいして、彩はセンスだけでやっている感じでメインが打撃なんで、一気に畳み込まれてマウントを取られてしまう。
「さあ、どうする? 」
その大人の女性の美しさが溢れる25歳くらいの女性は完全に如月彩のコントロールを奪ってほほ笑んだ。
で、その美人な女性の顔に心当たりがあった。
「あの……渡辺香織さんのお姉さんですよね」
それで俺が聞いてみた。
「え? あの子、喋ったの? 」
などと驚く。
その瞬間、効かないのに下から彩が顔面にパンチを出した。
でも、それは読まれていて、逆に腕を取られて仰向十字固めで極められてしまった。
あーあーあー。
「くそぅ! 腕くらいやるっ! こんな事で負けるかっ! 」
負けず嫌いの彩が激高する。
「いや、だから、その人は香織のお姉さんだって……」
俺がそう言うが腕を極められたままでも、戦う気の彩は止まらなかった。




