第六部 凶(わざわい) 第九章
あたりは、真っ暗な感じで俺は倒れたままだ。
ぼやっと少しだけまわりの様子が見えてきた。
もやがかかったみたいに見える。
それで、俺の耳に言葉が聞こえる。
「これは無いっ! これは無いですよっ! 大ウソじゃないですかっ! こんな超強力な戦闘特化型の妖なんて見たことない! 」
間宮さんの声だ。
「でも、もう政府に推したんじゃろ? わしの孫を? なら今更取り消しは効かんよな」
「わらわが必ず、この子の凶暴性は沈める。だから安心せよ。わしはこの子を導き続ける」
「いや、かぐや姫様はそうおっしゃいますが……」
「逆に、これからの世界は乱世。ならばこのくらいの妖の王でなければ無理であろう」
「いや、それは<婆娑羅>様の見解じゃないですか」
「どの道、もう推してるんじゃろ? なら政府も動いている。今更、変更できまい」
「くっ、律蔵さんっ! あんた嵌めたなっ! 」
などと言い争いの声が聞こえた。
また意識が遠のいていく。
間宮さんの金切り声がぼやっとする中で聞こえた。
「じゃあ、どうするんですかっ? 県警本部長のお孫さんはボロボロですよっ! 」
「それはわらわが奇麗に治そうぞ。安心せよ。ちゃんとおまけもつけるからの……」
「いや、校舎が真っ二つで、ずっと先の山まで破壊の影響があるんですよ? 」
「それは妖の城の手直し用にお前さんらがプールしてある金があるじゃろ。公安の連中とかで……」
「な、なんで、それを? 」
「それを使えばよかろう。どの道、うちの神楽耶を妖の王にすれば、使う意味は同じじゃろ。城の手直しの金の方もわしがいろいろと考えておるから」
爺さんの猫撫で声で目が少し空いた。
何か騒いでいるようだ。
「記憶はっ! 皆の記憶はどうするのですかっ! 」
「それも天狗の御神宝があるでは無いか? 」
「はあ? 記憶を改ざんしろと言うのですか? 校舎が真っ二つなんですがっ! 」
「ガスの爆発で良かろう。ちょうど怪我人も出ているから、それで誤魔化すと良い」
「先見とか言ってましたよね? かぐや姫様がっ? 全部こうなる事を知ってて、こちらを嵌めているんじゃないですかっ! 我々をっ! 」
「妖の信用にも関わるし、おぬしらの妖の公安の信用にも関わる。ならばここは皆で奇麗に誤魔化したら良かろう」
「悪魔めっ! 悪魔じゃないかっ! 嵌めやがったな! 」
「いやいや、わしは善意で言っておるんじゃがな。信用と言うのは積み重ねるのは大変じゃが、崩れるのは一瞬じゃぞ」
「安心せよ。この童はわらわが必ず妖の王となす。今までで一番の漢に育て上げようぞ」
「わしもちゃんと育てる。これは逸材じゃ」
「逸材なら、こんな事は起こらないでしょ? どうするんですか? 」
「洗脳で良いじゃないか。これは無かったこと。これはあくまで貯まったガスの爆発で起きた悲しい事件じゃ。それで誰も傷つかないじゃろ? 幸い死者はおらんし、有希さんはかぐや姫様が治すし……」
「くそぅ! くそぅ! 悪魔めっ! 」
間宮さんの悲壮な声が聞こえた。
それでちらと目が動いて、目の前のボロ雑巾を見た。
何かある。
ボロボロにされて何か分からないけど……。
ええと……これは……<凶>?
それで意識が飛んだ。
病院のベットで目が覚めた。
ちょうど、溝口有希さんと渡辺香織さんが見舞いに来た。
横にずっと看病してくれたらしい如月彩がいる。
「今、爆発事故から目が覚めたのよ」
などと如月彩が俺の状況の説明をした。
「運が悪かったわね」
などと何事も無かったんのように元気な溝口有希が満面の笑顔で俺に話す。
「どんくさいから、爆発事故で直撃を受けちゃたのよね」
などと渡辺香織さんが話す。
まるで、あの戦いは無かったみたいだ。
「いや、<凶>はどうなったの? 」
などと俺が三人に聞いた。
「は? 」
「何、それ? 」
だが、全員が首を傾げる。
全員に記憶がないらしい。
奇麗にかぐや姫様が治したらしくて、溝口有希さんはコロコロと笑っていた。
それと、かぐや姫様がおまけだと言っていたものが分かった。
溝口有希は巨乳に変わっていた。
おいおい、どんなおまけだよ。
そう、心で突っ込む。
「……校舎は……」
「しばらく、旧校舎で授業するみたいよ。ガス爆発で真っ二つだもの」
「クレーターみたいになっているから、良くそんな場所で、これだけの怪我で助かったわね」
などと俺の質問に香織と有希が答えてくれた。
「そうか……そんなに被害が……ガス爆発の……」
とりあえず、俺も知らなかった事にしよう。
仕方あるまい。
とりあえず、俺も皆と同じで記憶が無い振りをすることにした。
そうしないと、間宮さんとかに会わせる顔が無いや
弁償なんて無理だしなぁ。




