第七部 覚 第一章
あれから、間宮さんは来なくなった。
まあ、来ないよね。
退院して家に帰って来たのだが、爺さんもガス爆発で大変だったななどと俺に言う始末。
真面目にガス爆発で家の中の話も終わらせるつもりらしい。
実に徹底している。
盗聴されていても仕方ないから、そうしているのかもしれないが、とりあえず、俺としたらそれに同意するしかない。
退院した時に如月彩とタクシーで高校前を通ったら突貫工事が始まっていたが、信じられない規模で破壊されていた。
自分は意識を飛ばしていたから、何が起こっていたのかよく分からない。
とにかく、<凶>はどうなったのかもボロ雑巾の姿を見て終わっただけで、よくわかんない。
気絶した時に聞こえた話からだが、この突貫工事が天狗の皆さんがコツコツ妖の城を手直しするために必死に貯めていた金だと言う事を聞いてしまい、流石に申し訳なさで一杯である。
こんな奴に妖の王とか無理だよ。
いくつかあちこちで聞く話を統一すると、まず異界の母と祖母が結構主導しているのだと思う。
そして、爺さんがそれを手伝っている。
実はここが良く分からない。
人をカタに嵌めて騙す性格ではあるが、爺さんは世俗の名誉とか気にする人ではない。
妖の王が名誉な事だと言うのは妖共通の認識だとしても、さらに爺さんは妖視点だからだとしても、名誉などに拘る性格ではないのだ。
ただ、何かあるのは間違いない。
何かがあって、俺を妖の王にせざるを得ないのだと思う。
大妖である母親と母方の祖母が何としてもと思っていたとしても、それに同調するタイプでは無い。
だから、訳が分からない。
何かあるのは間違いないのだが。
そして、もう一つ間違いないのは、そんな周りの思惑に俺が乗る気も無いという事だ。
別に俺がしなくてもいいじゃんと言う事である。
なにしろ、鬼達が推すまだ覚醒していない武闘派の妖の王の候補がいるのだ。
そちらがやればいい。
そして、あの暴走した時の話が本当なら、多分、間宮さんは俺の同志になってくれるはず。
柴吉に聞くと天狗とは誇り高い妖の一族で、神のクラスに上がったものも多数いるのだそうな。
ならば、こんな年下の人間の爺さんに凹まされて黙っていられるはずは無い。
問題はノリノリで俺を妖の王にしようとしているかぐや姫様と<婆娑羅>様にはバレないようにしないといけない。
と言う事で、見えないように、こないだそっと渡すつもりでメモ書きを書いた。
俺は妖の王にはなりたくないと書いたところで、俺の身体から手が出てきて、そのメモはバリバリに破かれた。
「お前の考える事くらいわかる」
などと捨て台詞まで言われる。
流石、<婆娑羅>様である。
全然嬉しくないが……。
「当分、間宮殿は会いに来ないであろう」
などとかぐや姫様にまで釘を刺された。
諦めるのを諦めろと言いたいらしい。
さすが、神様である。
すでにこちらの行動を読んでいるとか。
そんなこんなで俺は行き詰っていた。
朝のいつものルーティンで爺さんの入れてくれたコーヒーを飲む。
「今日から神楽耶も学校に行くんだよね」
などと庭から居間の縁側にある身長位の大きな窓を開けて、朝練の済んだ如月彩が入ってくる。
爆発で怪我したと言う事で俺は三日ほど入院していた。
気がついたのは二日後で、次の日は用心にって事で入院してた。
それで昨日帰ってきて、今日の話である。
いつまでも休んでいられないので、今日から学校であった。
表向きは爆発事故とはいえ、結構休んだから推薦は厳しいかもしんないなぁ。
彩が縁側で靴を投げるように脱ぐと、ゴトッと物騒なものを持ち込んできた。
馬鹿でかい巴御前の薙刀だ。
「それ、銃刀法違反にならんのかな? 」
「ああ、間宮さんに特別な許可を公安の方で取ってもらったのよ。一応、神楽耶のガードマンだしね」
などと彩がいつの間にって話をした。
流石に、そんな話は初めて聞いたが。
「ねえねえ、間宮さん来なくなっちゃったね」
などとドキッとするような話をした。
「そうだな。ガス爆発の処理で忙しいんだろ」
だが、その辺りは流石の爺さんだ。
全然に動じていない。
あの後、病院に柴垣誠が来たが、見事に洗脳されていた。
<凶>の件すら、公安が説得して諦めたとか信じられない話をしていた。
妖の情報通なんで、<凶>はいなかった事に出来なかったのだろう。
彩達が隣で不思議そうな顔をしていたが。
恐るべし天狗の神宝。
妖まで記憶を失わさせるとは……。
<ひとつ>さんとかの方も大丈夫なのかなと一抹の不安はある。
そして、柴吉はじっと見ると目を泳がすので、多分、こいつは全部知っていると見た。
どう動くかわからないけど、とりあえずガス爆発は間違いないと思い込もう。
俺に賠償とか無理だし。




