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第一部 柴吉 第二章

 真っ暗な場所に俺がいた。


 何も見えない闇の中にぱっと浮かぶような感じだ。


 あたりは異様な雰囲気だ。


 意外と自分の頭ははっきりしていた。


 まあ、如月彩のおかげで怪我をしていないようだし。


 俺をかばう為に飛び込んできた彩の血まみれになった姿で気絶したと言う恥ずかしい自覚すら残ってた。


 それで真っ暗な中で俺が辺りを見回した。


 そこは何だか懐かしくなるような場所だ。


 真っ暗で異様な雰囲気なのにだ。


 それで、俺が首をかしげる。


「なんだ、ここ? 」


 あからさまに、そこは異世界のような感じだ。


 自分が手を握ったり広げたりして、実際にそうやっているという認識がある。


 夢では無いのかもしれない。


 ある意味、異世界転移ってものがあったら、こういうものになるのではないかと言うくらいの感覚だ。


 まあ、真っ暗な異世界への転移と言うのもあまり聞かないが。


 そんな中でぽつりと着物を昔で言う傾奇者みたいな感じで着た刀を腰に差した凄い美男子の侍が胡坐をかいて困ったものを見るようにこちらを見ていた。


 顔には凄い入れ墨があり、それが異様な迫力を感じた。


 それが暗闇に照明で浮かび上がっているみたいに、ぽつりと真っ暗な中にあった。


 彼は凄い不機嫌な顔でこちらを見ていた。


「あ、あなたは? 」


 俺が思わず聞いた。


 どうも、その不機嫌さは自分に向けられているような気がしたからだ。


 しばらく黙っていたが、その男は立ち上がるとずかずかとこちらに歩いて向かってきた。


 その剣幕に俺が後退りした。


「お前な! 何で、こんな女みたいな姿になってんだ? お前は王だぞ? 分かっているのか? 」


 俺の胸倉を掴んで傾奇者の姿をしていた侍のような美男子が絶叫した。


「いや、そんな事言われても……」


「お前の姿はお前が決めたんだ! 周りの人間の願いもあるだろうが、そんなもんお前が相手にするから悪いんだっ! もう少し何とかしろやっ! 」


 などと絶叫される。


 いや、酷い話だ。

 

 容姿なんて俺のせいと言うよりは遺伝だろうに。


 などと思いつつも言い返せない。


 そんな時に身体を揺らされて目が覚めた。


「あ、ああ……」


 などと目を開ける。


 真っ暗な中で光が差したように感じだ。


 きっと揺さぶっていたのは、いつも心配してくれる如月彩だろう。


 いつだって、彼女はそうやって心配してくれるのだ。


 そう思って目を覚ますと俺は家で寝ていた。


「おお、起きたな」


 などと言っている者を見て死ぬほどびっくりした。


 それは俺が赤ちゃんの時から家にいるらしい柴吉と言う名の柴犬だった。


「は? 」


「いやいや、とうとう待っていた日が来たな。お前がお会いした御方はお前の魂の本来の存在だ。何と言っていた? 」


 などと柴吉が話す。


 俺は固まったままだ。


 柴吉が喋る? 

 

 俺はそんな所は見たことが無かった。

 

 ずっとずっとその柴犬とは仲良しで、彩と会う前の俺が赤ちゃんの時には、まるで兄のように守ってくれていた飼い犬の柴吉である。


「いや、なんでこんな女みたいな姿になっているんだと! お前の姿はお前が決めたんだ! 周りの人間の願いもあるだろうが、そんなもんお前が相手にするから悪いんだっ! もう少し何とかしろやっ! とか怒鳴られた……」


 そう俺が話す。


 その瞬間、周りが見えた。


 そこは俺の家の客間だった。


 どうやら彩が連れて来てくれたらしい。


 客間に二つ布団を敷いて、並んで彩と別々の布団で寝ていた。


 どうやら、二人とも気絶していたらしい。


 もちろん、彩の頭には血の付いた包帯が巻いてあり痛々しかった。


 後で聞くと俺を背負って連れてきて、俺の祖父母に会うとほっとしたのか、そのまま倒れて気絶したらしい。


 問題は、柴吉が俺に話しかけている物音で目を覚ました彩が見ているらしくて、彼女は瞳孔が開ききった顔で固まったまま、じっと目は柴吉を見ていた。


 と言う事は本当に柴吉は喋っているんだ。


「これ、本当の事なのか? 」


「何が本当の事なんだ? 」


「柴吉が喋っている事だよ」


「昔からわしは爺さんと婆さんしかいない時は普通に喋っているが……」


 などと衝撃の告白を聞く。


 横で寝たままでカッと目を見開いていた彩の目がさらにカッと見開いて、その視線は今度は俺の布団の足元の方に向く。


 そこに祖父母がいた。


 それで唖然として俺も祖父母を見た。


 祖父は竹内律蔵(たけうちりつぞう)と言い、祖母は竹内柚(たけうちゆう)と言う。


 ともに赤ちゃんの時から海外に行ったとか言う父母から預かって俺を育ててくれた人だ。


 それで俺と彩とでじっと見ていると祖父母が顔をそらす。


「なるほどな。やはりかぐや姫を育てたいとか律蔵が我儘を言ったのはまずかったのではないか。養う条件で出されて、それを飲んでしまった我らもまずいのだがな……」


 などと柴吉が言う。


「いや、ちょっと用事がな……」


「そうそう、もうこんな時間……」


 などと祖父も祖母もその場を立って客間から出ていく。


「誤魔化した」


 そう寝たままの彩が呟いた。


 中学校に上がる時に、地元の風習で病魔にとられないために、女性として育てたのなら、そろそろ男性に戻すべきではと彩に言われて、いや、あれは単なるお爺さんの趣味でって祖母が笑って答えたもんで、キレた彩と祖父が相当にもめたのだ。

 

 それでも頑なに俺の女装を辞めない俺の祖父母に怒って、男性用の服を買って俺に渡そうと俺の家と家族ぐるみの付き合いがある如月彩の両親に相談したら、あの格好が神楽耶ちゃんには良いのと猛反対されてお金を出してもらえず、そして教師に相談したら、さらに俺の服装を男性に戻すのを猛反対されると言う始末になってしまって、仕方なく受け入れた事を思い出したのだろう。


「やっぱり、本当だったんだ。この女装ってお爺さんの趣味だって……」


「律蔵がかぐや姫のように育てたかっただけだぞ? 」


「やかましいわ、糞犬っ! 」


 彩がブチ切れた。


 正直、目の前で何が起こっているのか俺にはよく分からないで途方に暮れた。

 

 


 

今日だけ、もう一章投稿します

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