第八部 渡辺陽菜 第三章
と言うわけで、柴吉の散歩の感じで柴垣家に向かう。
山の方に入るから、彩がパッと走ってコンビニでパンとか買ってきた。
柴吉はプライドにかけて、ドックフードとか食べないから、ウィンナーを挟んだパンを。
ミケにはカニカマを買って来ていた。
山の方に入りだしたので、人もいないから、普通に柴吉とミケにそれを渡して、俺達もアンパンをパクついた。
そしたら、ミケは喜んだ。
「私はキャットフードの缶詰の高い奴なら良いにゃんが、カニカマも嬉しいにゃん」
などと、あっという間に食べてしまった。
「ご馳走があるかもしれないから、お腹を減らしていくのかと思った」
「いや、出ない可能性も高いにゃん。あの時は爺さんの話で準備していたからだから、そうじゃないのなら微妙にゃん」
「なるほどな」
「なかなかシビアな判断だよね」
大体、その歓迎パーティーも多分、俺が無理矢理参加させられてたら、そうやって逃げれなくする為ものだからな。
「それにしても、なんか大丈夫かな? 少し背中がピリピリする」
俺がそう柴吉とミケと彩に聞いた。
「つけられてるかもしれないにゃん」
人がいないのに、くるりと後ろを向いてミケが答えた。
「その可能性はあるかもな」
「おいおい! 一条覚の手の者につけられてないって言ってたやんかっ! 」
「いや、それは無いと思うにゃん。どちらかと言うと別派閥だと思うにゃん。もしくは政府系のどこかか? 」
「政府系? 」
「別に妖を調べているのは公安だけじゃないにゃん」
「ああ、なるほどな……」
などと俺が納得する。
渡辺香織が自衛隊情報保全隊妖特科とか言ってたな。
あの年齢で三等陸曹にはびっくりしたが。
「何がなるほどなん? 」
「……うーん。本人には言うなよ。記憶が消されているから。渡辺香織が自衛隊情報保全隊妖特科三等陸曹だって」
「はああ? 」
「え? 名乗っちゃったのか? 」
柴吉が驚いた。
「うん。渡辺綱の血筋で渡辺三姉妹の一人って間宮さんも叫んでた。知らなかったらしい」
「公安はこっちよりだけど、自衛隊は人間よりだにゃ。それは厄介な話だにゃ」
「いや、爺さんの手下だろ? 聞いてなかったのか? 間違いなく爺さんの人脈だろ? 」
「危険な事をするにゃ。聞いてなかったにゃ。渡辺三姉妹って相当な手練れにゃん。対妖の人間側の人間兵器の一つにゃん」
「えええ? 改造されてんの? 」
「血筋にゃん。天皇家の血筋である源氏には、まれにああいうのが現れるにゃん」
「そう言えば渡辺綱は嵯峨源氏の血筋だったな」
「人間もああいう存在がまれに出るにゃん。渡辺姉妹はそれが全部姉妹に出た珍しい例にゃん」
「うそでしょ。ズルい。渡辺綱の血筋とか……」
「その時に彩は同じ事を言って悔しがってたわ」
「そうでしょ。反則じゃん」
「いや、巴御前の薙刀があるじゃん」
「まあ、そうだけど」
記憶が無くなっているから、そっくり同じやり取りをした。
竹を割ったような性格だから、言う事が変わらない。
そういう意味で非常に信頼できるのだが。
「まずいにゃん。自衛隊系か、にゃん。意外と荒事が出来る人物が多いんだにゃん」
「結構、竜頭拳とか使って腕を極めて攻撃してたよ。<凶>をね」
「あれとやり合えるのか」
「狂っているにゃん」
いや、如月彩はそれと互角にやってたがと思いつつ言わない。
彩の記憶には無いからだ。
「<凶>? 何、それ? 妖だよね。それにしても竜頭拳? 古流だよね」
「あそこは源氏直系の柔術を使うからな。刀もあるが怪力系だ」
柴吉がそう話す。
「無茶苦茶強いんだよね。まさか、こんな近くに猛者がいるとは。全然気がつかなかった」
「自衛隊の情報保全隊妖特科は妖に気取られないように動くから、全く気配が分からないにゃん。だから、普通の妖からは無茶苦茶怖がられているにゃん」
「妖に怖がられているんなら、相当えぐい事するんだろうな。へぇぇぇ」
などと彩がちょっと嬉しそうに話す。
とてもとても、彩の方が遥かにヤバかったって言えない。
<凶>に乗っ取られていた溝口有希を殺しかけてたし。
「……爺さんから話は聞いてはいないけど、なんとなく分かるのぉ」
などと柴吉が俺の表情から心を察したのかため息をついた。
馬鹿っ!
彩にバレるだろうがっ!
「どういう事? 」
如月彩の声が冷たくなった。
「なんでもない、なんでもない」
柴吉が必死に首を振るが、またしても彩にびょーんと頬を引っ張られた。
俺も彩も柴吉も付き合いが長いからなぁ。
「とにかく、一旦、追いかけられないように道を適当に移動しよう」
俺が誤魔化す意味もあって、彩と柴吉に話す。
逆に言うと、追ってこられて良かった。
話を誤魔化せる。
「それと、渡辺香織には、この話は内緒にしてな。何しろ自衛隊の情報保全隊だからバレたら駄目らしい」
まあ、自分で名乗りを上げていたけど。




